ものこころ
@gensama
第1話
古来より[もの]に感謝をして生きる、私たちのこの国
そこにある[もの]には全て心があるといわれます
憑神と呼ばれたり、ものに魂が宿ると言う事は当たり前。
そんな世界のお話です
ここは田舎道、木陰に1人の青年が座っています
あるものに1通の手紙が届きました。
[皮で出来た大きめの封筒のようなものを取り出す]
いつものことのように中から手紙を取り出し読む青年
それを読むと青年は(さて行こうか)と呟き、その場を立ち上がります。
場所は変わって山の中の古い家の前に青年がいます
物音もしない家に向かって青年は話しかけます。
(ごめんください。協会からの依頼できました。どなたかいらっしゃいますか?)
すると家の中から1人の老人が出てきます。
(よくきてくださいました。
さ、ちらかったままで申し訳ないですが中へどうぞ)
招かれるままに中に入る青年
するとその家の真ん中の部屋に1人の子供が寝かされています。
周りには様子を伺うように大人達が座り込んでいます。
子供の近くには両親らしき人物がいて、青年の姿に目をやりつつも伏せるようにうなだれています。
迎えてくれた老人が口を開きます。
(さ、ユウタ お医者さんがきてくれたよ。)
青年の姿はどこから見ても医者には見えません。
(や、私は医者ではなく…」
言いかけた所で老人が口を挟みます。
(特別なお医者さんでしたね。)
青年は
[ああ、その方がわかりやすくていいと言うことか。]
と、納得した様子で
(では早速ですが診察しましょう。)
ユウタの様子を見て青年は難しい顔をしながら
(これは少々厄介ですね。まずはこの部屋にいる皆さん、他の部屋に移ってもらえますか。)
と、人払いを促します。
母親らしき人は訝しげな顔をしながらも、医者の言うことだからと旦那に促され席を立ち隣の部屋に移ります。
では、と、障子をしめて子供と2人になった部屋
青年は声を潜め、ユウタに声をかけます。
(さて坊主、思い当たる事は無いかい?)
少年は苦しそうにしながら首を横に振ります。
(んー思い当たる事はないかー)
(じゃあ覚えてるだけでいいから、ここ何日かの間に見た夢を教えてくれないかい?)
(ああ、今のままでは苦しいから、ちょっとこれを貼ってからにしよう。)
と、取り出した小さな箱からお札のようなものを取り出し、ユウタの額に貼りました。
するとユウタの顔色は一気に赤みを帯びていきます。
(苦しいのはマシになっただろ?)
うん、と頷くユウタ
(では、夢の話を教えておくれ。)
(夢の話って、どんな話でもいいの?)
と、ユウタは尋ねます。
(そうだなぁどんな話でも良いんだけれど、無理に思い出そうとしないで、覚えてる話を覚えてる順でいいよ)
(わかった)
少しの沈黙
(夢の中でね、真っ黒な◯が追いかけてくるの)
(それがどんどん近づいて来るんだ)
(とっても大きい◯がどんどん近づいて来て、なぜだかとても怖くて…)
身体を震わせ汗をかきながら話す少年
(そうか…)
青年が声を掛けようとすると
(そう、ぶつかる!死んじゃう!と思った時に何かわからないけどフワッとした感触に包まれてぶつかったち、飛ばされたりはしないんだ)
青年は話を聞きながら少年の顔をじっと見ている。
(夢の話はそれだけかな?)
頷く少年
(なるほどなぁ)
青年は周りを見回すと枕元に気になるものがあった。
(これは?)
(おばあちゃんがくれたお守り)
枕元の小さな巾着を手に取り、大事そうに握りしめる。
(ふむ。今日はここまでにしようか。
そのお札を貼っていれば夢は見ないから、ゆっくり寝て明日一緒に探しものをしてくれるかい?)
(わかった。もう怖い夢は見なくていいんだよね)
尋ねる少年に
(大丈夫)
と、優しい眼差しで答える青年
(さて、みんなを呼んでくるけど、布団から出ずに寝てていいからね)
隣の部屋で待っているお母さんに声を掛けようとした時、ユウタは青年の腕を掴み、耳元で囁くようにヒソヒソと何かを話した。
やがて隣の部屋に声をかけると皆が大急ぎで中に入って来た。
お札が貼られているけれど、赤みを帯びたユウタの姿を見て
(良かった…)
と、安堵の表情を浮かべる母親
青年は
(お腹が空いている事でしょうから、お腹に優しいものを食べさせてあげてください)
そして
(おばあちゃんは…)
と言いかけた所で
母親が
(すでに他界しております。)
と答える。
(そうでしたか。)
(あの子はいったいどうしたんですか?)
