第9話 おいしさ

「ごめん、いい写真撮れなかったな」


 俺は、画伯の為にシュークリーム屋に寄って、写真を送信する。


「これ、クッキーシュー?」


「うまそうだろ?」


「うん」


 画伯の弾んだ声が聞こえる。だけど、すぐにふと空でも見上げているんじゃないかという、しょんぼりした声が返ってくる。


「タピオカブームが終わったら、タピオカ屋さんはみんなどうするんだろうね。シュークリームブームがきたら、みんなシュークリーム屋になるのかな?」


 なんだか、想像できてしまう。そうか。流行って、飲食店と同じなんだな。あるいは、音楽業界もそうなのかも。


「あのさ、俺、この前ライブで聞いたんだけど」


「リク、音楽好きだもんね」


「音楽も、今はダンス音楽とかEDMっていうジャンルが流行ってるらしいんだけど。海外ではそんなことなくて。国内だけなんだよな。これは、海外で流行したジャンルが日本に入ってくるからなんだって」


「そうなんだね」


 どこまで本当なのかは、知らないけれど。まあ、EDM強いよなって話だ。


「それで、別のジャンル音楽は、ベースとなる音楽や自分の作曲スタイルは変えずに、EDMでよく使われる電子音を取り入れたんだってさ。ランキングに入ってる音楽がポップスだろうが、ロックだろうが、アイドルだろうが、何かしら音でEDMっぽさが入ってるんだとよ」


 画伯が真剣に答える。


「自分の作風に流行りを入れるってことだよね。上手くできた強いと思うけど。それって、妥協に繋がらないかだけ心配だよね。僕は、ラブコメだから悪役令嬢とかそもそも登場させられないし。取り入れるといたらハーレムとか、ラブコメなのにざまぁとか? かなぁ?」


「取り入れられるんなら、そうした方が絶対にいいと俺は思うんだけど。ただ、あとは好き嫌いの問題かもな」


 そう、俺たちの課題。流行が好きになれない。これは、ずっとついて回るものなんだろうな。でも、画伯に俺はシュークリームを送る。今度はアマゾンの欲しいものリストにでも入れてくれたら、送ってやるつもりだ。ラーメンもタピオカもたまに食べるとおいしい。流行って、みんなが好きなものは飽きやすい。でも、無難においしいものなんだな。きっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

書籍化できない僕らの歩み 影津 @getawake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