第35話 ごろつきにブーメラン

 子分達はニタニタと笑った。


「ベアード様が最強なのを証明しに来たんだ! ダークドラゴンを倒した野郎を出しやがれってんだ!!」


 それが人にモノを頼む態度かよ。

 大方、この町の厄介者だろうな。

 

 面倒だけど仕方ないか。


「ああ〜〜。俺だよ。そのダークドラゴンを倒したのは!」


 ベアードは大爆笑。


「ブヒャヒャ!! お子ちゃまが勇敢だな。でも冗談に付き合ってる暇はねぇえんだよ。ガキは引っ込んでろ」


 アイアの父さんは掴まれた襟首を締め上げられてうめき声をあげる。


「んぐぐ!! マ、マワル君、逃げなさい!!」

 

 こんな時に俺の心配か。本当に優しい人だな。

 絶対助けなくちゃな。


「いい加減、その人を離せよ」


 ベアードは俺の高慢な態度に火がついた。

 アイアの父さんをぶん投げる。


「あ! なにすんだよ!」


 アイアの父さんは花壇に激突した。


「グハァッ!!」


「きゃあああ!! お父さん!!」


 早く回復魔法をかけないと。


「アイア。お父さんに魔法を」


「はい!」


 俺が睨みつけると、ベアードはニタニタと笑った。



「お前みたいなガキが、本当にダークドラゴンを倒したのかぁああ?」


「ブヒャヒャ!! 体なんてベアード様の半分もありやせんぜぇ!」



 軽く首を傾げる。


「だったらどうだってんだよ?」


 再び、嘲笑が響いた。



「ガハハハ!! こんなガキがダークドラゴンを倒しただぁあああ? 冗談もよし子さんんんん!! ギャハハハハハハーーーー!!」


 

 はぁ……。

 やれやれだ。

 

 アイアはどうかな?


 チラリと見る。

 

 うむ。お父さんを無事に回復させることができたようだな。


 気がつけば周りに人が集まっていた。


 人が多いな。


 一応、忠告はしてやろうか。

 蟻が恐竜に挑むなんて状況。なんだか気の毒だからな。


「ボールガルドさんに謝ったら許してやる」


 嘲笑は更に勢いを増した。


「ギャハハハーー!! ちょ、お前マジかぁーー!!」


 やれやれ。

 これはブーメランお仕置きが必要だな。


 俺は瞬時に動くと、腹を抱えて笑う子分の1人を平手打ちでぶっ飛ばした。



バチィイイイイイインッ!!



「ハギャァア!!」



 残った子分はナイフを取り出した。

 どうやら守護武器のようだ。


「こ、この野郎、ぶっ殺してやる!」


 いきなりの殺人予告ですか。

 乱暴な。


「う、噂ではその腰に付けてるブーメランでドラゴンを倒したっていうじゃねぇか! ナイフの方が強いところを見せてつけてやる!!」


 俺は無言。人差し指をクイクイと曲げて、来い来いの合図をした。


「こ、この野郎!! 死ねやぁああああ!!」


 子分のナイフ攻撃が、集まった人だかりから悲鳴を呼んだ。


 俺は一歩も動かず、半身を逸らしてナイフを交わす。

 なにせ、攻撃の軌道が単調で遅いのである。


「こ、この! この!! 死ねやぁあああ!!」


「お前ら、冒険者を舐めない方がいいぞ。モンスターはもっと強いんだからな」


「し、死ねぇ、死ねぇ!! ブーメランがぁあああ!!」


 やれやれ。

 こんな奴にブーメランを使うのが馬鹿らしいな。

 

 俺は平手打ちで頬を打った。



バチィイイイイイインッ!!



 子分は3メートルふっ飛んだ。


「はぎゃぁああああッ!!」


 ベアードは背中に背負った大槌を取り出した。

 その大きさはヘッドの面だけで1メートルを超える。


「少しはやるようだなぁ」


 子分は鼻血を出しながら笑った。


「ぎゃはは! 終わったな小僧!! ベアード様の守護武器、ビッグハンマーは世界最強なのだぁあああ!!」


「ふーーん。世界最強ねぇ」


 俺のニヤニヤが止まらない。

 その嘲笑にベアードは青筋を立てた。


「このガキ! ぶっ殺してやる!!」


 ハンマーの一撃。

 喰らえば全身の骨は砕け、ミンチ肉になっただろう。


 俺はサッと飛び上がって一撃を交わした。



バゴォオオオン!!



