トーキョーイナカモンズ

朱天キリ

『モテたい』



 昼休み、騒がしい教室の中。その喧騒に紛れるように一人の男は声を出す。


「モテたいんだが」


 乃沢のざわ圭人けいとはそっと呟く。一つの机を囲うように男三人はモテるについて何かを考える。

何を言うかと思えばというように、すぐさま突っ込みを入れる。


「お前はまず動けよ」


「っるっせーな! 俺は頑張った上での結果なの。それを言うならお前だって」


 モテる為に何が必要かを考え、ファッションを見直し、髪だって毎朝セットしている。友人である岸原きしはら史哉ふみやから見てもモテそうな立ち姿だ。


「俺はそもそも動こうとしないから」


 史哉は自慢げに話すが特に優位であることも無い。彼は思わず口にこぼすように圭人に質問する。


「どうしてそこまでこだわるんだよ?」


「だって史哉、考えてもみろよ! 今こうしてクッッッソしょーもない会話をしている内にも女とイチャコラしてる奴がいるんだぞ! ありえないだろ、別の人種か?」


 圭人は天に問うてみせる。落ち着けと言わんばかりになだめようともするがこいつがこのテンションになった以上、止めることは出来ない。

 かくして、すべき事は一つ。ヤツと同じテンションになることだ。


「いや別の人種って程じゃないだろ、別次元の存在かもしれんが」


「そっちのが上位互換じゃん、高尚なものに成り上がってんじゃん」


 それまで黙っていた青年、朔田さくた頼成よりなりは静かに史哉に注釈を入れる。そんなこと気にせず史哉と圭人は勢いを増すように会話もとい、論争を続ける。


「俺はこんなに努力してるのにモテないってのはどうかしてるぜ! バグか? バグなのか? パッチはよ!」


「それ以降の行動がお粗末だからだろ、見てくれだけ良くしてもよっぽどでもない限り相手は寄ってこない」


 現実を突きつけてしまうが圭人は諦めない。圭人の攻撃先は別の場所に移り変わる。


「大体! お前もお前だ史哉、特に男女間の関わりの少ないこの学校でお前は他のクラスの女子や、あろう事か先輩後輩にまでと喋り倒してお前こそ別次元の存在だ!!」


 特に理由のない暴言を浴びせられそれに対抗する。


「俺に矛先を向けるな、わけわからん舵切るな」


「うるせえうるせえ! あーもうモテたい! モテて女の子と手繋いで帰りたい! あわよくば家でそういう雰囲気になってそういうことシたい!」


「欲望全開だ」


「突然アクセルを踏み抜くなよ」


 とめどなく出る圭人の欲を止めようにも、ここまできたら同じ次元にすら立てない。もう手遅れだ。


「頼む史哉! 俺に女の子を紹介してくれ! 出来ることなら年上でちょっとエッチなお姉さんで頼み込んだらなんやかんやドぎついヤツもやってくれそうな巨乳で太ももおっきい子を!」


「お前がドぎついヤツだよ」


「たとえそんな人を俺が知ってたとしてお前を紹介すると思うか? 評価地に落ちるどころかマントルまでするぞ」


 ケチ、と彼は口を歪ませて吐き捨てるように言う。


「だいたい俺だってそこまで女の子と関わってる訳じゃないし」


「嘘つけ! お前この前も……って!」


 教室の後ろの扉を開いて現れたのは購買帰りの鹿島かしま幸賀こうがだった。


「ういー、ただいマ〇オブ〇〇ーズ好評発売中」


「おかえリミテッドエディション」


 謎の挨拶を朔田と交わしてはいるが、彼は顔面を見れば学年随一のイケメン。

 誰からも好かれるような顔を持つ幸賀なら一縷の望みがあると考え、それにつけ込むように圭人は彼の足を掴んで懇願する。


「頼む幸賀!」


「え、なにが?」


「俺に、俺にうぉんだどごをじょうがいじでぇ〜」


 嘘泣きで彼の膝に語り掛けるが、膝から返答はない。その代わりに幸賀が答えた。


「俺、紹介できるほど知り合いの女子いないよ」


「え、なんで、お前みたいなイケメンが……」


 圭人は驚くが答えは簡単だった。


「多分そんな会話をするお前らとつるんでるから」


 その瞬間、幸賀を除く三人は皆一様に口を揃えてこう言った。



「「「なんか……すまん」」」


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トーキョーイナカモンズ 朱天キリ @sorakiri

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