第34話 幸せのブーメラン


 父さんは俺の前に立った。

 コクリと頭を下げる。


「す、すまん。お前の守護武器をバカにしてしまった」


 母さんも同じように頭を下げた。


「マワル。ごめんね。お母さんもバカにしてたわ」


「いいよ。俺のことを心配してくれただけなんだからさ」


 父さんは、引っ越しの準備で移動させていたタンスの中から何かを取り出した。


「マワル。謝罪と言ってはなんだがな。少ないがこれ。冒険の役にたてなさい」


 それは札が5枚。5万エーンだった。


 引っ越しの資金だ。

 父さんの半月分の収入と言っていい。

 父さん、奮発してくれたな。

 

 俺はニコリと笑う。


「気を使ってくれてありがとう。でもいいよ。お金はあるからさ」

 

 俺はオバケ袋のブクブクから500枚の札束を取り出した。


「お、お前! そんな大金どうしたんだ!?」


「ハジマール国王にもらったんだよ」


 両親は目を見張る。

 見たこともない金額に目が釘付けである。



「はい」



 そう言って父さんの手に乗せた。


「は!? な、なんだこれは!?」


「なんだって? いや、その……。息子は実家にお金を入れるもんだろ?」


「お、多すぎだぁあ!!」


「あーー。なんか国王はもっとくれるみたいだからさ。とりあえずそれだけは渡しておくよ」


「はぁ………」


 母さんは父さんの手を握った。


「あ、あなたぁあ。マワルはとんでもない子に出世したわよ!!」


「う、うむ!! トンビがタカを生むとはこのことか!!」


「凄い! マワルは凄いわ!!」


「は、ははは!!」


 ふふふ。

 喜んでくれて良かったな。

 まぁ、まだE級の冒険者だから、そんなに出世したとはいえないけどね。

 でも、


「俺、冒険者やって良かっただろ?」


 父さんは申し訳なさそうに頬を掻いた。


「うむ……。あの時は反対して悪かったな。まさかこんなことになるなんてな」


「マワルは剣聖になるために毎日剣の練習をしていたわね。まさかブーメランで頂点に立つとは思わなかったわ」


「剣の練習も少しは役に立ったんだぜ? なぁヴァンスレイブ」


『うむ。我が主はブーメランを飛び道具だけではなく、近接武器としても使った。凄まじい使い手だ』


「本当に凄いわねマワル! 母さんすっごく嬉しいわ」


「へへへ」


「じゃあ、今日は奮発してマワルの大好きなステーキを焼くわよ! アイアちゃんもゆっくりしていってね!」


「あ、はい! お母様、ありがとうございます!!」


「んまぁ! お母様ですって!! おほほ! 照れちゃうわね」


 みんなで笑う。


 母さんの焼くステーキはガーリックと胡椒が効いててめちゃくちゃ美味いんだよな。

 認定式の日は食べ損ねちゃったから絶対に食べたい!

 うーーん。このままゆっくりしたいんだけどなぁ。


「悪いんだけどさ。今からアイアの町に行こうと思うんだ」


 父さんは眉を上げた。


「そうか。彼女のご両親にダークドラゴンの件を報告しに行くんだな」


「うん」


「流石だな! よく気がついた。彼女のご両親も心配しているだろうから、直ぐに行ってあげなさい」


「わかった」


 父さんは俺の肩に手を乗せた。


「立派になったな。我が子ながら誇らしいよ」


「ふふふ。こんなもんじゃないっての。俺は剣聖ブレイブニュートを超える冒険者になるんだからな」


「ふは! こりゃ敵わんな」



 俺は移動回転テレポスピンを発動させた。

 目の前にはブーメランでできた入り口が現れる。


「んじゃ、行ってくる!」


「お父様! お母様! 失礼いたします!!」


「うむ。気をつけてな。いつでも帰って来なさい」


「アイアちゃん。今度はゆっくり泊まりに来なさいね。マワル。元気でね」



 俺達はアイアの町へと移動した。



◇◇◇◇



ーーハーナレの町ーー



「マワルさん。気を遣わせてしまってすいません。実家でゆっくりしたかったのに、私の家に行ってくれるなんて」


「いや、こんなの当然だからさ。んで、はい!」


 そう言って500万エーンを渡す。


「え? こ、これは女王様からマワルさんがいただいたお金じゃないですか!?」


「何言ってんだよ。俺達が貰ったんだからさ。アイアにも半分は貰う権利はあるだろ?」


「え……あ、うーーん。いいんですかねぇ??」


「いいからいいから。俺ん家と一緒でさ。それ持ってったら喜ぶと思うよ」


「こ、こんなに……」


「アイアのご両親にはお世話になったんだ。服や防具を新調してもらってさ、美味い手料理までご馳走になったんだぜ。お礼をするのは当然だろ?」


「お、多すぎるとおもうんですけど……」


 

