第33話 解かれた呪い


「 ふざけんな!! こんな時に!! 」

「お前のホラ話を笑って聞いてる余裕はないぞ」

「そうだそうだ!!」


 俺がダークドラゴンに 凄威回転斬マイトスラッシュを決めた話の途中。村人から怒号が飛び交った。


 やれやれ、最後まで聞いてくれる余裕はなさそうだ。

 でも事実だからな。


「まぁ、聞いてよ。本当のことだからさ。ここにいるアイアと協力してさ。ダークドラゴンを倒したんだよ」


「わ、私は大したことはしてません。鉄球で注意を逸らした程度です」


 村人は不審な目で俺を睨んだ。


「んな小さなブーメランでどうやってあのダークドラゴンを倒したんだよ!」

「そんなおもちゃみたいな守護武器で!! ふざけんな!!」

「「「 そうだそうだ!! 」」」

「ダークドラゴンは不死身って伝説じゃねぇか!! それをどうやって倒したんだよ!?」


 

 しかたないな。このブーメランの中にいる従獣にしたダークドラゴンを出そうか。


 そう思った矢先。村全体が大きく揺らいだ。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー!!



 村人の叫び声に場はパニックに陥る。



 

「み、見ろぉおお!! 山崩れだぁああああああああ!!」

「ひぃいいいい!! 大岩も千年杉まで混ざっているぞ!!」

「終わったぁああああ!!」




 昨日、ダークドラゴンが起こした嵐の影響だな。

 地盤がゆるんで山崩れが起こったのだろう。

 あの量だと村全体が飲み込まれてしまうな。


主人マスターすまぬ。我が飛び回ったせいだ』


「いいよ。従獣がやった後処理は主人の勤めだからさ」


 俺はブーメランを頭上に放り投げて回転させた。

 刃はそこで停滞し回転を続ける。



ギュゥウウウーーン…………!!



 父さんは叫んだ。


「マワル! みんなと一緒に逃げるんだ!!」


「ああ、大丈夫。みんなもさ。大丈夫だから、安心しててよ」


 ブーメランを投げる。



凄威回転斬マイトスラッシュ



 それは凄まじい速度で山崩れへと突入。

 衝突と同時、全ての土砂を飛散させた。




ズバァアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!




 これで山崩れを消滅させたかと思いきや、砕かれた大岩が村のあちこちに飛散した。



「マワルさん! 沢山の岩が村に飛んでいきます!!」


「オケ。なんとかする」


 俺は天に掲げた両手を振り下ろした。



飛刃の大群ブーメランホード!!」



 無数に発生したブーメランは、村に向かって飛んでいた大量の岩へと命中する。



バコバコバコーーーーーーーーン!!



 岩を破壊する破裂音が村に響く。

 しかし、まだ終わっていなかった。



「ひぃいいッ!! 千年杉がこっちに向かって飛んで来るぞーー!!」



 村人の指差す方向を見ると、大きな杉の木がこちらに向かって飛んで来ていた。


 やれやれ、硬い木だな。



回転防御スピンディフェンス





ガキィィイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!




 俺はブーメランのスキルを使って防御した。

 千年杉はみんなの前でドシンと音を立てて落下する。


 さぁて片付いたぞ。みんな無事かな?


「怪我人はいるか? もしかいたら言ってくれよ。ここにいるアイアは僧侶だからさ」


 アイアは村全体を見渡して笑った。


「あは! 村の建物にダメージは無いみたいです。みんな無事ですよ」


 ふむ。なんとかなったな。

 それじゃあ話しの続きをしようか──。


「って、なんだぁ!?」


 みんなの方を振り向くと、村人達は俺の間近へと集まっていた。


 ち、近ッ!!


