第3話理事長・天童刃
「……生徒とは認めていないとは、そのままの意味で受け取っていただいて構わない。今、新入生として迎えられる気持ちで座っているかもしれないが、あなたたちはまだ仮の生徒でしかない。入学するための最後の試験を受ける権利を手に入れたに過ぎない、そう理解していただきたい」
天童は完全に空間を支配している。言葉は人々の頭の中で何度も繰り返され、もはやざわつきすら起きていない。
信じられないという、嘘であってくれという数百の目が天童を貫いているが、やはり意に介していない様子で今度は全体を見回して不気味な笑みを浮かべている。
唐突に知らされた真実にもはや怒りも沸く余裕すらなくただひたすらに天童の次の発言を待つしか無かった。
(何なんだ、どういうことなのかさっぱりわからない。生徒じゃない?そんなことってアリなのか?それよりも最後の試験ってなんだ…?考えれば考えるほどわからない、理不尽にもほどがあるだろ…!!)
拳斗も状況が呑み込めないのは当然のこと、頭の中は混乱状態に陥っていた。運よく滑り込んだ高校で追い打ちをかけるように最後の試験など到底突破できるはずもないように思えたからだ。そんな心中を見透かしたように天童はさらに続ける。
「今、あなたたちは理不尽だと思っただろう。聞いていない、そんなのは無しだと思っただろう。しかし世の中は理不尽な事ばかりだ。およそ社会のほとんどの部分は理不尽で構成されている。社会に出てから、あぁ、世の中はなんて理不尽なんだ、不幸だと嘆いていても誰も助けてはくれない。もし助けてくれる人間が現れたとしたらその人間こそ疑うべきだ。人間の本性は鬼だ。世の中に無償の愛など存在しない。公平な取引も存在しない。誰かが喜ぶということはその裏で涙を流す人間が一定数いるということだ。本校は社会に淘汰される側の人間も搾取される側の人間も必要とはしていない。たかだが学力テストごときでいい点数を取って満足しているような小市民も必要とはしていない。本校に入学を希望するならその運と実力でつかみ取るしかないのだ」
あまりにも強烈な天童の言葉は一切の反論を許さない圧倒的なもので、少なくともその場にいるものはただ受け入れることしかできなかった。
天童はまた少しの間を置いたため、凍り付いていた新入生は少しずつ隣と顔を見合わせたり、俯いたり、頭を抱えたりと動きを見せるようになったが、口を開くものは一人もいなかった。
(何なんだ、何なんだ、何なんだ!校長がやけに勝ちとか負けとか言ってたのはこういうことだったのかよ!それにしてもこうなった以上やるしかないのか?最後の試験とやらに仮にも落ちたらその時点で即不合格?ここまで来たのにそんなのあっていいはずないだろ!いやしかし、よく周りを見ると頭を抱えてるやつは確かに多いように見えるが、もうすでに切り替えて次の試験のことを考えていそうなやつもちらほらいるな…。そこは流石私立緑山高校に仮にも入学を認められた人間ということか…。もうどうしたらいいかさっぱりわからねぇよ!こうなったら試験でもなんでもやってやるよ!ちくしょうっ!)
拳斗が思考の波に飲まれてもうやるしかないと覚悟を決めたとき、壇上の電気が消えスクリーンが降りてきた。必然的に壇上に起こっている変化に一同は目を奪われた。スクリーンが最後まで降りて、気が付くと天童はスクリーン脇にマイクを持って移動していた。
「それでは早速、最後の入学試験の内容を説明する」
スクリーンが落ちるまでの時間などで少し落ち着きつつあった緊張感が一気に高まった。拳斗にしても心臓が痛いくらい強く拍動し、息がしづらいような感覚を覚えるほどだった。全員がスクリーンと天童を交互に見ている。
そして遂に最終試験の内容は発表された。
「今からみなさんに行っていただくのは、『国取りじゃんけん』です」
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