進路指導
広瀬弘樹
進路指導
体育館。
学年集会の議題は進路指導だ。
始まったばかりだと思っていた中学生活も二年生を間近にすれば進路を考え始める時期なのだろう。
「進路指導にあたって皆に言っておくことがある」
学年主任の先生が毒にも薬にもならない説教を垂れるのを聞き流す。
そんなことよりソシャゲの新キャラが気になってしょうがない。シルエットだけでまだ声優もどんな性能かもまだ分かっていないのだ。
「井の中の蛙にはなるんじゃないぞ。どんどん学んで自分の世界を広く持つことが肝心だ」
進路なんてどうせ土壇場にならなきゃ分からない。大体こっちは母親と父親で高校後は大学進学か就職かでもめてるくらいなのだ。
自分が好きにできるのはもっと未来の話なんだから、どうでもいいことなんて聞き流すに限る。
「『井の中の蛙大海を知らず』に『されど空の青さを知る』なんて付け加えるデマに惑わされるくらいならスマホでちゃんと情報源を調べるくらいのリテラシーを持った大人になるべきだ」
へぇ。アレ嘘だったんだ。ドヤ顔で主人公に語らせてたネット小説があったな。まあ、どうでもいいけど。
「どうせなら岐路亡羊――道が細分化しすぎて真理が得られないことを嘆ける人間になれと思う」
デマに踊らされるよりはそっちの方が幾分かマシな人間だろうな、とは思う。
「だがな、道が沢山あるってのも悪い事じゃない。君たちの中には大学に行けないからいい会社に入れないとあきらめている人もいるかもしれないが、働きながら大学に行くことも出来るし、奨学金だって幾つもある」
そもそも大学に行かなくても必要な資格や技能を高校や専門学校で学べる場合も多くあると学年主任は言う。それどころか、自分で勉強して資格を取ることも不可能ではないと。
「なりたい自分になるためのルートは一つではない。我々教員はその道筋を示すためにいるんだ。どうしたらいいか分からない時は遠慮なく相談に来なさい」
それだけ言うと学年主任は別の先生にバトンタッチして列に戻って行った。
……自分は何がしたいんだろう?何になりたいんだろう?
憧れの職業に就いたってブラック企業だったとかざらな世界で何ができるんだろう?
聞き流すはずだった学年主任の話で少しばかり、自分の未来について自分で考えてもいいかもしれないと、本当に少しだけ思ってしまった。
進路指導 広瀬弘樹 @hiro6636
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