百合=ハンバーガー!

 マサキは厨房の冷蔵庫から瓶ビールをあるだけ取り出した。無性に、飲みたい気分だった。彼がアルコールに手を伸ばすのは、頭がこんがらがって、自分の考えを整理できなくなった時だけだった。

 そもそも、『ゆるキャン△』も、『野外露出サークル略して野クル』も、どちらも等しく、百合であるはずなのだ。なのに、なぜわかってもらえないのか。コップにビールを注ぎ、飲み干す。百合に正しいも正しくないもないはずで、あるのは上手いか下手かだけだ。確かに、いきなり野外露出の話をしたら面食らうのは当然かもしれない。そこはわたしが悪い。だが、『悔いなき戦のために』だって、自分が今まで慣れ親しんできているからという理由以上に、確実に、百合であるはずなのだ。戦争で引き裂かれる二人の少女の友愛。そこに割り込もうとする男……。ほんのちょっと、男がペニバンをつけていて、しかも白川先生が作画の本気をペニバンの方に向けているだけの、話じゃないか! 瓶の一本目が空になり、次に手を出す。酒のペースが、段々と早くなってきている。誰も彼も、「男が挟まる」ことを執拗に毛嫌いしている。「多様性と調和」の百合ンピックの精神はどこに行ったんだ、百合子! 百合子と連呼しながら、三、四本目の蓋を開けた。意識がぼやけて、机に突っ伏しそうになる。だが、マサキは今日の組合で受けた理不尽な対応を思い出した。そして、これまで自分が無視してきた中傷メールのことを思い出し、そしてそれ以上の悪意が、顔も見たことのない白川先生に向けられていることを思った。白川先生が参加できない百合ンピックなど、百合ンピックではない。あんなに、素晴らしい百合をお出ししてくれているのに! 挟まりたいと心から思える百合を、描いてくださったのに! 

 マサキは三リットル分のビールを腹の中に収めていた。これほど飲んだのは、はじめてだった。明日のハンバーガーの仕込みはろくにできないだろう。休むか……。その時、彼に天啓が下りた。それは、彼にしかできない、すべての百合に挟まりたい人々を救済するための、壮大な計画の第一歩だった。あちこちに体をぶつけ、書き物を探す。ようやく伝票を見つけ、マサキはその裏面に「百合=ハンバーガー」と等式を書いた。「★ハンバーガー秘伝のレシピ★」で百合ンピックに殴り込み、世界に百合に挟まりたいものどもの欲望を認めさせる。目標は、優勝。それしかない。最高の「百合=ハンバーガー」で、すべての百合厨をわからせてやる。ビールを頭から被り、マサキは笑った。そういえば、最後に笑ったのは、いつだっただろう? 孤独な酒宴は、空が白くなるまで続いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る