百合バーガー挟み始めました。
翌日、マサキは夕方六時に目覚めた。頭が重く、体の節々が痛い。厨房は荒れ放題だ。だが、ミミズのような字で書かれた「百合=ハンバーガー」のメモを見て、彼は昨日の思い付きが夢でもなんでもなく、達成すべき現実であることをはっきりと理解した。顔を氷水で洗い、少し横になり、シャワーを浴び、また横になって体調がましになってきたところで、マサキは冷静に計画の骨組みについて検討し始めた。
まずバンズに名前を付ける。黒髪ロング長身おっとり系の子が上のバンズ、つまりマイだ。金髪ショート強気系の子が下のバンズ、シオン。パティはバンズに、頼み込む。「僕を君たちの具にしてくれませんか?」と。G・Bならばもっと直截に、「Join Me(俺を挟め)」と言うかもしれない。そうしてめくるめく妄想に浸っているところで呼び鈴が鳴った。客かと思い、慌てて接客用のシャツに着替える。入口を開けると、右目を髪の毛で隠した青年が、俯きながら店の前で待っていた。青年の右手首から人差し指には、茶色のテーピングが巻かれていた。
「ごめんなさい、今日ちょっと休みにしようと思って……」
マサキがそう言うと、青年は狼狽えた。左手でスマートフォンを操作し、思いつめた表情で何かを調べている。ハンバーガーを食べに来た客とも、喧嘩を売りに来た百合厨とも思えなかった。
「あ、いやごめん気のせいだった。ちょっと時間かかるけど、それでよかったら入って」
「ほんとですか! よかった……!」
観光で来たのかなと考えながら、準備に取り掛かる。パティのソースは余りがあるから問題はない。生地もある。野菜を切ってないから、その分の時間がちょっとかかる。いや、そう言えば、じゃがいもの処理を何もやってない……! これは思ったより時間かかるぞと真顔になり、せっかく来てくれたのだからお代はなしでいいものを食べてもらおうと振り返る。青年は、電話で誰かと話していた。小声でぼそぼそと話す表情は暗い。テーブルの上に置いた拳は強く握られている。そうして、電話は切れた。
「あの……やっぱ帰ります」
「え? いやいいよお金いらないから食べてってよ」
「ちょっと用事ができて……絶対、絶対にまた来るので、その時はお願いします」
深々と頭を下げ、黒のリュックをかついで青年は早足で去っていった。
一人取り残されたマサキは、ひとまず青年のことは忘れることにした。それよりも、問題は百合バーガーだった。残された時間は、あと三ヶ月。その時までに、最高の百合バーガーを作ってみせる。筋トレも、はじめなきゃいけないな。百合コンテンツに触れる時以外でこんなにも魂が震えているのは、はじめてのことかもしれなかった。
※こちらは『Alt + コンクリートジャングルの原住民』に載せる『バーガーナイズド・ユリ』の試し読み版となります。
※『Alt + コンクリートジャングルの原住民』は11月23日の文学フリマ東京で頒布します。反響があれば、カクヨムで連載します。
HP : https://altplus.herokuapp.com/
作者Twitter : @haizawa28
『Alt + 』Twitter: @Altplus_bungaku
バーガーナイズド・ユリ @Altplus
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