第38話

 アリスとブルーノはフィアマの火山島を後にして、王宮に向かった。


 港に着き、船を下りると近衛兵が一人、駆け寄ってきた。

「ブルーノ様、アリス様。お待ちしておりました。お怪我はありませんでしたか?」

「まあ、多少は。だが大丈夫だ」

 ブルーノはアリスを見つめ微笑んだ。

「王子が王宮でお待ちです」

 近衛兵が言うとブルーノは頷いた。

「分かった」


 近衛兵の後について、ブルーノとアリスは王宮に向かった。

 王宮の前には、8名の近衛兵に囲まれたレイモンド王子が立っていた。

「よくやったな! ブルーノ、アリスさん! これでもうフォーコにおびえる必要は無いな」

 レイモンド王子にアリスが答えた。

「そうですね。誰かが島に入り封印を破らなければ、フォーコがよみがえることは無いと思います」

 アリスはそう言うとブルーノを見つめた。


「それで、この先アリスさんとブルーノはどうするんだい?」

 ブルーノはアリスを抱き寄せて、レイモンド王子に言った。

「俺は……アリスさんさえよければ、このまま一緒にエルバの森のそばの家で生活したいと思っている」

 アリスは目の前にあるブルーノの顔を見つめ、戸惑っていた。

「嫌か?」

 自信なさげな目をしたブルーノに、アリスは答えた。

「私も、今の生活を続けられれば……嬉しいです」

 アリスは顔を赤く染め、ブルーノに言った。


「それじゃ、二人は結婚するんだね」

「……えっと」

「アリスさん。こんな俺で良ければ、共に生きていかないか?」

「……はい」

 アリスの顔に笑みがこぼれた。


「それじゃ、褒美は何が欲しい?」

 レイモンド王子の言葉に、ブルーノは難しい顔をした。

「急に言われても思いつかないな。アリスさんは?」

「私も思いつきません……」

 レイモンド王子は二人の答えを聞いて、ちょっと悩んだ後に言った。

「エルバの町で二人の結婚式ができるように手配をしようか?」


「おいおい、俺はこんな姿なんだぜ?」

 ブルーノは両手を挙げて首を横に振った。

「私も、目立つことは……避けたいです」

 アリスはブルーノの後ろに隠れるように一歩下がった。

「分かった。なるべく質素な式にしよう」

 レイモンド王子は兵士達に指示を出した。


「それじゃ、二人ともお幸せに」

「まったく、自分勝手な奴だな。レイモンド」

 ブルーノが苦笑いしながら言うと、レイモンド王子は綺麗な笑みを浮かべた。

「馬車の用意ができたら、エルバの森に帰りたいのだが……ここにいると何を頼まれるかわかったものじゃない」

「おや、人聞きの悪いことで。報償もちゃんと用意しているから持ち帰るように」

 レイモンド王子から渡された革鞄には金貨が詰め込まれていた。


「こんなもの、いらないよ」

 ブルーノが断るとレイモンドは言った。

「持っていて困る物じゃ無いだろう?」

 アリスも言った。

「私たちには……多すぎます」

「そうか? なら町に寄付すれば良い」


 レイモンド王子の言葉を聞いて、アリスは言った。

「そうですね。それなら、頂戴致します」


「そうだな。それでは、また会おう。レイモンド」

「ごきげんよう」

 アリスとブルーノは馬車でエルバの森に帰って行った。

「忙しい旅だったな、アリスさん」

「ええ。でもこれで皆、安心して暮らせますね」


 旅を終え、アリスとブルーノはエルバの森の小さな家に戻ってきた。

「アリスさん、これからもよろしく」

「ブルーノ様、こちらこそよろしくお願いします」

 ブルーノは少し考えた後に、言った。

「アリスさん、これからは呼び捨てにしても良いかな? 俺のことはブルーノと呼んでくれ」

「分かりました。ブルーノ様」


 ブルーノは笑った後、アリスの髪を指でとかしながら囁いた。

「アリス、ブルーノと呼んでください」

 アリスはブルーノの大きく毛だらけの手を両手で包んだ。

「はい……ブルーノ」

 空を見上げると、月が綺麗に輝いていた。


 二人がエルバの町で結婚式を挙げたのは、その翌週だった。

 ブルーノの姿を見て町人たちは驚いたが、アリスの説明を聞くとブルーノの姿をあたたかく受け入れた。

「おめでとう、アリスさん、ブルーノさん」

「ありがとうございます、皆さん」

「まったく、これで地味にしたつもりなのか? レイモンドの奴は」

 町中に音楽が溢れ、中央広場にはご馳走が並んでいる。


 アリスとブルーノは町中から祝福を受け、はにかむような笑顔を浮かべていた。

「それじゃ、そろそろ帰ろうか」

「ええ」

 アリスとブルーノは、町外れの森の家に手をつないで歩いて行った。



 

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植物と話のできる令嬢は気持ち悪いと婚約破棄され実家から追い出されましたが、荒地を豊かな森に変えて幸せに暮らしました 茜カナコ @akanekanako

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