PART5 気分はフィリップ・マーロウ?

 驚いた。

 どこから集まって来たか分からないが、会場の中は目視で数えただけでも凡そ1000人、全員が何かしらのコスプレをしている。

 スパイダーマンがいる。

 スーパーマンがいる。

 ワンダー・ウーマンがいる。

 キャプテン・アメリカがいる。

 アメコミばかりじゃあない。

 日本が生んだヒーロー、ヒロイン達も、アニメから特撮まで目白押しだ。

 そしてそれらに扮しているのは、日本人ばかりとも限らない。

 アフリカ系、アングロ・サクソン、アラブ系、ヒンドゥー、チャイニーズ・・・・etcという訳で、それだけでも見ごたえがあるというものだ。

 勿論、リン嬢と、その仲間たちも既に準備を整えて歓談していた。

 リンは当然ながら、宇宙を駆け回る女賞金稼ぎ。二丁拳銃がやけに似合っている。

 他の仲間たちも、魔女っ娘や戦隊ヒーローに扮していた。

 当然だが、あの”恐い外国人組織”の面々もいる。

 彼らは揃いも揃って、”生ける死者”、

 即ちゾンビに扮している。

 だが、御世辞にも似合っちゃいない。

 もっともその点に於いては、俺もあまり他人ひとのことは言えない訳だが。

 俺はポケットを探り、キャメルを取り出して・・・・と行きたいところだが、残念ながら煙草は当の昔に止めている。 

 恰好はつかないが、シナモンスティックを咥え、気分だけを味わうことにしよう。

 しかし、何をどう間違ったんだろう。

 そこらに居た連中が、矢鱈に声を掛けてくる。

 写真を撮ってくれだの、握手をしてくれだのというのだ。

 中にはサインをしてくれというのもいる。

 それだけは流石にご辞退申し上げた。

 あまり自慢する事じゃないが、俺は悪筆なんだ。

 たとえ今は”気分はフィリップ・マーロウ”だからって、人前で字なんか書くぐらいだったら、仕事を放り出してこの場から逃げ出しても構わないとさえ思う。

 しかしそうする訳には行かんから、優雅に、それでいて頑なにご辞退申し上げたという訳だ。

 リン嬢とその一行も、他の仲間と一緒に参加者の耳目を集め、写真を撮られたり、握手をしたり、サインを求められたりして、得意満面の体である。


 そのうちに、仮面ライダーの敵組織、ショッカーの戦闘員に扮した司会者が出てきて、

”人気投票を行います”と告げた。

 俺はイベントだから、ただ集まって楽しむだけだと思っていたら、そうでもなく、会場に来ている参加者上位十名までを”ベスト・レイヤー”として表彰し、トロフィーを贈るというのだ。

 司会者の宣言の後、バニーガールの衣装を着たコンパニオンが、投票用紙を配って回る。

 仕方ないな。

 俺は胸につけられた番号札を確認してから、リン嬢と、そのお仲間の番号を書いて投票して置いた。

 後はこのまま時間が黙って過ぎてくれればいい。

 そう思ってを括っていたのだが・・・・。

 

 

 

 

 

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