 この町も慌しかった。

 モドリ村ほどではないにしろ、ダークドラゴンの動向を気にして、引っ越しの準備や避難の準備をしていた。

 




ーーアイア・ボールガルドの家ーー




「え!? マワル君がダークドラゴンを倒した!?」


「そうなの! お父さん聞いてよ!! それでマワルさんはね──」


 アイアがする、俺の話が止まらい。

 彼女は終始自慢話のように話す。


 ははは……。こうなるの忘れてたや。


 俺は真っ赤な顔になるのだった。


 そして、アイアが500万エーンを渡すと、更に驚きは続いた。


「これね。マワルさんからなの」


 いや、だから、そのお金はアイアのだっての。


「俺のじゃないですよ。あはは。アイアが国王から貰った分ですから」


「いや、ウチの娘はそこまで活躍していないよ!! 流石にこんな大金はいただけない!」


「ははは。アイアの分なんですけどね……。そうだ! んじゃあ、俺とアイアの分ってことで受け取ってもらえますか?」


「おいおい、だからってこんな大金受け取れない。第一、貰う理由が無いじゃないか」


「ありますよ。貴方達は俺に良くしてくれました。防具と服を新調して、美味しいご飯まで食べさせてくれた。そのお礼をするのは当然です」


「いや、しかし……こんなには……」


「幸せのブーメランです」


「し、幸せの、ブーメラン?? なんだね、それは?」


「お2人はとても優しい。だから優しいアイアに育った。彼女のおかげで俺の旅はいつも快適です。いつも温かい気持ちになれて幸せだ。それに、この町に来て、とても快適な一宿一飯も受けることができた。幸せのブーメランは回転して大きくなって貴方達の元へと返って来たんですよ」


アイアの両親は顔を見合わせていた。


「マワル君。君は本当に凄い男だな。敵わないな」


「マワルさん……。この幸せのブーメランは受け取らせてもらいますね」


 アイアの母さんはニコリと微笑んだ。


「では今日のお昼は豪勢にしますからね! 絶対に食べていってください。私のブーメランも受け取ってくださいね」


 あはは。まいったな。


「んじゃ、ご馳走になります」


 アイアは俺の腕を掴んで飛び跳ねた。


「あは! 私もお母さんを手伝って腕によりをかけて作りますからね!」


 ウホ。こりゃ楽しみだ。

 

◇◇◇◇


 昼食の時間。


 ボールガルド家のテーブルには色とりどりの料理が並ぶ。カラフルなサラダ。トロトロのスープ。そしてガーリックの匂いが食欲をそそる肉料理。パンだけでも3種類はある。

 今、アイアがオーブンから取り出したのは鮎のパイ包みだ。香ばしいパイ皮の焼けた匂いと鮎とバター、チーズが相まった香りが部屋一杯に充満する。


 クンクン……。

 ふはーー美味そうな匂い!

 こりゃあ豪勢だよ。


 丁度、アイアのお父さんが役場から帰って来たところである。


「マワル君の活躍は町長に伝えたから、町のみんなも安心すると思う」


 良かった。これでこの町はダークドラゴンの脅威から解放されたな。


『ブクブク!』


 オバケ袋のブクブクがアイアの料理に舌なめずりをした。


 美味しそう! 早く食べたい!!


「ははは。食いしん坊な奴だな」


『ブク! (僕だってマワルの為に働いてるんだからね! 幸せのブーメランは僕に向かって飛んで来ても良いよね)』


「おいおい。言うじゃんかよ!」


 まったく、生意気な奴だ……ってあれ? もしかして、言葉がわかるようになったのかな?


『ブク! (ね、マワル! 食べて良い?)』


「まだ早いっての! いただきますが済んでからだ」


『ブクゥ。(チェ! はやく食べたいのになーー)』


 うーーむ。どうやら完全にわかるようになってしまったみたいだな。


「ブクブクちゃんの分もしっかり作ってますからね!」


『ブクーー! (アイアはわかってるぅーー!)』


 やれやれ。賑やかな食卓になりそうだ。


 こうして、俺達は美味しい昼食を食べて至福の時を過ごした。



 昼食後。


 みんなでアイアの入れてくれたハーブティーを楽しむ。


 突然、ボールガルド家の扉がドンドンドン! と激しく叩かれた。


 やって来たのは2メートルを超えるクマのような大男。2人の子分を連れて、嫌な笑みを浮かべていた。


「ダークドラゴンを倒した奴がいるのはここかい? どんな野郎か面を拝みに来たんだ」


 どうやら町で広まった噂話を聞きつけてここへ来たようだ。

 それにしても態度が悪い。


「帰りたまえ! ここはお前のようなゴロツキが来る場所ではない!!」


「いいから出せって」


 そう言ってアイアの父さんの襟首を掴み上げた。大男は片手で軽々と持ち上げる。


「んぐぐ!」


「きゃぁ! お父さん!!」


 アイアの悲鳴で場に緊張が走った。

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