第4話 新しい風の精霊
音乃は逮捕されて、裁判が行われた。
有罪判決。彼女は懲役の実刑を受けることになった。
わたしは異世界に通って、姉を探しつづけている。
三角岩以外の目印となるポイントが増えて、行動範囲はしだいに広がった。
消えてしまった六人の精霊を再び見つけることはできなかったが、まだまだたくさんの精霊がいて、歌っている。
素晴らしい歌が多い。わたしは何度もうっとりと聴き惚れた。
わたしは姉のように異世界に住もうとは思わなかった。
魅力的な世界であることは認めるが、誰ともコミュニケーションが取れないのは寂し過ぎる。
生活の根拠地はあくまでも元の世界だった。
大学を卒業し、わたしは会社員になった。
姉のマンションの部屋は「おまえが自由に使いなさい」と父から言ってもらえて、わたしのものになった。
休日、必ずと言っていいほど、わたしは風の精霊たちの異世界に通った。
草原に生えている野イチゴなどは食べないようにした。わたしたちの世界から持ち込んだ飲み物と食べ物を摂った。そうしないと、異世界から戻れなくなるような気がしたから。
異世界に通うこと、五年目。わたしはついに姉を発見した。
飯野聡里は風の精霊と化していた。
身体が半透明になり、正座して、風の歌を歌っていた。
それはまちがいなく姉のオリジナルの曲だったが、どこか飯野家を思わせる懐かしさを含んでいた。
姉さんはいまでもわたしの家族だ、と思った。
彼女は完全に精霊化していて、わたしのことを気にもしない。
それでもわたしは姉の前に座って、いつまでも懐かしい風の歌を聴いていた。
風の精霊の音楽 みらいつりびと @miraituribito
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