仮想世界と現実が等しくなってしまったら、私たちはどう愛を知覚するのか。

知覚。それも愛に対する知覚。
それはどんなにバーチャルが発展しても、現実世界に生きる人間だけの特権。
……そう思っていました。このものがたりを読むまでは。

ものがたりは、仮想世界へと意識を埋めてしまった恋人を、そのなかに探しにいく男の姿を追って始まります。
結果として、恋人は仮想世界から現実世界に生還します。
ですがそれは、ひとりではなく「魔女」と呼ばれる仮想世界の住人を伴っての帰還。それにより、バーチャルが現実を取り込むのではなく、現実がバーチャルを取り込む、または等しい存在となるという、ものがたりはなんともふしぎな結末を迎えます。
バーチャルとリアルが混在したその新しい世界をもって、私たちはそこをなんと呼ぶのでしょう。そこでは、感情はなんと呼ばれるのでしょう。特に、愛情は何をもって示されるのでしょう。
けれど、このものがたりはそこまでを語りません。その先は読み手の想像に任されます。その、読み手による読了後の思索こそが、この作品における主題であるのかも知れません。