第6話国の誕生

 投票までの時間は残り15分。拳斗とあずさは未だに二人固まっていたが、周りは着実にグループを大きくしていた。一番大きいグループでおよそ50人。グループがグループを吸収し、肥大化を続けていた。


 「拳斗、そろそろまずいよ。私たち取り残されちゃったらいよいよ何もできずに終わっちゃうよ…」


「わかってる。だけどまだだ、もしこの中のどこかのグループに入るとして、おおよそグループが固まった段階で入りたい。じゃなきゃ途中で抜けるなんてできる空気じゃない上にそんなことをしたら裏切り者のレッテルを貼られかねない。一回目でこの試験を抜けられなかったことを考えると周りからの不評を買うのも得策とは思えない」


 「確かにそうね、今は我慢するしかないわね…」

 

 あずさは不安を隠しきれていないが、今はそうする以外ないということも頭ではわかっているらしい。拳斗も不安がないわけではないが、安心するためにグループに飛びつくよりも、迂闊に動くべきではないと理性が歯止めを利かせていた。


 そして投票時間まで残り10分。ついに会場に形成されたグループは度重なる吸収を重ね、大きく5つのビッググループに分裂した。新入生のいる一階アリーナの四つの角と中央に一つグループが位置している。拳斗とあずさのほかにもまだパラパラと一人もしくは二人程度のグループに属していない人間もいるが、おそらくこれ以上このビッググループ同士での吸収は行われそうにないところまでに達していた。


 「あのー…。まだ国に入っていないようでしたら僕たちの国に入りませんか…?」


 拳斗は周りの状況を観察するのに必死で自分が話しかけられていることに気が付かなかったが、あずさに腕を引っ張られて意識が目の前の事象へと引き戻された。話しかけられた側に体を向けるとそこには小柄で細身のまだ中学生のような見た目の少年が立っていた。


 「クニ…ですか…?あの、あなたは?」

 

 あずさの問いかけに自分があまりにも不親切な問いかけをしてしまっていたことに気が付いたのか慌てて説明し直した。


 「あの、すいません!僕は室井周むろいあまねって言います!それで、あの、今5つに分かれているこのグループのことを国取りじゃんけんになぞらえて僕たちのグループでは国って呼んでるんです。僕たちの国は壇上に向かって左下の角に集まっています。よろしければどうぞ、参加してください」


 室井の言う国は5つに分かれている中で最も大きい国だった。人数にしておよそ80人。拳斗とあずさにしてみれば願ってもないありがたい誘いだった。あずさは拳斗の顔をちらっと見てどうしようかと伺っているが、その顔はもう入ることを決めている顔だった。どこのグループにも知り合いなどがいない以上、人数でしかグループを判断できないため、最も大きなグループに参加できるのは正直助かる誘いだった。室井の誘いを断る理由もないため拳斗とあずさはありがたく国に参加することにした。


 「ありがとう、俺たちも今困ってたんだ。喜んで、入らせてもらうよ。俺は高野拳斗たかのけんと。拳斗って呼んでくれ。こっちは井上あずさ。よろしく頼む」


 「よろしくね!私のこともあずさでいいからね!」


 「大歓迎だよ!じゃあ僕たちの国に行こうか」


 こうして残り7分にしてようやく拳斗とあずさは国に参加することに成功した。まだどこにも属していない生徒もいるが、今無所属の人間はもうどこにも属する気がないようにも見える。


 (今、どこにも属していない人間は置いておくとして、現状5つの国に属している人たちで争うことになるのか…。本当の勝負はここからか…)


 拳斗は室井とあずさの背中を追いながら本当の闘いはここから始まるという予感をひしひしと感じていた。


 

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