第9話開票、そして沈黙

 遠くでカチッという音がして壇上の電気が消えた。再び視線が前方に集まる。次の瞬間スクリーンが煌々と光出し、結果発表というたった四文字の非情な文字を映し出した。


 誰もがこの時を待っていたが、同時に今になって結果を見たくないという曖昧な感情を抱いていた。今までも凍り付いたような空気になったり緊張感が高まったことはあったが、これまでとは比べ物にならないほど会場は緊迫していた。すぐ隣の人の心臓の音が聞こえているのか自分の心臓の音が聞こえているのか分からなくなっていた。


 スクリーンに映し出されていた結果発表の文字だけの画面が切り替わり、グー、チョキ、パーのカードが横並びになった絵が映し出された。それぞれの下には四角く囲われた空白があり、今は何も記されてはいないが後にそこに投票数が開示されるのだろう。進行役の生徒がマイクをコンコンと手のひらでたたき電源が入っているかを確認する音が響いた。

 

 「これより、投票結果の発表に移ります。スクリーンにご注目ください」


 実際は体感の五分の一程しか経っていないのだろうが、時間の流れがとても長く感じる。進行役の生徒の発する一音一音が残響にように長く頭の中を支配する。


 (俺たちが出したのはパー。グーとチョキよりも多い数が出れば勝ち。たったそれだけ…!頼むっ…!)


 進行役の生徒はポケットから紙を取り出した。おそらくそこに結果が書かれているのだろう。取り出した紙は四つ折りにされていた。それを丁寧に開いてからゆっくりと、一文字一文字丁寧に読み上げた。


 「グー。3票。チョキ。9票。パー。288票」

 

 結果はパーの圧勝。当然パーを出した全員が勝ち残る事になる。しかし、会場内には喜ぶ者の姿はどこにも無かった。


 「繰り返します。グー。3票。チョキ。9票。パー。288票です。繰り返します。グー…」


 全員が素直に喜べないのは至極真っ当な思考故だった。グーとチョキの合わせて12票は無所属グループの人間の票だということは容易にわかる。無所属グループでも偶然パーを出すことも理解できる。が、しかし、結果はあまりにも不自然。全く起こり得ないかと言われればそうとは言い切れないものの不自然極まりない結果となった。


 つまり結果が示しているのは無所属を除く、五つの国すべてがパーを出したということなのだ。喜びよりも驚きや動揺といった感情が勝るのも理解できよう。


 「投票で負けた方は速やかに退場をお願いします。第二回投票に移るため、投票に負けた方は速やかに退場を願います。もし退場しない、抵抗する場合には係が強制的に退場させますのでご理解をお願いします」


 会場はスクリーンに映された第一回投票の結果に未だ釘付けになっていたが、悠長に驚愕の感情に浸っていることは許されないらしい。進行役の生徒は結果を発表してものの数十秒で次の行動を示した。


 投票で負けた12人はついてないとしか言いようがない結果となった。後方の出口に向かう敗者たちは肩を落とし足取りもおぼつかない様子だった。勝ち残った生徒もあまりの惨状に誰も目も向ける事ができない。また、実際に退場していく人間を見る事で、ゲームの投票一つで不合格になるという非現実的な少し浮ついた感情が、いよいよ次は自分かもしれないという恐怖心に変化していった。一回で大人数が負けるような結果であればまだ負けた側も勝ち残った側もある程度想定された事態として受ける衝撃は和らいだかもしれない。しかし、今回の結果は全員の不安や緊張を無闇に煽る結果となった。


 脱落者の退場は速やかに、そしてあっけなく行われた。


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