第52話 そしてショウガの山となる
「次の三枚の護符のうち、二枚は偽物だ。本物はどれだ?」
「ぜ、全部同じに見える……」
「よく見ろ。ここの模様が逆さになっているだろ。このシンボルは正位置だと神聖を表わすが、逆になると不吉な意味になる」
「え? じゃあこっちは? 同じシンボルなのに逆さになっているじゃない」
「同じじゃない。もっとよく見ろ。ここの線がはみ出しているだろう? これは違う意味を持つシンボルだ」
オアシスを後にして王都に戻る旅路にて、荷馬車に乗ったマリスが隣に座るヨハネスにねちねちといびられていた。
「まったく。神官職試験を受けようという者がこの程度の問題もわからないなんて!」
「くぅっ……」
「身の程知らずとはこのことね! ホーホホホ!」
「なんで急に悪役令嬢口調!? 私がアルムの王道ヒロインだから!?」
アルムはベンチに座って荷馬車の横に浮きながら、ヨハネスの授業を受けるマリスを見守っていた。
試験が近いというのに誘拐されてしまい、この四日間勉強ができなかったマリスのためにヨハネスが教えているのだが、何故かお互いにいがみ合っているようだ。
「おのれ!王道ヒロインに勝てないからって陰湿な嫌がらせを!」
「はあ? 試験に受かりたいって言うから教えてやっているんだが?」
アルムはベンチと荷馬車を浮かせて移動させながら、「このふたりって仲悪かったっけ?」と首を傾げた。
***
一ヶ月後、見事に初級神官試験に合格し、見習い神官となることが決まったと、マリスから手紙で報告を受けたアルムは自分のことのように喜んだ。
「マリスも大神殿で暮らすのか~。パワハラされたらちゃんと相談するように言っておかないと」
自身のパワハラ体験を思い出しながら、アルムはぽんっと手を打った。
「そうだ! まだまだ寒い日も続くし、引っ越し準備で忙しくなるマリスが風邪をひかないように、ショウガを送ってあげよう!」
友人の合格にハイテンションになったアルムによって、ダンリーク家の庭には屋根より高いショウガの山ができたのだった。
【書籍化】廃公園のホームレス聖女 荒瀬ヤヒロ @arase55y85
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