第19話

「撫でていい?」


「もちろん」


 優しく私のお腹をさするウィル。


「あっ、笑っている」


「まだ、笑ってないわよ」


「ボクにはわかるよ。うーんと、未来が楽しみだって、特に煉獄祭が楽しみだって」


 ウィルがウソを言うところは見たことがないけれど、こういうのはウソになるのか、それとも魔法使いであるウィルにはわかるのか。どちらにしても、私は幸せだ。


「ふふっ、来年はもっと凄い花火上げるから」


「むむ、ボクだって今度はドラゴンの花火を上げるんだから」


「ふふっ、それは凄いわね。私は次もハートやお星様、ケーキも上げてみようかしら。あっ、そうよ、今度はいい香りがするなんてどう?」


 私たちの結婚式の日は煉獄祭と名付けられた。前半は粛々と神様への感謝と、自分の罪や悪さなどと向き合い、その後私たちをモチーフにした劇を行い、最後には盛大な祭を行う。


 そこで、私とウィルの魔法で盛り上げるのだが、特に花火が盛り上がる。結婚式の当日も、私たちはみんなへのお礼にたくさんの花火を打ち上げた。最初ウィルが普通の花火を上げていて、それをみんなが見入っていたけれど、私は少し工夫しようと思ってハートや、星形、笑い顔などを夜空に打ち上げてみたら、みんなとても興奮してくれた。嬉しくなったから、音符の花火を打ち上げて、さらに爆発音も少しアレンジしたらみんな目をキラキラ輝かせてくれた。


 ヒュルルルルルルッ・・・バンッ!!


 あの時心の底から私は笑えた。

 なんだろう、いつも魔法を隠していなきゃいけないって、思いながら生きて来たせいなのか、隠し事があることに負い目を感じていたのか。


 わからないけれど、私は思いっきり、魔法を使ったし、大きなはじける音がストレス発散にぴったりだった。

 そんな発想が無かったウィルはたいそう悔しがっていたから、私は言った。


「案外なんでもできちゃうよりも、できないで妄想している方が楽しいものよ」


 我慢していた自分に向けた言葉だったかもしれない。

 ウィルは人前には現れず、マイペースに魔法を使っていた。

 だから、魔法の使える喜びは私よりも少ないに決まっている。


「私が、一番・・・幸せだぁっ!!!」


 ヒュ~~~~~~~~ッ・・・・・・・・ドッカンッ


 赤に黄色に、緑に青。オレンジにムラサキに白。

 いろんな色がエンブレスに降り注いだ。


 結婚式の日、私が偽りの炎で死んでいたら、本物の煉獄の炎に焼かれることなく天国に行けたかもしれない。

 でも、天国にはこんな風に刺激的かことがあるかもわからないし、こんな風にはしゃいでいられないかもしれない。


 そして、何より―――


「踊ろうか、ミーシャ」


「はいっ」


 ウィルがいる。

 

 こんなに魔法を使ってはしゃいだら、死んだときにもしかしたら神様が私やウィルを煉獄に落として、煉獄の炎が

私たちを焦がすかもしれない。その時はウィルが言うように神様になってでもウィルを助けたい。


(ん? なんだか、ウィルみたいな考え方になっちゃったな)


 とりあえず、この人の世界と魔法の世界を楽しもう。

 そのためにはやっぱりみんなには笑っていて欲しい。

 それが神様の秩序を乱す行為だとすれば、私は悪女だろうし、神様の子である人々を幸福に導いたとすれば、聖女。

 

 人も神様も気まぐれに私を裁こうとするならば、私は私らしく生きてこう。

 悪いことをする気はないけれど、時には人を傷つけることもあるかもしれない。

 でもきっと、ちゃんと反省すれば、あの炎はやり直しを認めてくれる炎だから。

 私もあの炎のように罪を赦して、幸せになるための背中を押していきたい。


 最後の審判の時まで。

 

 大好きなウィルと新たな命と共に。


 

 fin

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婚約破棄は許しましょう。でも元魔法少女だからって、煉獄の炎で火あぶりの刑って・・・。それ、偽物の炎ですよ。 西東友一 @sanadayoshitune

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