少年の食事を作りに母親が席を外すと父親が話しかけて来た。
(そうですね。ハッキリとした原因はこれから調べないといけませんが、モノに憑かれているという事だけはわかりました。)
(モノに?)
(はい。モノです。)
(それはどういう…)
(わからなくて当然です。すこし掻い摘んで話します。
この世界はモノで作られています。その全てのモノには、誰かの思いが込められています。
モノを作り上げる時、モノを生み出す時。その全てに誰かの心がこもり、そのモノを持つ側、使う側が心に反する使い方や間違えた方法で使ってしまうとモノに込められた心、思いが反発するように影響を与えて来ます。
今回ユウタ君には、モノから何かしらの作用が起こり、身体に影響を与えている。その結果として、体調を崩して寝込んでしまうという症状が出てしまったという事です。)
(じゃあユウタが何かモノに対して、間違った扱いをしたのか、何か悪いことをしたから今回のようになったと…)
(ま、簡単に言えばそう。
…ですが、込められた心は目には見えませんから、ちゃんとした使い方をしたとしても、込めた側は間違えている。となる可能性もあります。
その辺りが難しいので、私達のような仕事があるわけですよ。
とにかく今日は、これ以上何も出来ないので、明日ユウタ君を連れて原因を調べてみようと思います。
よろしいですよね?)
(もちろんです。よろしくお願いします。)
(ところで…今夜このままでは野宿になってしまうのですが、どこか隅っこで寝させてもらえませんか?)
(ああ!どうぞどうぞ!
古い家ですが部屋はたくさんありますので!)
(それは有り難い。助かります。)
(そういえば食事もまだですね?先生はいける口ですか?)
(先生だなんて…まだまだ未熟ものです。お酒は嗜む程度ですが、嫌いではありません。)
(それはそれは!親父、この間の酒どこに置いた?ユウタのためにわざわざ来てくれた先生だ、飲んでもらおう。)
と、夜も更けていくのであった。
翌朝、空が白んできたころ、既に外に出て何やらキョロキョロしている青年の姿
畑仕事をするために外に出た老人がその姿を見て声をかける。
(おはようございます。昨夜はユウタの様子もおさまり、久しぶりの来客でついつい遅くまで付き合わせてしまいました。大丈夫ですか?)
(おはようございます。大丈夫ですよ。これから畑に向かわれるのですか?)
(そうです。先祖代々の畑がありまして、今は私だけですが細々と維持しています。)
(ご一緒してもよろしいでしょうか?)
(何もありませんが、よろしければどうぞ)
と、家族に声を掛け老人と共に畑まで歩く。
(息子さんはお勤めで?)
(息子は車で駅に行き、そこから1時間ほどの会社に勤めています。)
(そうですか)
(先祖代々保ってきたとはいえ、稼ぎにならない畑仕事は私の代で終わりです。)
寂しそうに話す老人
(それも時代の流れですかね)
やがて野菜を手に持ち家に帰る2人の姿。
その姿を遠目に見てユウタが声をかける。
(先生!おはよう!)
老人は嬉しそうにして
(ユウタ!すっかり元気になったなぁ)
(おはようー
あっ、お札は取れちゃったか?)
(そうなんだ!朝起きたら外れてた!でもよく寝れたよ!)
奥から母親が顔を出し、頭を下げて
(先生、ありがとうございます。)
(朝ごはんの準備が出来たので是非一緒に食べてください。)
(それは有り難い!お爺さんと一緒に動いたので腹ペコだったんですよ)
楽しげな4人の姿があった
朝食を食べ終わり、縁側で一服している青年と老人
(先生、ユウタはどうなりますか?このまま何事も無かったようにはなりませんよね?)
(そうですね。今日は息子さんにも伝えていたようにユウタ君と一緒に原因を探してきます。)
(そうですか。どうぞよろしくお願いします。亡くなった家内がユウタの事を心配しているのではないかと気が気ではなくて。生前も孫可愛やは当たり前でしたが、何より色々心配していたのです。それが気がかりで。)
(なるほど。お婆さんの思いはかなり強いんですね。その思いに叶えるように、今日中に原因を突き止めてしまいたいと思います。)
ぺこりと頭を下げて、立ち上がる青年
(ユウタ君!そろそろ行こうか)
(はーい)
台所から大きな声で返事をする。
玄関から外に出て、お爺さんとお母さんに見送られる。
(先生!どこいくの?)
(そうだな。まずは畑に行こうか)
(お爺ちゃんの畑?ぼく畑大好き!)
