第12話 気を付けましょう📚その法律ネタ①解答編

 さて、前回の「お兄ちゃん」と「梅雨子」のやり取りの中にある「誤り」.

 わかりましたか?


 もう一度、《ケース1》を見てみましょう。


《ケース1》

「お兄ちゃん、あたしお兄ちゃんのお嫁さんになろうと思う」

 また梅雨子がおかしなことを言いだした。

 ワタシは応えず、怪訝な表情を見せる。

 すると梅雨子は、ワタシの腕に縋りついた。あたたかくて、ふんわりした柔らかな感触を二の腕に感じる。

「知っているでしょう? あたし、今日で十六歳になったんだよ。もう結婚できる年齢になったんだよ!」


 ラブコメとかにありそうな展開です(え? ない!?)。


 法律上の問題になりそうな点は、つぎの二つ。


 1.兄妹間では結婚できない。

 2.二人は結婚できる年齢に達していない。


 まずは、1から検討してみましょう。


 1.兄妹間で結婚できる!?


 結婚(婚姻)に関する原則ルールは、「民法」という法律に規定されています。

 法律婚(民法上の婚姻)の成立について誤解をおそれず公式化すれば、以下のようなものになるでしょう。


 両性の合意+婚姻届出+婚姻障害事由の不存在=法律婚の成立。


 今回のテーマの一つである「兄妹間の結婚」は、上の公式(要件)のうち、「婚姻障害事由の不存在」に関するものです。


 婚姻障害事由というのは、ようするにその婚姻に不適法な事情がある場合です。


 なにが不適法な事情かは明文で規定されています。


 じゃないと、安心して結婚できません。法律の規定にも無いのに、役所へ婚姻届を出しに行ったら、「お二人の結婚は違法です」とか言われても困りますから。


 さて婚姻障害事由ですが、民法上は、①婚姻年齢、②重婚の禁止、③近親婚の禁止があります。


 かつては、「女性の再婚禁止期間」や「未成年者の婚姻における親の同意」の規定も存在しましたが、改正により削除されました。


 ちなみに、「同性婚」がこの要件に関する問題になるのかどうかは、検討の余地がありそうです。

 ただ、同性カップルが婚姻届をしても役所で届出不受理となりますから、婚姻障害事由がある場合と同じ扱いになっています。今回は触れません。


 話を戻しましょう。兄妹間の婚姻です。近親婚といいます。

 インセストタブー(近親婚の禁止)は、どの国の民法にも存在します。ただ、その範囲は国によって異なるようですね。


 近親婚の禁止に関して民法734条は以下のような規定をおいています。


(近親者間の婚姻の禁止)

【第七百三十四条】

 1 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。

 2 第八百十七条の九の規定により親族関係が終了した後も、前項と同様とする。


 この規定から、①直系血族間の婚姻、②三親等内の傍系血族間の婚姻が禁止されていることが分かります。


 たとえば親子間では結婚できませんし、兄妹間もアウトとなります。


 親子間は「直系血族間の婚姻」にあたり、

 兄妹間は二親等の傍系血族となりますから「三親等内の傍系血族間の婚姻」にあたり婚姻が禁止されるというワケです。


 ですが! 例外があります。民法734条第1項の「ただし書き」です。


「ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。」


 たとえば、梅雨子が養子(いわゆる養女)だった場合、あるいは「お兄ちゃん」が養子だった場合、他の要件を充たせば、ふたりは結婚できるのです。


 したがって、兄妹間でも結婚できる場合があります。すると、この点については誤りがあるとまではいえません。



 それでは、次に2について検討しましょう。


 婚姻できる年齢については、民法731条につぎのような規定がおかれています。


(婚姻適齢)

【第七百三十一条】 

 婚姻は、十八歳にならなければ、することができない。


 じつはこの規定、2018年(平成30年)に改正されたのものです。


 改正前は、男は18歳に、女は16歳にならなければ婚姻できないという規定でした。

 わりと有名なルールでしたね。女性は16歳で結婚できるという点は、さぞ作家さんたちの創作意欲を刺激したことでしょう(知らんケド)。


 ですが男女の2歳の年齢差の理由が、女性は早熟で早婚だからというイミフなものだったこともあり、1996年に改正案が作成されました。


 ええ。1996年には改正案がすでに出来上がっていたんです。


 それが20年以上経って、ようやく改正されました。

 そして、この18歳という年齢は民法上の成年年齢です(民法4条参照)。


 つまり改正により、成年にならないと結婚できない、というルールになったのです!


 ……近時の平均初婚年齢の統計を見ますと、男女とも30歳近くにならないと結婚しない(できない)んですけどね。


 それが18歳から結婚できると規定する民法……。


 その年齢で結婚できるヤツが、いねぇんだよ!


 と激しくツッコみたくなります(笑)


 さて、《ケース1》で梅雨子は、


「知っているでしょう? あたし、今日で十六歳になったんだよ。もう結婚できる年齢になったんだよ!」


 と言っていました。


 残念ながら、現行民法では結婚できる年齢になっていません。

 したがって、このセリフの「16歳」という部分は誤りです。


 ヨムヨムしていると、たまに見かけるんですよ。

 16歳結婚ルールで書かれている物語。


 作者のみなさま、お気を付けくださいね。



【今回の要点】

お酒とたばこは20歳から! 成年者であっても20歳から!

でも、成年になれば結婚できるよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気の向くまま⭐思いつき【短編集】 わら けんたろう @waraken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