◆地獄の底への長期切符
部隊に新しく人を迎えることになったと聞いて、シミズはその情報を知らせに来たヒョウに対してその端正な顔を歪ませた。よく目を吊り上げたり、呆れた表情を隠しをしないシミズのその対応事態にヒョウは全く動揺を見せずに話を続けた。
「それがなんと今朝休憩室にいた奴なんだって!」
「はあ? あの人、全く有名じゃなかったでしょ。しかも、僕の記憶が正しければ、新人で、気絶したっていう」
「そうそう。俺も全く知らなかったし、ヤーさんたちも知らないって言ってた」
「そっちのフミとは話が全く別なんだけど。何、部隊長ってば頭飛んだの? 新人ってことは全く教育も出来てないじゃん」
ヒョウと同じ班に属するフミは今のところ一番の新人だが、彼はきちんとした家柄に属しており、尚且つ部隊員として行動してきた実績も持っていた。シミズもヒョウも以前の部隊で経験を積んでから天空部隊へと移動した。
隊最強の部隊へ新人の状態で入隊できる人間など、天宮家以外ありえないのだ。
「部隊長だけじゃなくて、朔夜と精司も乗り気だったらしい」
「……何考えてんの、あいつら」
ヒョウから聞いた事実にシミズは頭を抱えた。事実上、その新人が天空部隊に所属することは本人の意志とは関係なしに決定されたことを物語っていた。
この部隊は、全て天宮家のために存在しているのだから。その天宮家に所属している朔夜と精司が気に入ったとなれば、どんなに新人が反発しようと意味がないのだ。
「魔法も何も見せてもらってないんでしょ。そいつの人格だってわかってない。足を引っ張るとしか思えないんだけど」
「シミズって相変わらず回りくどい言い方するよなー」
「は? そういうんじゃないけど」
「俺が言おうとしていることに対して、先に突っ込みすんなよ! ま、新人君のことが心配なのはすっげぇ伝わったからさ」
「あのさぁ、ヒョウのそういう過大解釈どうにかした方がいいと思うよ」
既にやり取り自体は慣れ切っているため、シミズはヒョウが自身に対して何を言うのかも想像ついていたし、それが自分の評価に見合わないことも知っていた。
大きく口を開けて笑う能天気なヒョウのことをジト目で見ながら、シミズの口は止まらなかった。
「大体、朔夜と精司も本当に何考えてんの。あいつらは自分たちに力なんかないっていうけど、天宮の姓を持っているだけで影響力があるって自覚しているくせに」
「それな! ま、穴埋め要員じゃね?」
「新人で穴が埋まるわけないでしょ。そんなの、ヒョウが一番よくわかってると思うけど」
あくまで軽く発言するヒョウに対して、シミズは咎めるように声を低くした。
そんなシミズに対して、ヒョウは一瞬目をぎらつかせたが、大きく笑った。
「案外あいつより強いかもしれねーだろ? 新人君」
そんな事実、絶対ありえないと思っているくせに。
自身の葛藤も苦痛も憎悪も全て覆い隠すヒョウのその笑顔にシミズは目許に力が入る。それが隠せなくなるくらい、ヒョウのもう一面を引き出していた相手が、ぽっと出の新人に務まるとはどうしたってシミズには思えなかった。
そんな新人が一発の魔法で威盧を倒した現場を目の当たりにして誰もが思った。
この新人は、当たりだと。
百年に一度の逸材の穴埋めに歪ながらも押し込める要因だと、この部隊に引き込んだ天宮も含めて、全員そう思わず思ってしまったのだ。
楽に終わるはずだった命を、地獄の底にまで連れ回す歯車が回りだしてしまった。
新人であるゴンをもう天空部隊から離してやれないと確信してしまったシミズは、心の底からその事実に失望した。
(第一部隊にいれば、地獄なんて一瞬で終わったはずなのに)
長く生きる方が幸せだなんて、
ウェスタのまたたき ヒロ田 @__Kuu_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ウェスタのまたたきの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます