最終話 新しい冒険


〜〜マワル視点〜〜


 

 1周間が経った。




ーー中央広場ーー


 俺とアイアは、店長からソフトクリームを受け取った。



「新作です。感想聞かせてください」



 店長は満面の笑みを見せる。


 新装開店したソフトクリーム屋の看板には【ブーメランソフト】と書かれていた。


 うーーん。

 なんか凄い名前だなぁ。


 アイアが色々聞いてきたけど、とりあえず知らない素振りをした。


「マワルさん。見てください! このソフトクリーム、三日月状の果物が沢山トッピングされてますよ!!」


 本当だ……。

 なんだろう、これ?


「あは! 美味しい! これは蜜柑、こっちは林檎。これは梨ですね!」


「ふむ。これは美味いな」


 なかなかいけるぞ。癖になる味だ。

 トッピングされた果物の酸味がハジマール牛のソフトクリームとよく合うんだ。

 いくらでも食べれそう。


 でもこの果物。なんで三日月状なんだろうな?


 あ、もしかしてこれ!?


「ブーメランか!?」


 店長に聞いてみることにした。


「へへへ。ブームですよブーム!」


「なんのことだ?」


「旦那の功績は王都に響いていやすぜ。見てくださいよ」


 指差す方を見ると、子供達が広場で走り回っていた。

 その手にはブーメランを持つ。僕も私もと、ブーメランを取り合う。

 いつもの公園の風景のようだが、それにしてはブーメランで遊ぶ子供がやけに多い。


「いまやブーメランが王都の流行りになってるんですよ!」


 うーーん。そうなるのかぁ……。


「ですから、あっしもそのブームに乗らしていただいたって訳です」


 ま、ちょっとやりすぎな気もするけど、みんなが喜んでくれてるならいっか。

 

 それにしても隣りの屋台が気になるな。

 なんか増築してるみたいだけど?


「なぁ店長。隣りに作ってる屋台はなんなんだ?」


「ええ。実はオムレツ屋を作ろうと思いやしてね!」


「ふーーん」


「オムレツをグイ〜〜とひん曲げまして、流行りに乗ろうかと」


「ははは……。それもブーメランかよ」


「店はうちの家内にやってもらおうと思っているんです」


 そう言って奥さんを紹介してくれた。


「あなたがマワルさんですか! この度は本当にお世話になりました!!」


 奥さんはペコペコと頭を下げる。


「ソフトクリーム屋だけだと正直厳しかったんです。でもこの人がお客の為だとかなんとか言いましてねぇ。男の人って現実を見ないところがありますよねぇ」


「ははは、そ、そうなんすね」


「ですから、貴方が出資──」


 と言ったところで店長の止めが入った。


「よさねぇか!」


「あら、私ったらつい。おほほ! 申し訳ありませんでした」


 おいおい。もう勘弁してくれよな。


「へぇーー。マワルさんってこの人達に何かお世話したんですか?」


「し、知らん知らん」


 やれやれだな。


「オープンの際は旦那にも必ず来て欲しいと思っています」


「ああ。必ず行くよ」


 ま、喜んでくれてるなら良しとしますか。


 俺とアイアは久しぶりにギルドに行ってみることにした。





◇◇◇◇

 


ーー緑のギルドーー



「なんか懐かしいですね。しっかり復旧工事も終わってますよ」


 なんか、えらい人だかりだな。

 行列なんて珍しい。


 受付は人で溢れかえっていた。

 その隙間から受付嬢の顔が見える。

 受付嬢は俺の顔を見るや、受付ブースから飛び出して来た。


「マワルさん! もう大変なんですよ!」


 彼女は人をかき分けて俺と話す。


「えらい混雑だな。依頼でも殺到してんの?」


「入団希望者ですよ。みんなこのギルドに入りたいんです」


 アイアは笑った。


「このギルドはマワルさんが所属してますからね。人気があるのは仕方ないですよ」


「違うんです。それだけじゃないんですよ」


 受付嬢は冒険者の紹介状を見せた。

 依頼主に配る宣伝用の物だ。


「見てくださいよ、これぇ」


 そこには、けん玉、コマ、ハリセン、ピコピコハンマーを得意とする冒険者達が記されていた。


「これ全部、守護武器?」


「そうなんですよ。ユニーク守護武器の人達ばかりです」


「そうか! マワルさんがブーメランだから、ユニーク守護武器で冒険者を諦めていた人達に火がついたんだ!」


 受付に並んでいる女は受付嬢に怒った。


「ちょっと! 早く受付してよね。こっちは朝から並んでいるんだからさ」


 その人の首には大きなフラフープが掛けられていた。


 やれやれ、とんでもないブームが来たもんだな。


「ひぃーー。直ぐ行きますんでお待ちください!! マワルさん。責任とってくださいよ!」


 そう言われてもな。

 がんばって仕事をしてくれとしか言えん。


 まぁ、後でソフトクリームでも奢ってやるか。


「今日は俺達の冒険どころじゃないな」


「ですね」


 俺達が帰ろうとすると、モドリ村のナガイさんが見慣れない甲冑を着て立っていた。


「よう。マワル!」


「あれ、ナガイさんどうして? それにその格好??」


「ふふふ……」


 ナガイさんはピカピカに磨いた鎖鎌を見せる。


「俺の守護武器だ。どうだカッコいいだろう?」


「うん。いいね! それにしてもえらく手入れしてんだな」


「ふふふ。今日がデビューだからな」


 デ、デビュー??

 その格好からしてもしかして!?


「ナガイさん。冒険者になったの?」


「ああ! 今日から冒険者として生きる」


「はは!! いいじゃん、ナガイさんかっけぇ!」


「おう、あんがとな。今から新しく組んだパーティーのメンバーとトーナリ山の薬草採取なんだ」


 うは! 俺が初めにやったクエストだ!


「やるぞぉーー!!」


 走り出したナガイさんの目はキラキラと輝いていた。


 ああ、なんだか最高の気分だ。


 俺とアイアは手を振った。





「ナガイさん、がんばってなーー!!」






 俺の声は快晴の空に響いた。







〜〜ダークドラゴン視点〜〜



 そこは漆黒の飛刃の中。

 精神体が存在する世界。

 精神、といっても我の姿は漆黒の竜である。

 当然、彼も……。


『なぁヴァンスレイブ殿よ。 主人マスターに伝えなくて良いのか?』


 我の質問に、彼は笑った。


『ふ……。そんな必要はあるまい。輪廻転生は世のことわり


『しかしなぁ……。本当に驚いたぞ。まさか【名聞なきき】の正体がお主とは』


『終わった話だ。蒸し返せばまた戦いだぞ?』


『まさか! そんなことはせんよ。ここの暮らし、意外にも居心地がいいんだ』


『ふふふ。そなたと、こんな関係になるとはな』


 まったくだ……。

 この飛刃に宿って驚いたことを思い出す。

 

 我の眼前には立派な剣を背負った御人がいた。


 ククク、笑いが堪えきれん。






『我だって信じられないんだ。剣聖ブレイズニュート』





 彼は少し困惑した。


『おいおい。その名前は終わった命さ。今は守護武器ヴァンスレイブ』


『ふ……。そうだったな』


 彼はマワルを見つめた。


『主は大陸に名を馳せる英雄になる。きっと我をも超える冒険者になるだろう。そうなれば我のお役目も終わるということさ』


『寿命を全うした英雄が【名聞なきき】になる。その理屈はどうなっているのだ?』


『我も知らぬよ。運命神バーリトゥースの御心のままに』


『それが運命なのか……。しかし、まさか英雄が次の英雄を育てる理屈になっているとはなぁ』


『我だって驚いている。なにせ得意武器の剣じゃないのだぞ? 助言の方法などわからぬよ』


『ははは! 本当だ! まさかのブーメラン!!』


『命は回るのに得意武器が回らないんだからな!』


 ふ……。すんなりいかないのも、また運命なのかもな。


『あの日……。マワルに守護武器がブーメランだと認定された日。彼は号泣していたがな。我だって泣いていたんだ。絶対に剣の守護武器になると思っていたんだからな! おかげで彼に声を掛けるのが翌日になってしまったよ』


 まったくそうだろうよ。

 剣聖がブーメランの守護武器になるなんてな……。


 ダメだ、やっぱり堪えきれん。



 我らは大笑いした。

 漆黒の飛刃の中で。





 お し ま い 。






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 最後まで読んでいただきありがとうございます!

 流行りのファンタジーである、転生、追放とは違うジャンルのお話を書いてみました。どうだったでしょうか?

 面白ければ率直な感想、評価いただけるととても嬉しいです。


 今後もファンタジー小説を書きますのでどうかよろしくお願いします。


 なお、私の書いたおすすめファンタジーがこちらです。

 

 魔法の設計士〜その男、有能すぎて引く手あまた〜

 https://kakuyomu.jp/works/16816927862000512486


 面白いので是非読んでみてください。



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俺の守護武器がブーメランな件〜神に選ばれた俺の武器が小さなブーメランだった。みんなには【最弱武器】と笑われたのだけど、レベルを上げたら【最強】でした〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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