天啓がもたらす秩序に抗うならば

典型的ならぬ天啓的とは? となるタイトルがもうフックがありますね。あらすじから何となく現代日本かと思ったら、なにやらただならぬ関係の女性たちが出てきて、これは……? と思っている間に事件が。

 久比貴による宣言で、二人の会話がどんな光景のもとで行われていたか分かった瞬間はゾッとしました。そして『小さな幸せ』と神の導き、何かによって支配されている女性しかいない村。いったいこの奇妙な世界はなんなのか?

 ジャンルがSFなので、察しが良い方は気づいてしまうかもしれませんが、村の正体が分かった後と、その未来のなさ……。

「不幸と幸福の押し付け合い」という葛藤と、先がない世界への絶望、読んでいるこちらが絞め殺されそうなほどの閉塞感から、主人公・花南が取った選択のカタルシスは苛烈なほどまばゆかったです。

 作中で述べられる『小さな幸せ』が彼女たちの神によってもたらされるものなら、幸福と不幸の分配は、「神を共有資産としていかに分配するか」という葛藤とも読めるんですよ。架空の社会をテーマにしたもの凄く好きなタイプのSFです。

 そういう世界観で、キャラクターの名前が古風なのも好みでした。たとえば「遠止美(をどみ)」は普通に考えると「澱み」のこととも考えられるのですが、貢ぎ物によせて天皇をことほぐ祝詞「出雲国造神賀詞(かむよごと)」の一節にまったく同じ文字と読みが登場します。

 これは私が単に深読みしすぎただけという可能性もあるのですが、そういう部分も含めて凄く良いんですよ……。

 また、「女でありながら女を誘う」という言葉に「この村は女性しかいないなら、それが普通じゃないの?」と思っていたら、ミスではなくそれもちゃんと伏線だったというのが脱帽です。非常に尖った作品で面白かったです!