【62幕】羞恥心は呪縛を振り解く鍵
「ダリア様……。少々、手荒になりますがご容赦下され……。この不届者を懲らしめますゆえ」
パイアの方に歩みを進めているセバスチャンの後ろ姿をゼオンは見つめていた。静かなる怒りが背中から溢れ出しているようにも見える。相手が誰であろうと、主を守る最強の盾と言ったところか。
「
構えたセバスチャンから、無数の稲光がパイアに向け放たれる。空を割き、音を喰らいながら生き物の様に進む光。パイアに直撃するかと思ったが、寸前のところで稲光は逸れ、周囲の木々を薙ぎ払う。セバスチャンの緻密な制御にゼオンは感心していた。
「当てられなきゃ意味ないんだよ!! やっぱりこいつの身体は傷つけられないだろ!」
「ええ……確かに。大切な御身体には……。なので、こうさせて頂きました」
「はぁっ?」
セバスチャンの放った魔術に何かしら意図があるはずだとパイアの周りを見ていたとき、ゼオンの視線に微妙な違和感が映り込む。その正体を知るのに時間はかからなかった。
「
ゼオンの気が付かぬうちに、セバスチャンの影がパイアの影に伸びて重なっていた。先程の魔術は、パイアに影ができるように木々を薙ぎ払う意図があったことにゼオンが気がつく。
「くそっ! 動けないじゃないか!」
「ええ。あなたは、私の影の中にございます。このまま、絞め殺すこともできますが、それでは困りますゆえ」
「何もできないなら、意味がないわっ! 」
「貴方には意味が無いですが……」
動けなくなったパイアに向け、静かに殺意を練り上げるセバスチャンの気配をゼオンは見逃さなかった。かなりの魔力を練り上げ、魔術を放とうとしているのがわかる。
「ダリア様……。失礼ながら、お仕置きの時間に御座います。
紅蓮の炎が意思を持つ獣のように、パイア目掛けて進む。喰らわれる空気に、放たれる熱気。普通であれば立っているのもやっとではなかろうか。パイアに直撃かと思ったが、やはり寸前のところで逸れる。何の意味があるのか、ゼオンにも分からない。
「だから、意味が無いんだよ!」
「ええ、貴方には」
「はあっ? だから何だ……? なに?」
小刻みに震えるパイアの膝を見て、ゼオンはようやく理解ができた。精神的な恐怖。セバスチャンに指導された過去。トラウマでもあるのではないかと考えた。
「ダリア様を鍛えた月日……。貴方には分からないでしょうが、心には刻まれているのです」
「クソッ!! クソっ!」
「仕上げといきましょう……」
セバスチャンが何をもって仕留めるつもりなのか、ゼオンは息を飲んで見つめていた。
「✕✕と◯◯で△……。△△に◯◯…… 」
「何を言ってんだよ! 意味がわからないんだけど
」
「◯◯で△△……■■■……」
最強といえば最強。日記と言うか、セバスチャンが見てきたダリアの恥ずかしい日常の失敗談。他人には聞かれたくない恥ずかしい話が、セバスチャンの口から放たれる。並の魔術より、効果がありそうだ。パイアに目を向けると、みるみるうちに顔が真赤に染まっていくのがわかる。パイアの怒り、ではなくダリアの羞恥心。
「や……やめろ! 暴れるな! この身体は、あたしのもんだぁっ……」
苦しむパイアに向けて、セバスチャンが静かに言葉を放つ。これが、終わりだと言わんばかりに。
「ダリア様が最後におねしょをされたのは……」
「やめて!!! セバスチャン!!!」
ゼオンでもあれだけの秘密を暴露されたら、死の淵からでも蘇るのではないかと感じてしまう。ダリアの精神、もとい羞恥心がパイアに勝ったのか。ダリアの身体から、パイアの気配が消えたことをゼオンは感じた。
魔王と呼ばれた漢のセカンドライフ 南山之寿 @zoomzero
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