(おばあちゃんが居た頃は毎日一緒に行ってたけどね、おじいちゃん1人で行くようになって。
お母さんが邪魔になるから行っちゃダメって。)
(そうか)
(だけどときど…)
ハッとした顔をして、うつむくユウタ
(どうした?)
うつむいたまま首を横にふる
(なんでもない)
(1人で畑に行ってたのか?)
パッと顔を上げ
(誰にも言わないで!)
と、必死に言ってくる。
(内緒なんだな。誰かと約束したのか?)
またうつむき、小さな声で
(うん)
と、答える。
(よし、内緒にするけど誰とどんな約束をしたのか話してくれるか?)
(えっ)
と、戸惑いながら顔を上げるユウタ
(もしかしたら、ユウタの怖い夢に関係あるかもしれないからな)
(わかった)
(畑にね、お地蔵さんがいるんだ。おばあちゃんに教えてもらったんだけど、お地蔵さんに見えなくて、家もなくて、木の穴に入ってるんだ。そのお地蔵さんのお世話をおばあちゃんと約束したんだ)
(へー いい事してるなぁ)
ユウタの顔がパッと晴れるように変わり、嬉しそうに話し続ける
(それでね、畑に行ったら木の穴にいるお地蔵さんに手を合わせて、お弁当のご飯を少し置いていたんだ)
(それはおばあちゃんに教えてもらったのか?)
(そうだよーお地蔵さんが喜ぶからって!)
(でもおじいちゃんの邪魔になるから行っちゃダメってお母さんに言われて)
(でもこっそり行ってたのかい?)
頷くユウタ
(それじゃあ、ユウタのおばあちゃんが大切にしていて、ユウタも大切にしてるお地蔵さんに会わせてくれるか?)
そういうと青年はユウタの手を取る。
(うん!)
にっこり笑って歩き出すユウタ
その木は畑の端、山に入って行く道の手前にあった。
(ここ!)
(ほー!これは立派だな!)
それはただの木とは言えない雰囲気を備え、神木として崇められててもおかしくないほど、とても立派な木であった。
ユウタは青年の手を離し、1人走って木に近づいて行く。
(ここー!はやくー!)
よほど嬉しいのか大きな声で呼びかける。
大きな木の根元には小さな穴が空いていた。
覗き込んでみると中には小さな石の塊が見えた。
(これがお地蔵さん?)
明かりのない部分なのでしっかりと確認ができない。
青年はユウタに問いかけた。
(そう!真っ暗でわかんないでしょ!)
ユウタはニコニコしながら答える。
スマホを取り出し照らそうとすると
(待って!おばあちゃんが大切にしてたお地蔵さんは、もう少ししたら見れるから!)
と、何故か照らそうとする手を掴み、辞めさせる。
(なにか秘密があるんだな)
青年がユウタに聞くと
(そう!)
力強く答えるユウタ
(わかった)
するとユウタは木の裏に行こうと手を引く。
一緒に行くと少し離れた所に小川が見えた。
(あの川にね、大きなカエルがいるんだよ!)
(へー)
2人で小川に行き散策する。
(ここは生き物がたくさんいるなぁ)
カニ、えび、カエル、魚も虫もと、色々な生き物がその生を謳歌している。
この綺麗な水は美しい景色を作り上げる山々から降りてきているのだろう。
(居た!こっち見て!)
ユウタは小川の反対側を指差す
(おー!おっきなカエルだな。近くの池の主さまかな)
するとカエルはまるで返事をするように(ケロ)と一声鳴いて川に飛び込みスイスイと泳いで去っていった。
小川をひと通り探索すると、いつのまにか時間も過ぎ、お昼にさしかかろうとする頃になっていた。
(あっ!お日様が上に行った!お地蔵さまを見に行こう!)
ユウタはそう言うと返事も待たずに走り出す。
(はやくー!)
なんだ?と思いつつ
(わかったわかった)
と、追いかける。
そのまま木を通り過ぎるユウタ
ん?と、不思議に思いながら
(ここまできて!)
と言われるままに、ユウタの横に立った
(はい!回れ右!)
遊んでいるようなユウタに合わせ回れ右をする
(うわっ!)
そこには根元から光の溢れる先ほどの立派な木があった。
(神々しいとはこの事だ)
思わず口を突いて出てしまう
(すごいでしょ!)
(うんうん、これはすごい!)
