第37話

「アリス、港の方に黒い雲が立ちこめている。急ごう!」

「はい!」

 アリスとブルーノは港に向かう足を速めた。


「……おや? アリスの気配がする。それと……妙な気配がもう一つするねえ」

 暗闇がアリスとブルーノに迫ってきた。

「くっ。何て魔力だ」

「ブルーノ様、私の背中に隠れて下さい」

 アリスが前に出ようとすると、ブルーノはアリスの肩をぐっと引き寄せて耳元で囁いた。

「俺は大丈夫だ、アリス」


 ブルーノは鞄を開けて、中から何かをとりだした。

「これを着けてください」

「ペンダントですか? なんて大きなオパールなの!?」

 ペンダントを着けるとアリスの周りの空気が浄化された。

「以前、異国のマーケットで魔除けのペンダントと言って売っていたんだ。高価だったが……この威力なら本物のようだな」


 ブルーノが歩き出そうとすると、目の前の黒いもやが急に晴れた。

「!!」

「ひさしぶりだね、アリス」

「フォーコ!!」

 フォーコは以前よりも鋭い目をして、アリスとブルーノを見比べた。

「おや? 今度は獣人を連れてきたのかい?」

「……ああ、俺は獣人になった。試してみるかい?」

 ブルーノは剣を抜き、フォーコに斬り掛かった。


「ふん、雑魚が」

 フォーコがブルーノの剣をひらりとよけた。

 ブルーノは体勢をかえ、もう一度フォーコに斬り掛かる。

「私に剣は効かないよ!」

「そうかな?」


 ブルーノは剣でフォーコの腕を切った。

「くっ」

 フォーコの動きが少し鈍くなる。

「アリスさん、水晶の涙を! はやく!!」

「はい!!」


 アリスは水晶の涙をフォーコに向けると呪文を唱えだした。

「……そうはさせないよ!!」

 フォーコは大きな火球を作るとアリスに向かって投げた。

「危ない! アリスさん!!」

 ブルーノは火球とアリスの間に入ると、両手で火球を受け止めた。

「くっ……」

 毛皮の焦げる匂いが立ちこめる。


「ブルーノ様、逃げて下さい!」

「いいえ、このくらい大丈夫です」

 ブルーノは火球をフォーコに向けて押し返した。

「ちっ、獣人ごときに跳ね返されるなんて……。ちょっと本気を出そうかね」

 フォーコは呪文を唱え始めた。


「アリスさん、また攻撃される前に……」

「ええ!! ブルーノ様」

 アリスは呪文を唱えた。

「インフェルノ!!」

「同じ手にはかからないよ!!」

 フォーコが逃げようとしたタイミングで、ブルーノはフォーコに斬り掛かった。


「そんな剣、大したことないね」

 フォーコは笑いながら、剣を跳ね返した。

 ブルーノが一度ひくと、フォーコはアリスに駆け寄った。

「アリス、今度は覚悟しな!」

 ブルーノはフォーコの背後に回ると、水晶の涙をフォーコに向ける。


「インプリズン!!」

 アリスが呪文を唱えると、水晶の涙からいくつもの光の筋が放たれフォーコにまとわりついた。

「その呪文は!! ううっ……体が……ちからがぬける……」

 フォーコが膝をつき、うなだれた。

「フォーコ、今度こそ封印します!」

 アリスが詠唱を続けると、フォーコの体に光の糸がまとわりついていく。


「あ、アリスさん!!」

 突然、アリスの背後の岩がいくつか砕け、剣のように尖りアリスの心臓を狙って飛んできた。

「死ぬのはお前だ、アリス」

 光の中から、フォーコの声がした。

「アリスさん! フォーコを封じて下さい!!」

 

 ブルーノは飛んでくる岩を砕きながら、アリスの背後を守った。

「フィナーレ!!」

 アリスが唱えると、輝いていたフォーコは小さな水晶の涙に取り込まれた。

 水晶の涙は、黒く淀んだ色に変わっている。

「……これはフィアマの火山島へ封印しましょう、ブルーノ様」

「ええ、アリスさん」


 アリスはそう言った後、倒れてしまった。

「アリスさん!?」

「すこし、力を使いすぎたようです」

 ブルーノはアリスを抱きかかえ、水晶の涙を鞄にしまった。

「アリスさん、城に戻りますか?」


 ブルーノの質問にアリスは首を横に振った。

「封印の儀式は、私にしか出来ません。もう少しです。頑張ります」

 ブルーノは動かせる船と、兵士を探し、アリスと一緒にフィアマの火山島へ移動した。

 

 島に着くと、アリスは以前フォーコが現れた場所の奥にある洞窟に入った。そして、魔方陣を書くと、その中央に水晶の涙を置き、土で埋めた。

「ここなら、人が来ることはめったにありません。安全でしょう」

 アリスが立ち上がった。そのとき、パンッと軽い音がして、アリスは倒れた。

「アリスさん!?」

 アリスの背中には、小さな石が食い込んでいた。


「アリスさん! しっかりして下さい!!」

 ブルーノは石を取り除いた。

 アリスの背中には小さな痣がのこっている。

「……ブルーノ様……? あ、ペンダントが割れている……!?」

 アリスの胸元に光っていた、オパールの欠片が足下で輝いている。

「フォーコの魔法が残っていたようですね。……ペンダントを渡して置いて良かった」

「ブルーノ様……ありがとうございます」


 オパールの欠片を小さな土の山の上に置くと、アリスとブルーノはレイモンドの待つ王宮に帰っていった。

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