チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【28】お姉さんの願い【なずみのホラー便 第115弾】

なずみ智子

お姉さんの願い

【問題】


 千歳さんには一歳年上のお姉さんがいました。

 平凡な能力値の千歳さんと違い、お姉さんは成績優秀、スポーツ万能、その他のことにも優れに優れ、そのうえ大変な美人でもありました。

 幼い頃より、何かにつけお姉さんと比較されることが多かった千歳さんですが、卑屈になってしまうどころか、素晴らしいお姉さんのことを心から自慢に思っていました。

 お姉さんは当然のごとく、男性にもモテモテです。モテないはずがありません。

 小学校、中学校、高校、そして大学生となった現在もお姉さんの周りには、我こそがお姉さんを愛し、守り、大切にせんとする男性がたくさん控えていました。

 まさに皆のお姫様とも言えるお姉さんですが、ある日、千歳さんに漏らしたことがありました。

「いくら好きでもない人たちに思いを寄せられても困るだけだわ。たった一人でいいから私を愛してくれる人がいれば、それでいいのに」

 千歳さんは、お姉さんの願いを叶えるために、本格的な魔術の本を血眼になって探しました。

 そして、人外の存在を呼び出すことに成功しました。

 お姉さんの願いは叶えられました。

 お姉さんの周りに控えていた男性たちは、まるで潮が引くようにサーッといなくなり、その代わりにお姉さんに釣り合う素晴らしい男性が、つまりは王子様が現れたのです。

 それなのに、お姉さんは浮かない顔です。

 不思議に思った千歳さんは、ついうっかり自分が行った魔術をお姉さんに話してしまいました。

 それを聞いたお姉さんは激怒しました。

 あの優しかったお姉さんが千歳さんに平手打ちを食らわせ、それきり口もきいてくれなくなりました。

 さて、お姉さんが激怒した理由は何でしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : うーん……これはきっと、お姉さんは人の心を魔術でどうこうするなんてあってはならないと思う人だったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : すると、現れた王子様……お姉さんに釣り合う素晴らしい男性ですけれども、お姉さんはその人のことが好きになれなかったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。お姉さんは、この男性のことも何とも思っていないわ。


キクちゃん : ……となると、お姉さんには他にずっと好きな男性がいて、その人にだけ振り向いて欲しかったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : それなら、どうしてだろう? うーん、うーん……


チエコ先生 : 悩んでいるキクちゃんに、特大ヒントをあげるわね。これは超特大ヒントよ。「本音と建前」という言葉はキクちゃんも知っているわよね。問題文中の「いくら好きでもない人たちに思いを寄せられても困るだけだわ。たった一人でいいから私を愛してくれる人がいれば、それでいいのに」というお姉さんの言葉は本音だったと思う? それとも……


キクちゃん : ということは建前だったんですね?


チエコ先生 : YES。……いくら血を分けた姉妹相手とはいえ「いろんな男の人に愛し守られ、ちやほやされている今の状況がたまらなく好きなのよ。私はずっと皆のお姫様でいたいの」と言うのとのどちらが、一般的な好感度が高いのかが分からないお姉さんではなかった。


キクちゃん : つまり、お姉さんの願いはもうすでに叶っていたんですね。お姉さんは王子様ではなく、騎士を求めている人だった。それも複数の騎士を……。それなのに妹がいらぬお節介を焼いて、お姉さんの周りにいた騎士たちを遠ざけてしまったんですね?


チエコ先生 : YES。正解よ。


キクちゃん : うーん……お姉さんの本音は、正直ヤな感じなんですけど、別に悪いことをしているわけじゃないですもんね。何にも頼らなくても、男性にモテモテだったということは、お姉さんがそれだけ魅力的な女性なのはゆるぎない事実ですし。


チエコ先生 : ……そうね。お姉さんはまだ若いし、モテモテのお姫様状態を楽しんでいたんだと思うわ。でも、皆、年はとっていくものだし、いずれはその考えも変わっていたかもしれない……千歳さんに感謝することになっていたかも。でも、お姫様状態のまま一生を送る女性だっていないわけではないと思うし、もしかしたらお姉さんは”一生涯、皆のお姫様”という少数派に属していた女性なのかもしれないわ。それはもう、確かめようのないことだけどね。



(完)

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チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【28】お姉さんの願い【なずみのホラー便 第115弾】 なずみ智子 @nazumi_tomoko

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