木の中から溢れる光に誘われるように近づいていく。
中のお地蔵さんがよく見える。
それはまるで元々そこにあったかのように木の幹に巻き込まれ、スカートを履いているように見える小さなお地蔵さんだった。
上から差し込む光に後光が差しているようなそのお地蔵さんの姿に心を惹かれる。
(美しいな)
自分のことを褒められているように嬉しそうな顔をしているユウタ
このお地蔵さんを大切にしていたおばあちゃん。
その思いを継いでいるユウタ
しかし、これ以外にユウタが苦しくなる原因は考えられない。
家の中に場面はかわる。
(おじいちゃん!お地蔵さまに会ってきたー)
(おーそうかそうか。)
(おばあちゃんに教えてもらった通り挨拶してきたよー)
青年はその様子を見ながら色々考えている様子
(ユウタ、おばあちゃんにもらったお守りを見せてくれるか?)
(いいよ!)
と、枕元に置いていた巾着は、ユウタの部屋に吊り下げているようで部屋に向かい青年に渡す
おもむろに巾着の口を開ける
(なんだこれは…)
小さな石が中に入っていた
おじいさんに向かい
(これは…)
と尋ねるとユウタが横から
(それね、あの川にあったんだ!)
(そうか、河原の石ってことか)
まん丸に近い形で光沢のあるツルッとした美しい石
それを巾着から取り出してみる
(なるほど)
独り言のようにつぶやく青年
(ユウタ、こっちにきて)
(なに?)
(この石を両手で包んで、いつもありがとうって、おばあちゃんのことを思い出して言ってみて)
(わかった)
ユウタは目を閉じて両手で石を包み、いつもありがとう。)
と言葉にした。
すると石は光を放ち、包んでいる両手から光が溢れた。
そしてその光はユウタを包み込む。
その様子を見ていたおじいさんと母親は驚き、ユウタ!と声を上げる。
青年は(心配いりません。このまま待っていてください。)
というと青年自身も身を瞑り、瞑想する姿になった。
青年はこの時、ユウタの心の中に入っていた。
(ユウタ、聞こえるか?)
(聞こえる!ここはどこ?)
(ユウタの心の中)
(でも真っ暗でなにも見えない)
(じっと前を見てごらん)
(あっ!おばあちゃん!)
にっこり笑っているおばあちゃんがユウタに見えてきた
(ユウタ、いつもお地蔵さまのお世話をしてくれてありがとう。)
(だけどね、あの辺りは川もあるし、蛇や虫も多いから、1人で行っちゃダメと言ったでしょ)
(うん。ごめんなさい)
(だから心配で、来ないようにとお地蔵さまが夢の中で教えていたのよ)
(ほんとはもっと怖い夢になるのだけれど、おばあちゃんは我慢できなくて途中で夢から覚めるように守ってしまったの)
(だからもう1人では行かないでね)
(わかった!もうこれからは1人で行かないよ!心配させてごめんなさい!)
ユウタがそういうと、にっこり笑ったままおばあちゃんは消えていった。
(おばあちゃん!またね!)
青年が瞑想をやめ、ユウタに眼を向ける。
すると両手に包まれた石からの光はおさまり、ユウタの目が開く。
おじいさんと母親はユウタに声を掛ける。
(いまね、おばあちゃんに会ったよ!)
元気そうな声に母親もおじいさんも力が抜ける。
母親は確かめるようにユウタを抱きしめる。
(先生、どういうことですか?)
おじいさんが青年に声を掛ける。
(ユウタの言う通り、心の中でおばあちゃんに会ってきたのです。)
(それで、ユウタは?)
(もう大丈夫ですよ。ユウタがおばあちゃんとの約束をしっかりと守れば。)
ユウタに目を向け
(そうだよな?)
(うん!もう1人で行かないよ!)
と、つい言ってしまいハッとなる
(ユウタ!危ないからダメって言ったでしょ!もうやめてね)
(うん、ごめんなさい。)
青年は
(でもユウタのおかげであんなに美しい姿を見せてもらえるんですよ。)
と、お地蔵様の姿の話をするが、母親はわからない様子だ。
(ユウタ、今度お母さんにもあのお地蔵様を見せてあげてくれるか?)
(わかった!)
1人田舎道を歩く青年の後ろ姿
ある物に1通の手紙が届きます。
(ん?)
と、皮で出来た封筒を開ける青年
(そうか。それなら安心だ)
と、独り言を言う青年
手紙に寄る。そこには
(先日は大変お世話になりました。あの後ユウタに連れられ主人とお地蔵様を見に行きました。あんなに素晴らしい景色は初めてでした。
これからは家族であのお地蔵様を大切にお守りしていくことを主人と約束し、それがご先祖様、おばあちゃんへの想いにもなると話し合いました。)
その手紙から離れていきながら、道の上から青年の姿を映し、そのまま空を映し出す。
完
ものこころ @gensama
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