 ハンマーは地面に当たり、土砂が爆ぜた。

 地面には大きな凹みができる。

 その威力に群衆は恐怖した。


「貴様のブーメランごと破壊してくれるわぁあああ!!」


 再び一撃が来る。


 ま、大体威力はわかったな。

 こいつ、やっぱり大したことないや。

 手はパーでいいだろう。


 俺はハンマーを片手で受け止めた。



ガシッ!!



「こ、この野郎!! 俺のハンマーを!?」


「なにぃいいいいい!? ベアード様のビッグハンマーを片手で受けとめるだとぉおおおお!?」


 

 うーーむ。なぜこんなことができるのだろう?

 いくら死線をくぐり抜けたとはいえ、強くなりすぎている気がするな。


 俺の体にはうっすらと漆黒のオーラが纏っていた。


 これはダークドラゴンの魔力……。

 そうか、従獣にしたことで奴の力が俺に影響を及ぼしてるんだ。


 俺はハンマーを押し返した。



ゴンンンンッ!!



 ベアードは自分のハンマーをモロに食らって吹っ飛ぶ。



「ぐはぁあああッ!!」



 その顔は前歯が欠け、鼻血がドロドロと垂れていた。


 俺は奴の目の前に立って、アイアのお父さんを指差した。



「ボールガルドさんに謝罪」



 少し怖い顔を見せると、ベアードは「ひぃいッ!!」と悲鳴を上げて逃げ出した。

 それを見た子分達も跡を追うように走り出す。



 やれやれ。


 俺はパチンと指を鳴らした。

 すると、大量のブーメランが発生してベアード達を包み込んだ。



飛刃の大群ブーメランホード。これで逃げれない」



 ベアード達は無数のブーメランに囲まれて身動きができなくなった。

 ブーメランは空中に静止しており、俺の号令を今か今かと待ち望む。

 その切先が頬に軽く触れるだけで、ツーーと真っ赤な血が垂れた。




「「「 ヒィイイイイイイイイイイ!! 」」」




 今度は満面の笑み。

 



「ボールガルドさんに謝罪。できるかな?」








 周囲の騒つきは増していた。

 そんな中、3人は土下座する。



「「「 申し訳ありませんでしたぁあああああ!! 」」」



 アイアの父さんは無事に回復していて怪我一つないようだ。


 こういう輩には釘を刺さなくちゃな。

 逆恨みで、俺の居ない時にアイアの家にちょっかい出されても困るんだ。


「今度、変なちょっかい出して来たらわかってんだろうな?」


「「「 ひぃいいいいいいい!! 」」」


 アイアのお父さんに聞いてみる。


「大丈夫でしたか?」


「ああ、私はもう平気だ」


「よし。お前ら、ボールガルドさんからお許しが出たからな。帰ってよろしい」


「「「 すいませんでしたーーーー!! 」」」


 ベアード達は去って行った。


 群衆から、奴らに向けて野次が飛ぶ。


「ざまぁみろ! 2度と来んなぁ!!」

「お前らなんか町から出てけーー!!」

「バーーカ! バーーカ!!」

「無様ねぇ!! きゃはははーーーー!!」



 うーーむ。

 あいつら町の嫌われ者だったんだな。


 群衆は俺に詰め寄った。


「ありがとう! 胸がすっとしたわ!!」

「ダークドラゴンを倒した実力は本物だったんだな!!」

「あなたはこの町の英雄ですよ!!」


 

 うーーむ。

 力を見せびらかす気は微塵もなかったんだけどなぁ。


 ま、いっか。

 みんな喜んでくれてるみたいだし。




 この後、アイアの家でお茶を飲んでいると、町のみんなが続々とやって来た。

 みな、お礼の品を持参する。


「マワルさんにはダークドラゴンから大陸を救っていただきましたから、これ少ないですが」

「さっきはありがとう。この町の悪を退治してくれたお礼です」

「マワル様のおかげでこの町から引っ越さなくて済みそうです。これ大した物じゃありませんが貰ってください」

 


 野菜、お肉、牛乳、服の生地。

 それはもう様々。


 アイアの家はお礼の品で埋め尽くされた。


 ははは。まいったな。


「俺は食材を持て余すので、この家で使ってくださいね」


 そういうと、今度はアイアの両親に感謝された。




 大勢の人から絶賛されたけど、一番嬉しかった言葉は、



「そのブーメラン凄い!!」



 だな。



 この言葉はやはり最高と言わざるを得ない。



 こうして、俺とアイアは王都ハジマールへと戻ったのだった。

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