「な、なんだよ!?」


 高齢の村長が俺の手を握った。


「マ、マワル。お前さんの話しは全部本当じゃったんか!?」


「だから本当って言ってるじゃんかよ」


 騒つく。


 いや、みんな近いから。


「落ち着いてくれよ。俺は嘘なんかつかないからさ」


 村人はブーメランに興味津々。


「なぁマワル。その守護武器を見せてくれよ」


 みんなは漆黒のブーメランを見つめて感嘆のため息をついた。

 30センチ幅の小さなブーメラン。片手で持てて軽い。

 みんなはまだ信じられないでいた。


「こ、こんな小さなブーメランがなぁ」

「信じられん。こんな物がさっきの山崩れを消滅させてしまったのか……?」

「こ、これで……。ゴクリ……。ダークドラゴンを倒したんだな……」


 1人の村人の発言で更に驚くこととなる。


「で、でもこれさ。めちゃくちゃ軽いじゃん。おもちゃみたいだ」


 あの一件以来、はダークドラゴンの魔力によって声が通じるようになっていた。




『我はおもちゃではないぞ。マワル・ヤイバーンの守護武器。漆黒のブーメラン。ヴァンスレイブである』




 みんなは目を見張る。



「ぎゃあああ!! 守護武器が喋ったぁああああああ!?」

「声がぁああああ!! 守護武器から声がぁああああ」

「守護武器が名乗ったぁああああああ!!」


  

 村長は抜かしそうな腰を必死に堪えてブーメランを持った。



「マワル。お前は【名聞なきき】じゃったか!」



 伝説の守護武器使い、【名聞なきき】。



「ははは。まぁ、なんか、よくわかんないけどさ。そうみたいだな」



 村人達は更に俺の周りに集まった。


「すげぇじゃんマワル!!」

「マワルちゃん凄いわ!!」

「マワル兄ちゃん、あとでサインくれよな」

「お前はモドリ村の誇りだ!!」


 鎖鎌を守護武器とするナガイさんは、申し訳なさそうな顔で俺を見つめた。


「マワル。俺は……。あの日……。お前が守護武器を認定された日。わ、笑ってしまったな。す、すまん」


「ははは! そんなの気にしてないよ!! 俺だってナガイさんのこと笑っちゃてたしさ。お互い様でいいじゃん」


 ナガイさんは鎖鎌を握りしめた。


「お前のブーメラン。不遇武器じゃなかったんだな」


「うん! ヴァンスレイブは相棒さ!!」


「はは……。相棒か……」


 アイアはピンク色の鉄球を取り出した。


「私の守護武器は鉄球なんですよ。でもダークドラゴンと戦っちゃいました」


 ナガイさんは鉄球を見つめた。

 ジワリと涙を流す。


「そうか……。君も、その守護武器で戦ったのか」


「ええ! と言っても、私のは目眩しですが……。あ、でもでもゴブリン1匹はしっかりと倒したことがありますからね。えへへ」


 ポロリと涙を流す。


「守護武器と冒険してるんだね……」


「あれれ? わ、私、なんかおかしなこと言っちゃいましたか!?」


 ナガイさんは鎖鎌を握りしめて泣いた。






「すまない……」






 これはきっと……。

 俺達に向けて言った言葉じゃない。

 

 守護武器の鎖鎌に言ったんだ。


 彼は槍が大好きだった。

 毎日槍を練習していたのに、認定された守護武器は鎖鎌だった。

 だからきっと、鎖鎌を恨んだんだろうな。

 運命神に認定された守護武器だから離れることはできない。

 毎日、鎖鎌を見る度に嫌悪した。

 それは呪いのように。


 その呪いが、今、解かれたんだ。


 ナガイさんは鎖鎌を握りしめて微笑んだ。



 良かったね。ナガイさん。






 村人らは、家の目の前に倒れ込む千年杉に目をやった。



「しっかしこりゃあ。どかすのが大変だぞ」

「流石のブーメランでもこれは無理よね?」

「デカすぎるよな」



 漆黒のブーメランからダークドラゴンが現れた。

 その体長は100メートルを超える。



主人マスター。すまなかったな。迷惑をかけた』



 そう言って杉の木を掴み取りヒョイと遠くの山へと投げた。



 村人達は開いた口が塞がらない。





「ああ、そうだ。言ってなかったけどさ。不死身のダークドラゴンは俺の従獣にしたんだ」





 再び、驚愕と絶賛の声が上がったのは言うまでもない。

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