重厚な世界観の上で描かれる異世界の歴史を歩む“自分”が見る未来とは…?

 ある世界の、ある大陸の歴史を複数の行視点から描いた異世界ファンタジー作品。

 物語は一人称で描かれるのですが、視点である主人公が透明な印象です。そのため没入感を持って読む、というよりは少し俯瞰した位置から物語を読むことになります。そのため、主人公に共感できないなどといった不要な読みにくさを感じることがありません。複数の視点から描かれる本作ですが、どの“自分”も違和感なく読み進められました。

 対して、様々な“自分”を通して見る世界や人々は驚くほど丁寧に描かれていて、歴史背景や“自分”を取り巻く環境、情勢などが非常にわかり易い。その説明も地の文や会話をうまく織り交ぜて描かれているため、入ってきやすい。時を経るごとに刻々と変化していく状況を、脳内でイメージしやすかったです。

 そんな、時とともに移り変わる世界情勢を一人称ながら俯瞰的に見ていく本作は歴史書のようでもあります。武器、防具、道具。鉄臭いそれらに加えて貴族、領、傭兵、果ては奇妙な動物など。現代に生きる私たちに馴染みのない様々な人・モノが不思議と脳内にありありと浮かぶ様は正しく、異世界ファンタジーならではの“異国感”ではないでしょうか。

 個人的には、そんな異国感に時折入り込む「オダ」を始めとした日本らしさも秀逸で、異世界への親しみを生むいいアクセントになっている印象でした。

 意味深なプロローグから始まる物語。武器、防具、“戦”への確かな知識のもとに描かれる異世界の歴史を複数の“自分”から多角的に見ていく。その先に待ち受ける“未来”とは…? 一味違った異世界ファンタジーを求めている方には特におすすめしたい作品です!

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