重厚なホラーアドベンチャーを体感せよ!

 当作のメインジャンルはホラーであり、娑輪馗廻(シャリンキエ)という教団が生み出す怪異との戦いを描く物語です。


 ある日、3人の青年は異常な文字が羅列され、不気味な呪詛が唱えられ続ける異界に迷い込む。その中で、幾度となく繰り返される『娑輪馗廻(シャリンキエ)』の言葉。ただただ不気味で、それでいて全てが異質。
 襲いかかる脅威を前に彼らはどう立ち向かうのか。その中で明かされる真実は、運命として個々に絡みつくしがらみとなっていく。


 私がこの作品について言えることはシンプルに「ふたつ、ふるまうはなむけの」まで読んでもらいたいという一言に尽きます。


 娑輪馗廻の放つ呪詛とも言える言葉の数々は、一定の法則に則って字で読者も、登場人物達も追い詰め、怖がらせていきます。
 この呪詛の文章のクオリティは、あなたを引き込んでくれること間違いなし!
 しかも、敵がハッキリしたのなら後は倒すだけと、知識と準備を整えて勝ちに行くある種の霊能バトルに突入していくのですが、勧善懲悪な敵と味方の立ち位置の簡素さもあって、上記の作品の細さに反して意外と難しいことを考えないでサクサク読めるスマートさまで兼ね揃えているのです。
 そして、それらの積み重ねてきた文章が物語として真に盛り上がる瞬間まで読んで見てほしい! そういう意思を持って改めて「ふたつ、ふるまうはなむけの」まで読んで欲しいと言わせてください。
 

 あと、補足ですが、シンプルにキャラクターの作りも上手く例えば主人公とも言える百舌鳥ヤマトは一言で言えば暴力刑事なものの、二枚に裂けた舌を持ち、故に滑舌が悪く、関西出身のその関西弁のせいで何を言っているのかわからないこともあります。ですが、その舌による味覚が現状を読み解く独自の第六感として活躍する、といった人物です。
 それでいて、暴力的な行為だけでなく法の番人である刑事として時として起きる問題を冷静に解釈し、行動に移すところから、もしかしたら現実に彼がいるのかもしれない、そう思わせる地に足のついた作りが巧妙です。
 そういった細かな設定と行動の重ね合わせがどのキャラクターにも完備されており、読者を楽しませてくれます。
 私はこの部分にも惹かれました。特に味方と言える主要人物はみんな大好きです。

 長文になりましたが、当作はヘビーなようでどこか軽い、故に最後まで読めてしまう良質なホラー小説です。
 エログロが激しい部分こそありますが、それらが平気ならひとまず読んでみてはいかが?

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