PART3 ヒロイン、来(きた)る。
俺は大兄氏からの”着手金”の振り込みを確認した。
四日後、羽田空港に”リン嬢”を出迎えに行った。
そうはいっても、当然、向こうにはまったくの秘密に、である。
定刻通り、入国手続きを済ませた彼女は、ゲートを潜って出て来た。
空色の長袖Tシャツにジーンズ、頭にはピンク色のキャップ、栗色のショートヘア。大きな黄色いスーツケースを引っ張り、肩にはそれよりもやや小さいぐらいのショルダーバッグを背負っている。
少し吊り上がり気味の目に、シャープな顔立ちは、どことなく”大兄氏”に似ている。
彼女を正式に出迎えたのは、日本人が一人と、先に着いていたであろう二名ほどの全員女性の仲間だった。
中には気の早いことに、もう既にコスプレをしている者さえいる。
俺は出来るだけ彼女達と距離を取って後を追った。
一行は、二台のタクシーに分乗し、ロータリーから走り去る。
俺は直ぐ近くに停まっていた別のタクシーに手を挙げ、
『前の二台を追ってくれ。前渡しだ。ツリはいらん』と、運転手に万札を渡し、後を付けさせた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
凡そ1時間ほど走ったろうか?
前方の二台は、都内某所(詳しい場所は秘密にしとこう。情報源の秘匿って奴だ)にあるホテルに横づけした。
え、なんだって。
”お前は秘密にしすぎる。もっと詳しく教えてくれなきゃ、リアル感がない?”
仕方ないな。
まあ、秋葉原から歩いても30分ほどの場所にあるとだけ言っておこう。
俺は運転手に、少し離して停まるように指示し、そのままタクシーを降りた。
リンとその友人、合計五人は、楽しそうにはしゃぎながらホテルの中に消える。
ロビーに入り、カウンターでチェックインを済ませると、エレベーターの方に歩いて行った。
さり気なく内部を見渡す。
なるほどな。
良からぬ人相風体の男が四人。ソファに腰かけて彼女たちを監視している。
チャイニーズ系が一名、他の三人はフィリピンかインドネシア系に見えた。
恐らくこれが大兄氏の言葉にあった、
"対立している外国人武闘派組織”という奴なんだろう。
それにしてももうここまで鍵つけていたのか。
手回しの早い事だ。
俺は素知らぬふりをして、四人の前を通り過ぎ、エレベーターの方に向かう。
彼女達はどうやら七階で降りたらしい。
エレベーターが下がってくると、四人組が立ち上がり、乗り込むべく、速足で急いだ。
ドアが開く瞬間、俺も乗り込む。
連中は俺の方を苦い顔をしてにらみつける。
俺はそっぽを向き、口笛を吹きながら操作パネルのすぐ傍に立ち、
『何階?』英語で訊ねると、一人がぶっきらぼうに、
『ナナカイ』と、独特のイントネーションのある日本語で答えた。
『丁度良かったですな。私も同じなんですよ』
からかうような調子でそう言ったが、連中は何も答えなかった。
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