第2話散漫

 入学式が遂に始まり、まずは学校長の挨拶が始まった。


 (こういう挨拶は進学校だろうとどんな学校だろうと同じようなもんだな、この調子だと入学式全体は30分くらいか…)

 

 拳斗はどこにでもある、ありふれた退屈な式辞に飽きたのか再び周りの生徒に目をやって暇をつぶすことにした。


 (どいつもたいして話なんて聞いてないだろうな)

 

 寝てる生徒も出始めたのを見てさすがに拳斗も呆れた気持ちになったが、その間も校長の話に耳だけは傾けていたので、時々聞こえてくる怪しい単語が気にはなりながらも早く時間がすぎないかとボーっとしていた。

 

 「――この学校で勝ち残るためには――。――頭を使って――、えー……」

 

 (勝負とか、運とか勝ち残れとか、頭を使えとか……。ここはスポーツ科の高校かよ…)


 校長の式辞が終わり拍手が起こって一度全員の視線が壇上に向かったが、またしばらくして各々時間をつぶす方向へ思考が向かっていったようだ。


 

 式も最後になり、理事長からの式辞が始まろうとした。

 上級生の雰囲気が一段とこわばった感じがしたが、拳斗含め新入生は何が起ころうとしているのかはまったく分からないのは当然であり、長かった式の最後である旨がわかり伸びをしたり、ようやくかといった様子で少し騒がしくなった。

 

 「新入生の皆さん、理事長の天童刃てんどうじんです」

 

 拳斗はまず式辞においておめでとうという趣旨の発言を冒頭でしなかったことに引っかかったが、上級生からでる緊張感と理事長の天童という人間の、性別はおそらく男であるが、長髪に容姿端麗であり、その実年齢を推し量ることのできない容貌と不敵な笑みを浮かべている雰囲気が場を圧倒していて新入生にも伝播した。

 

 「当高校、私立緑山高校はあなたたちを未だ生徒とは認めていない」


 その声はよく響き、体育館全体にこだました。

 

 一瞬の静寂の後、当然一同は理解できるはずもなくざわつき始めた。上級生は固唾をのんで見守り、天童の発言により新入生(仮)になってしまった人たちは近所の人と顔を見合わせて次の天童の言葉を待っている。


 会場全体の視線がほぼすべて天童に向いている。その視線には不安、恐れ、疑心、怒り、様々なものが込められていたが、天童は怯む様子もなく目を瞑り、場の空気を支配していることに酔っているような様子で依然不敵な笑みを浮かべている。


 拳斗も会場の雰囲気にのまれて自然と体に力が入りこわばった。


 天童が沈黙していたのは時間にしておそらく30秒もないほどであったが、生徒の緊張や不安を煽るには十分すぎる時間であった。

 

 永遠にも感じるその30秒の後、天童は再び口を開いた。


 


 

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