ヘンマルとトレスヴィア Henmar on Treswÿr
昔々
強く勇敢で
彼はすべての村人から信頼されていた
特に
非常にヘンマルを好いていた
トレスヴィアは美しく優しく、
海のごとく青い目をもっていた
程なくしてヘンマルはトレスヴィアと恋に落ちた
彼らは晴れた日には草原に出て
雨の日には洞窟で語らった
彼らの絆は日増しに強くなっていった
しかしある星の明るい夜に
この若者が信頼を置いていた予言者が
ただならぬ予言をしたために
ヘンマルは不安にかられた
「お前が愛する乙女は
お前たち2人ともを恐ろしい死へと導くだろう
もしお前が彼女を愛し続ければ
その運命は避けられない
人が想像しうるいかなる動物よりも
残忍で血に飢えた怪物が
トレスヴィアとヘンマルを引き裂き
彼らの心臓をひとさしするであろう」
それを聞いていたヘンマルは言った、
「予言を実現させるものか!
私が怪物と戦うその時のために
鋭い剣を鍛えよう
そしてそれで怪物の喉を斬ってやろう」
彼は家へと急ぎ、鉄の塊を取り出して
剣を鍛え始めた
冷たい鉄が火の中で溶けるのを見ながら
彼は精錬中の鉄に命じた:
「おお、重い鉄よ、我が友よ、
私はお前を剣にする
私はお前を叩き、鍛えよう
そうすればお前は闇を砕く剣となるのだ
それがどのような怪物であっても、
竜より恐ろしいことはなかろうから。
竜殺しグルガラスよ、我らの希望の光になってくれ」
かくして武器は完成した
硬い魔物の肌を切り通すにたる
鋭さを誇るその剣は、
月明かりのもとに輝いた
村人たちはトレスヴィアとヘンマルの仲を喜んでいた
しかし村の外れに住む魔女は別だった
彼女も密かにヘンマルを愛していたが
邪悪で悪賢かったためにヘンマルは彼女を嫌った
魔女は年老いて醜かったが
彼女は魔術でそれを隠していた
その心は朽ち果てていた
その不快な真の姿と同じくらいに
言うまでもなく彼女はトレスヴィアを妬み
トレスヴィアがいなくなってほしいと願った
見た目だけはとても美しい魔女を
ヘンマルが愛してくれるように
ある日魔女はトレスヴィアを家に招いた
彼女はトレスヴィアに一緒に食事をしようと言った
その顔に浮かんだ笑顔は
悪意を隠すための仮面だった
彼女は茶の中に薬を一滴加えて
トレスヴィアをヘンマルが恐れるものに変えてしまおうとした
魔女の邪悪な行いに気づかずに
トレスヴィアはそれを飲んでしまった
翌日村は混乱に陥っていた
7頭の羊と
3人の子供と男女一人ずつ
そして乙女トレスヴィアが姿を消したからだ
ある男は蛇のような生き物が
こうもりのような翼で森から飛んでくるのを見たと証言した
彼によれば、それは炎の息で犠牲者の命を奪ったあと
薄暗い森に帰って行ったという
ヘンマルは深く悲しみ、怒りに打ち震えた
彼は馬と剣を用意して
怪物を討伐しに森へと向かった
トレスヴィアがまだ生きているかもしれないという希望を抱いて
彼は森で青い竜を見た
とぐろを巻いて湿った地面に横たわっていた
竜は頭を上げて侵入者の方を向き
4本の足で立ち上がった
「お前が、」ヘンマルは叫んだ。
「お前が人々と、私のトレスヴィアを殺したのか?
私はお前の息の根を止めるまでお前を許さない、
お前が死んだ芋虫のように地に倒れ伏すまでは!」
グルガラスはヘンマルの声に応えて閃き、
竜の心臓を刺し貫いた
千筋の涙を流す海のように青い目が、
どうして獣のものでありえただろうか
竜殺しの剣グルガラスが貫いたのは
竜に姿を変えられた乙女だったのだ
彼女は恐ろしい外見を持つはずだったが
魔術は彼女の美しさを隠しきれなかった
「私はなんと愚かなのか!」ヘンマルは言った、
「どうしてこの目を見て君だと気付かなかったのだろう?」
彼は絶望のうちに竜の頭を揺り動かしたが、
彼女はすでに息絶えていた
ヘンマルは涙を流して言った、
「このように恐ろしい罪を犯したからには、
私もトレスヴィアの後を追って死に、
それを償おう。
グルガラス、竜殺しよ、
真に責めを負うのは、
人の悪意がどのような獣より恐ろしいという皮肉に
気づかなかった私なのだ
お前が影を砕くものなのであれば、
この罪深い男をトレスヴィアのもとに連れて行ってくれ」
このようにしてヘンマルも死んだ、
竜の亡骸の上に横たわり
最期に舌と唇の間から
乙女の名前を呟きながら
フィラクスナーレ:神話・伝説・民話・伝承 中野智宏/トルミス・ナーノ @TormisNarno
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。フィラクスナーレ:神話・伝説・民話・伝承の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます