第36話 アイアの約束


〜〜アイア視点〜〜


ーー王都ハジマールーー


 あれから1週間後。


 王都の復興が落ち着いた頃。


 お城では私達の授与式が執り行われました。


「マワル・ヤイバーンをS級の冒険者と認定する」


 観衆からは拍手喝采。

 E級からS級に昇級するなんて前代未聞です。

 でも当然ですよね。

 なにせ、英雄ブレイズニュートでも不可能だったダークドラゴンを従獣にしちゃったんですから。

 

 こんな歴史的快挙を起こしてしまうなんて流石はマワルさんです。


 女王様は私にも授与してくれました。


「アイア・ボールガルド。そなたの活躍も他から聞いている。大勢の王都民を救ってくれた功績は大きい。よって、C級の冒険者と認定する」


 うわっ!

 私も昇級しちゃいました。

 E級からの飛び級。


 私ががんばれたのはマワルさんがいたからなんですよね。

 彼と出会っていなかったら、今頃ドラゴンの脅威に逃げ出していただろうな。

 こんなに強くなれたのは彼のおかげだ。本当に感謝しかない。


 女王様の言葉に、観衆からは驚愕の声が響く。



 


「2人には金、1億エーンを授ける!」





 えええ!?

 と、とんでもない額です。

 一生遊んで暮らせますよ。


 案の定、マワルさんは断ろうとしていましたが、この授与式でそんな意見がとおるはずもなく。

 女王様の面子もあるからと、やむ無く受け取るのでした。


 

 S級の冒険者になって、大金も手にして、もう、本当に凄い授与式でした。






◇◇◇◇




 私達は別行動をとることになりました。

 マワルさんは私達の所属している緑のギルド員と飲み会に。

 私は一緒に王都を救った赤のギルド員と会うことにしました。


 今回の件で活躍した冒険者には、女王様からお礼が出るようなので、そのことを伝えに行くんです。




ーー中央広場ーー


 夕方。


 

 1人。散歩のように歩く。


 今は、赤のギルド員とお話しを済ませて、城に帰る途中。

 

 女王様の命で、しばらく城に滞在するように言われています。

 おかげで毎日ご馳走を食べて、就寝はフカフカのベッド。

 ああ、こんな満たされた毎日でいいんでしょうか?


 見上げると、英雄ブレイズニュートの石像が建っていました。

 どうやら復旧工事が済んで、またその凛々しい姿を残しているようです。

 国が勢力を上げて復旧工事を急いだようなので直ぐに治ったみたい。


 でも、あのソフトクリーム屋さんが潰れていました。

 個人経営の店はまだ修理が済んでいないようです。

 店長らしき人がボロボロになった屋台を組み立ていました。

 

 その人は中年の男で、黙々と板に釘を打つ。

 

 早く店が直るといいなぁ。


 そういえば、マワルさんと指切りげんまんできなかったな。


 ダークドラゴンに襲われたあの日。私が昇級したらソフトクリームをマワルさんがご馳走してくれるという約束。


 マワルさん覚えてるかな?


 ……でも、あの店が無くなっちゃったら、もうその約束自体できないな……。


 そんなことを考えていると、1人の男が店長の前に立った。

 そに人はフードを深々と被って、自分の正体を隠すようにしている。


 でもあれって……。

 ブクブクちゃんのフードだよね?


 あの人はマワルさんだ!!


「マワ──!」


 声を掛けようとして止まる。


 店を組み立てていた中年の男が大声で泣き出したからだ。



「終わりだ!! もうウチの店は終わっちまったんだぁーーーー!!」



 ど、どうしてそんなことを言うんだろう?

 

