企画入賞レビュー「これぞ怪談の醍醐味」


夏と言えば怪談。夏と言えば夕立ち。
夏らしい要素を二つも詰め込んだ上に、二転三転する先を読ませぬ物語で最後まで私の心をガッチリ鷲掴みにしてくれた今回の企画に相応しい名作です。
都会から引っ越してきたものの、田舎の生活に馴染めぬ僕が、雨宿りの為に立ち寄ったのは見たこともない静謐で立派なお屋敷だった。好奇心にかられ奥へ奥へと入り込んだ僕が、そこで出くわした人物とは?

いかにも日本の田舎らしい雰囲気づくりもさることながら、続きが気になる構成・展開も良く出来ています。やはり怪談の醍醐味といえば、ストーリーテラーとしての「語り手の上手さ」や、ありがちではない予想外の驚き(それでいて延々と説明せずとも即座に理解できるシンプルさ)更にはオチの見事さに尽きるのではないでしょうか。
そうきたかぁ、コイツは一本取られたぜ。そう喝采せずにはいられない完成度の高い怪談はそんじょそこらで見つかる代物では断じてないのです。

この話、材料をバラバラにしてパーツごとに見た場合、どれも有り触れた素材しか使っていないんですよね。マヨイガ、怪しげな女性、オチ。とても普通。それはつまり目新しく斬新な食材を使わなくとも美味しい料理は作れるという事実の再確認に他なりません。
そう可能なのです。料理人の腕さえ優れているならば。
作家の実力をかくも分かり易い形で示してくれたこの作品こそ、入賞に相応しいものです。

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