本作は“ねぶらま”と呼ばれる怪異に取り憑かれた主人公の丹村乗が、それを振り払わんと立ち向かうところから始まる。
とにかくこの敵の正体が分からない。だから、あらゆる手で“ねぶらま”にまつわる伝承や民話を集め、答えを探していく。
しかし、そんな“ねぶらま”は、毎夜のように乗に不穏な電話や扉を叩く亡者の呻き声などを通して追い詰め、ひたすらに乗を追い詰めてくるのだ。
であれば、
敵の正体はなんなのか?
そもそも“ねぶらま”とは何に由来する言葉なのか?
そんな答えを追い求め得ていくことになるのは必然であろう。
だが、得られるのは、遠い過去の因習、現在の被害者、狂う人間達等など、ただただ薄気味悪い情報だけ。
これにより、登場人物も読者も揃って嫌な気分にさせられてしまう。
ならば、この作品のホラーとしてのキモは間違いなくここだと言えるだろう。
そうして、親友である白草八尋の手をも借り、ついには刺青による魔避けを仕る霊能者まで協力。
“ねぶらま”の正体へと近づいていくのだが……
そんな導入から始まるこの物語は、それだけでは終わらない。
なんといっても、この作品の魅力は主人公である乗と八尋の関係性にあるだろう。
話の途中、主人公は乗から八尋へと移り変わる。
そう、部外者であるはずの八尋の視点を通して、
何故彼は”ねぶらま“と立ち向かうのか?
という叙情を読み解くことになるのだ。
ただ恐怖を描くだけでは終わらない。
人間ドラマを以て、読者を引き込んでいく。
それが“ねぶらま”である。
総じて本作は、『知る』ということの恐怖、そしてそれでも立ち向かわんとし続ける人間の叙情を書いたホラー小説として非常に心を惹きつけてくる魅力を持つ。
ならばもう捻りなく、
「面白いホラーを読みたい!」
という心を刺激する渾身の一作だ。