錬金術使いの異世界美容師

伽藍 瑠為(がらん るい)

第1話プロローグ













『はっ!?…な、なに!?この気配っ!?』

「っ!?…ちょっと待ってみんな!?…な、何かとてつもなく……気配の場所は……うしろっ!?」






エルフの女性フールが凄まじい気配を背後から感じ、マナの門の更に向こう側の洞窟から奴(それ)は現れた。






「……な…なん…なの……あいつ……?」






目視した事で全員がその恐怖を感じ、そして理解した。

それは途轍(とてつ)もなく、悍(おぞ)ましく、漂(ただよ)う気配を纏い、顔は骸骨、武装された鎧、中は空洞、そして大きい剣を片手にマグリが現れた。























「おおぉぉ…これは…素晴らしい魂(クオリア)が揃っているな…。」





何故か、マグリの言葉は全員の頭に響き渡り、言葉は続いた。





「…おぉぉ……おお?……珍しい…魂交換者(クオリアトレーダー)が一つ…これは好機…………ん?……なんだこれは?………魂思意(クオリア)を司るアズラーイールの恩恵では無いのがいるな…………この気配は……」






マグリはその場に居た全員の魂(クオリア)を探り、そして驚いた。






「………な、なんだと……イザナギノミコトの恩恵だと?…もしや…ノアの方舟の選定者(アドプター)だと言うのか!?…なら何故だ!?何故七十三(ここ)に貴様(アドプター)がいる!?」






マグリの言葉は何も理解出来なかった。

それでも、全員は一つだけ理解していた。

脅威が近づいて来ていると。






「皆!!逃げてっ!!」






フールが激声を上げた。

しかし。







「……動くな。」


 






マグリのその一言で全員が動けなくなった。






『くそっ!体が動かない!!』

「ジム!?キリオ!?あなた達は!?」




「だめだ!なんだこれ!動けない!!」



「くそ!なんだよこれ!!」






当然、誰も動けなかった。

そして、マグリは刻々と近づいていた。






「まぁ…いい……全員食ってしまえば同じことだ……魂の声を…我に聞かせてくれ…。」






気づいた時にはマグリはエルフの男性ザーコの目の前にいた。





「先(ま)ずは…お前から頂こう…。」





『はっ…速い!?フール様だけは逃がさないと!!』

「くそっ!こんな所でっ!!」





マグリはザーコの頭に左手を置いた。






「…良き…魂鳴(ひめい)を…期待するぞ…。」





それを見てフールが叫んだ。






「お願い!!やめて!!あなたの目的は!?何か私達に出来ることがきっとあるはず!!ねぇ!?だから!協力をっ!!」

『ザーコがっ!?ザーコが死んじゃう!!』





フールの精一杯の言葉にザーコが叫ぶ。






「フール様!!それはダメです!!」






そして、マグリは言った。





「歩兵(ほへい)の分際で我らに協力だと…?」




「ええ!!歩兵でもなんでもいいから!!ザーコだけは!ザーコだけは!見逃して…?…後ろの人達と私達は関係ない!!…だから……お願い……お願いします…。」





フールのその言葉にジム、キリオ、ツルギが思った。






「…お、おい…な、何言ってんだよ…。」





フールの言葉にキリオは自分の耳を疑った。





「……私にとって…あなた達より…ザーコが……大切よ…。」





顔を伏せて、歯を食いしばり、フールはそう言った。

それを聞いたマグリは笑った。





「フハハハハハハハ!!……良き…欲望ではないか…」





マグリの言葉にフールは希望が垣間見(かいまみ)えた気がした。







「……その欲望が…どんな…味に変わるか…とても楽しみだ…。」





しかし、マグリの続いたその言葉にフールの表情は一変し絶望へと変わった。







「…え?」





フールは理解した。

ザーコが殺されると。

必死で動かない体を何度も動かそうとした。

しかし、体は動かない。

フールは喉が潰れるほどただ叫んだ。





「ダメ!!お願い!!やめてぇぇぇえええ!!!」





「フハハハハハハハハハっ!!!!」






時間がゆっくり流れる中、マグリの笑った声が響いた。

しかし、それでもザーコの声(それ)ははっきりと聞こえた。


























「…叶わぬ…恋でした。」





ザーコは一瞬だけ、フールに微笑みを向けた。




























そして、直ぐにザーコの断末魔(だんまつま)の叫びが響いた。




「ああぁぁぁあああああああ!!!!!」




マグリはザーコの頭を体から力一杯引き抜いた。
































体から頭が抜かれ、連なる脊髄、噴き出る大量の真っ赤な血、そして、胴と頭を切り離されて尚(なお)、断末魔を叫び続けるザーコ。









「いやぁぁぉぁぁああああぁぁぁぁ!!!!!」








フールは目の前の光景に絶望し、ただ叫んだ。






「な、なんだよ…これ…。」






キリオはその状況に恐怖を感じた。

そしてその瞬間、全員の動きを止めていた呪縛が突然解かれ、全員は崩れる様に膝を着き、キリオは俯(うつむ)き、嘔吐(おうと)した。






「ぅぉえぇ…………ハァ…ハァ……ザーコの…ハァ……目が…俺を?…俺を見てた……ぉえぇ……」





乱れる感情。

初めて見る人の死に際。

体験した事のない仲間が無惨に殺される瞬間。

次は自分が死ぬ恐怖。

キリオは脚がすくみ、顎を揺らし、更に嘔吐を何度も繰り返した。








「…ザ…ザーコ殿…。」







ツルギは放心状態のままただ眺めることしか出来なかった。






「僕の…僕の所為だ…なんだよこれ……」





ジムも放心状態に陥(おちい)り自分を責め続けた。






「……アハハ…ハハハ…」





その時、突然フールが笑い出した。





「…ハハハ……ハハハ……」





もう、フールの感情は壊れていた。








「…何という美味(びみ)かぁ!!!!満たされるぞ!!我の強欲が満たされていく!!」







マグリが心を躍らせ、感極まり、喜んでいた。






「素晴らしいぞ!この乱れ溢れる感情の連鎖!!これだよ!これぞ!魂感情(クオリア)!!素晴らしい!!」





マグリの左手に持つ、首だけのザーコがずっとキリオを見ていた。





「…死ぬ……こ、…ころ…される……あ……あああああああ!!!」






キリオはあまりの恐怖に耐えかね、叫びながらその場から逃げ出した。





「いやだ!…死にたくない!!嫌だ!!怖い!!」





キリオは一生懸命に走るが、恐怖で脚が竦(すく)み、震えて上手く走ることが出来てなかった。





「キ、キリオ…?僕達を…置いて…に、逃げた…?」




目の前で友達が自分の命惜しさに逃げ出したのをジムは実感した。




「…な、なんだよ……裏切(それ)……」





逃げるキリオを見てマグリが笑った。






「ガハハハハ!!なんと無様かぁ!!仲間を見捨て、自分だけが助かりたいと!?笑いが止まらない!!愉快だぁ!!愉快愉快!!」





マグリは一呼吸置いて言葉を続けた。






「だが…」






その言葉を残し、マグリがらその場から消え、気づいた時にはキリオの目の前にマグリは立っていた。






「うぁぁあああああ!!」





目の前に突然現れたマグリを見てキリオは恐怖で叫び声を上げ、後ろに倒れた。

そして、マグリが言葉を続けた。






「…見るに耐えぬ。」





キリオは泣き叫んだ。





「やめて!殺さないで!!死にたくない!死に………」


























「……え?」


















キリオが気づいた時には頭が両断されていた。

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