じゃん!けん!ポン!
@ore_strawberry
国取りじゃんけん編
第1話 入学
「じゃんけん」それは誰もが経験したことがあるであろう遊びである。子供の頃から鬼ごっこや缶蹴りなど様々な遊びをするにあたってその一番の基礎となる鬼を決める行為に必要不可欠な第一の関門。決闘。
その他あまりにも多くの事柄を「じゃんけん」によって決められてきた。
一見あまりにも公平、誰もが平等にチャンスがありえるように思えるその行為。
もし必勝できる人間がいるのなら、その拳には神が宿っているだろう。
「今日から拳斗も高校生だね!」
「……」
「制服も似合ってるよ!うん!一緒の高校に入学できて本当によかったね!」
「………」
私立緑山高校。最寄り駅から桜並木の一本道を歩いた先の小高い丘の上にある高校。その入学式当日。真新しい制服に身を包んだ初登校の朝、入学式の開式の時刻にはまだ少し早い時間。何やら浮かれない顔の男子生徒と男子生徒の制服姿に目を輝かせている女子生徒の姿があった。
「拳斗、せっかくの入学式なんだからもっと笑って??」
「あずさはいいよなぁ、眉目秀麗、才色兼備これからの学校生活なんの心配もないもんなぁ」
「そんなことないもん!私だって結構不安なんだよ?」
「はいはい、そうですねぇ」
「もう、怒るよ??」
何やら言い争ってはいるものの仲のよさげな会話を繰り広げながら、まだ人の少ない校内を式の時間まで探索して時間をつぶしているようだった。
拳斗とあずさは幼馴染で、気の置けない仲である。言い争いや喧嘩もよくあることだが、お互い本気でないことを理解しているし、二人でいるのは取り繕う必要がなく気が楽なのである。
拳斗はところどころに掲示されている部活の勧誘ポスターを見ていよいよ高校生なんだとようやく実感がわいていると、妙な違和感を感じた。
「なぁ、あずさ。この学校の部活の勧誘のポスターなんかおかしくないか?」
「どこが??」
あずさは去年改修されたばかりの新しいきれいな校舎に夢中でポスターのことなどほとんど気にしていない様子だった。
私立緑山高校は創立50周年になる歴史のある高校だが、その50周年記念に合わせて施設の大幅な改修工事を行い国内でもトップクラスの施設となったため、元々ある学力も相まって今年度の入学試験はかなりの倍率になっていたのだった。
そのためお世辞にも学力が高いとは言えない拳斗が緑山高校に入学できたのはあずさにしてみれば奇跡といってもいいものだったのだ。
「あずさ、そろそろ体育館に行こう。式に最初から遅れたくはないからな」
「そうだね、うん。入学したんだし校内散策はいつでもできるもんね」
目的もなくふらふら歩いていた足を止めて二人は入学式が行われる体育館に向かった。
体育館に到着すると、学校に着いたときにはほとんどいなかった新入生が嘘のように席を埋め尽くしていた。
新入生はおそらく300人だったはずだが、体育館には500人は超えていそうな人数がいたので、上級生も参列しているのだろうかと拳斗は考えていると、腕に腕章をつけた生徒に声をかけられた。
「新入生ですね?」
腕章をしているところを見るとおそらく生徒会の係の人間だろうか、体育館の席が大きく図示された紙をたくさん抱えていてそのうちの二つを渡してきた。
「これは体育館の席順です。新入生はあらかじめ交付されている学生証の番号に従って席が決められているのでプリントで席を確認して着席してくださいね」
そう言い残して他の体育館に続々と入ってくる新入生のもとへ向かっていった。
「拳斗の席はどのあたり?」
席を確認すると拳斗の席は新入生の中では後方にあたる場所だったが、あずさは前から二列目だった。
「席、結構離れたみたいだな」
「そうだね-、残念。じゃあ式が終わってから合流ね!」
「そうだな、また後で」
残念と言いながらもいよいよ始まる入学式への興奮が抑えられないのかスキップでもし始めそうな勢いでプリントに示された自分の席へ向かっていった。一人残された拳斗は人混みに紛れて見えなくなるまであずさの背中をながめてから、
(俺も席へ向かうか…)
席へ着くとまだ5分ほど開式まで時間があった。拳斗は前方のあずさの席へ目を向けるともうすでに隣の席の人と仲良くなったのか楽しそうに会話している様子だった。
新入生は壇上に対してアリーナ席になっているが参列をしている上級生と思われる生徒たちは二階の席で新入生を取り囲むように座っている。
(まるで上級生に監視されているみたいだな。それにしても新入生の方が和気あいあいとしてて上級生の方が緊張しているように見えるのは気のせいか…)
上級生はなにやら周りの生徒と新入生をちらちら見ながらコソコソ話していたり、沈黙を守っていたり、冷静に周りを見れば上級生の方が緊張しているような様子であるのは明らかであったが、実際にその様子に気が付いている新入生はほとんどいなかった。拳斗は違和感を感じたが特に気にせずに周りの様子を見ながら開式を待った。
「――式を始めます、まだ着席していない生徒は速やかに席についてください。式を――」
いよいよ式が始まる頃になり会場が静まり始めると、全体の空気が少しずつ変わっていった。
校歌の歌詞が入っていない曲が流れ始め、壇上に教員や校長、来賓などが登壇し、ついに入学式が始まった。
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