第4話 11月7日夜
この日のために、奏佑はずっと前から計画を練っていたらしい。飾り付けもケーキも、全て奏佑が手配したもので、しかも料理は奏佑の手作りなんだって。ピアノの腕は日本一で、勉強もできて、料理も得意。こんな完璧な彼氏がこの世界に奏佑を置いて一人でもいるのなら教えてほしい。
ちなみに、奏佑は僕と二人で僕の誕生日を祝うために、今日は家族には外食に行って貰っているらしい。どこまでも手の込んだことをしてくれるよ。そんな奏佑が僕に送ってくれた誕生日プレゼントは、制服の下に着るセーターだった。しかも、奏佑とお揃いだ。
「これから寒くなるから、毎日これ着て学校に行こうな」
奏佑はそう言ってくれた。制服の下にこっそりペアルックを隠しているとか、考えただけでもニヤニヤしてしまうくらい嬉しい。だが、体育の時間に着替える時、僕らがペアルックであることがバレる可能性があることに僕はふと気が付いた。奏佑はそれでも一向に構わないらしい。
「他のやつらが何て言おうが、俺の可愛い律と同じ格好でいられる幸せの方が圧倒的に勝っちゃうよ。それに、どんどん俺らの愛の絆をやつらに見せつけてやればいいんだ。羨ましがられるぜ、きっと。俺と律くらい完璧なカップルは他にいないだろうしな」
「その自信はどこから出て来る訳?」
僕は苦笑しながら尋ねた。
「何だ、律。お前は俺との関係に自信がないのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・」
「なら、堂々としていればいいんだよ。男同士だからなんだ。俺は律のことが好きだ。男とか女とか、そんなこと関係なくな」
「そう・・・だよね。うん」
「そうだよ」
僕と奏佑は抱き合ったままキスを交わした。
「それはそうと、俺の誕生日なんだけど・・・」
奏佑が少しはにかんだ様子で僕に言った。
「12月10日。約一ヶ月後だよね?」
「なーんだ、知ってたのか」
「知ってるよ。奏佑の誕生日は、僕にとっても大切な日だからね」
僕は奏佑の旧友である
でもさ、奏佑みたいに、こうやって話の流れでさらっと誕生日の話できるの、いいよね。僕、少し誕生日のこと大袈裟に考えすぎていたみたいだ。祝ってほしければ、祝ってほしいって正直に言えばいいんだ。奏佑はそのせいで機嫌を悪くするようなことは絶対ないし、もっとその辺のことは甘えちゃっていいのかもしれない。とはいえ、僕は今でも結構、奏佑に甘えちゃっているけどね。
そんなことを考えていると、急に僕は奏佑に思い切り甘えてみたくなった。
「ねぇ、奏佑。十六年前に僕が生まれた時の格好になってもいい?」
「は? どういうこと?」
奏佑は僕の言っている意味がわかっていないらしい。
「奏佑の部屋に行こ」
「お、おう。いいけど、俺の部屋でどうするつもりなんだ?」
「いいから。お願い、連れて行って?」
「何だかよくわらかないけど、じゃあ、ついて来い」
奏佑と一緒に奏佑の部屋に入った僕は、火照った身体と奏佑を欲する猛烈な欲望のままに服を脱ぎ始めた。
「なーんだ。そういうことか。律の表現はいちいちまどろっこしいんだよ」
そう言うと、奏佑も自分の服を脱ぎ始める。僕と奏佑は全裸になると、抱き合ったままベッドに倒れ込んだ。
「律、今晩はえらく積極的だな」
奏佑が僕を突き上げながらそう言って僕の頭を優しく撫でた。
「だって、僕が欲しいものは欲しいってこと、奏佑に直接言ってもいいんだなってわかったから」
僕は荒い息をしながら答えた。
「じゃあ、お前の欲しいものって何なのか、声に出して言ってみろよ」
「・・・奏佑だよ」
「この野郎、可愛いこと言いやがって!」
奏佑がますます激しく僕を突き上げて来る。
「奏佑、好き」
「律、好き」
僕らは愛の言葉を交わしながら、熱く情熱的で、尚且つ幸福感溢れる、この僕・霧島律の十六歳初日の夜を過ごすのだった。
ああ、奏佑と一緒に見ることになっていたテレビ番組はどうなったかって? お察しの通り、奏佑が僕を呼び出すために適当に作った嘘だった。ま、今夜はテレビなんか見るより、奏佑と抱き合っていたいから、番組がなかった所で別に大した問題じゃないんだけどね。
ハッピーバースデー ひろたけさん @hirotakesan
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