 マワルさんも私と同じ気持ちだった。


「店長どうしたんだ? 店の再開、難しいのか?」


「うう……。これだけ屋台がボロボロになってんだ。もう少しくらい板を繋ぎ合わせたってどうにもなりゃしねぇよ」


 そうだったんだ……。

 あの人はやり切れない気持ちを吹っ切れないでいたんだ。


「兄ちゃんと話せて良かったよ。なんだかスッとした」


「…………」


「この店は子供から大人まで愛してくれてたんだ。俺はみんなの笑顔を見るのが大好きでな。天職だったよ」


「ここのソフトクリームは最高に美味かったよ」


「そんなこと言ってくれると、本当に嬉しいぜ。うう……。で、でも悪いな。もうあのソフトクリームは食べれないんだ。店は畳んで田舎へ帰ろうと思う」


「それは困る」


「すまねぇな」


 マワルさんはポリポリと頬を掻いた。


「お金があったらなんとかなるのかな?」


「そりゃあ、なんとかなるけどよ。兄ちゃんが大人になって稼いでも払えないくらいの大金なんだぜ。こんな店でも小さな一軒家を建てるくらいの費用がかかるんだよ」


「前払いってできる?」


「なんの話しだい?」


「ソフトクリームの代金だよ。店長の作る美味しいやつ」


 そう言ってブクブクちゃんから札束を取り出した。

 店長は目を見張る。


「こ、こんな大金どこで? あ、あんた貴族の子供か!?」


「一般庶民だよ」


 店長はマワルさんの腰にぶら下げている守護武器に気がついた。


「あ! そのブーメラン!! 兄ちゃん、まさか噂の冒険者か!?」


 マワルさんはフードを深々と被りなおした。


「しーー! ちょ、声が大きいって!!」


 今やマワルさんは王都でも有名人だからな。


 彼は店長の手にそっとお金を乗せた。



「これさ。ソフトクリームの前金だから。また店長の美味しい奴、食わせて欲しいんだ」


「い、いや、しかし。こんな大金、受け取れないよ」


「約束してるんだ」


「約束?」


「また、ここのソフトクリームを食べようって」


 彼は空を仰いだ。

 あの日のことを思い出すように。



「指切りなんかしなくてもさ。俺は忘れないんだよな……」



 マワルさん……。

 私との約束、覚えていてくれたんだ。


 胸が熱くなる。


 店長は感動して泣いていた。


「うう……。俺のソフトクリームをそんなに愛してくれるなんてな。お、俺は、こ、こんなに嬉しいことはないぜ……うう」


「じゃあ、続けてくれる? 店」


 店長はマワルさんの両手を握った。


「ああ! 勿論だ!! これだけありゃあ3日で営業再開だぁ!!」


「そか! 良かった」


「あなたは恩人だ! ありがとうございます!!」


「んな大袈裟な。俺はソフトクリームを食べたいだけだからさ」


「再開したら是非食べに来てください!!」


「うん。楽しみしてる」


「よぉおおし、やるぞーー!!」


「あーー、店長。この事は2人だけの秘密な」


「どうしてです?」


「変な噂がたったら嫌じゃん」


「変な噂?」


「と、とにかく。俺は一般客だから! この店とはなんの関係もないからね。口外禁止! いいね!?」


「うう……。自分の功績を鼻に掛けないなんて、なんて奥ゆかしいお人だぁあ。王都の英雄ってのは度量が違うなぁあ。くぅうう。泣けてくるぜ」


「じゃあ、ソフトクリーム楽しみしてる」


「はい! 旦那のために飛びきり美味いソフトクリームの店を建て直しやす!!」


「だ、旦那ぁ?」


「まぁいいじゃありやせんか! とにかく楽しみにしていてください!!」


「店長キャラ変わってね?」


「ははは! 元気になった証拠ですよ! それもこれも全部旦那のおかげです!! はははは!!」


「んまぁ、喜んでくれたなら良かった。んじゃ、また来るから!!」


「へい! 3日以内には店を建て直してやすんで!! お待ちしていやす!!」


 泣いてた店長さんが、もう笑ってる。

 ふふふ。マワルさんは本当に凄いなぁ。



◇◇◇◇


ーーハジマール城ーー


 私は帰ってきたマワルさんに聞いてみた。


「ねぇマワルさん。指切りげんまんしてませんよね?」


「なんの話しだ?」


「約束ですよ。覚えてません?」


「うーーん。忘れた」


 うわぁ! とぼけてる!!

 よぉおし、ちょっと意地悪しちゃお。


「私が昇級したらソフトクリームを食べさせてくれるって約束ですよ」


「ああ。そういえば。したような気がせんでもないな」


「めでたく。昇級しましたからね。明日行きましょうよソフトクリーム屋さん」


「え? あ、明日!?」


「はい。明日です」


「いや、明日は無理だ!!」


「え? なんでですか?」


「み、3日後にしようよ」


「え? どうしてですか? 明日がいいです」


「む、無理なもんは無理だ」


「じゃあ1人で行きますよ」


「ダメ!!」


「どうしてですか?」


「どうしても!!」


 私が行きたそうにしていると、マワルさんはアタフタし始めた。


 私は堪らなくなって彼に抱きついた。


「あは!!」


「うわ! ちょ、急になんだよ!!」


「なんでもありません! こうしたくなったんです!」


「お、おいおい!!」



 マワルさん、大好き!!

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