愚痴×性癖
「なあ、寝てていいか?」
「…………お前、会ったばかりでほとんど話していないどころかむしろ険悪な仲のやつに運転させて、よくそんなこと言えるな」
「これから仲良くなる必要があるだろ。信頼の証だ」
「嘘つけ……。適当なこと言いやがって。柊と何の話していたんだ」
「あー、まぁ、交際関係とか、帰ったら何するかとかそういう話」
俺が眠い目を擦りながら答えると車体がグイッと大きく動き、タイヤが瓦礫に乗り上げて一瞬浮遊感がしたかと思うとドスンと地面に落ちる。
「は、は、はー? そ、そそそ、そうか、お前……」
「危ないから前見て走れよ……」
車がグネグネと曲がりまくったかと思うと、スピードを緩めて木田の目が俺に向く。
「…………具体的な話を聞いていいか?」
「いや、昨日恋人がちょっと寝かせてくれなくてな。先に寝ていいか?」
車が急ハンドルを切ったかと思うと近くの壁にぶつかりかけて、急ブレーキで停止する。
……こいつ、運転下手すぎる。と思っていると、スマホが鳴ってそれを手に取る。
「あれ、新子さん、どうかしました?」
『いや……出発したと思ったらめちゃくちゃぐねぐね走ってるから……大丈夫かなって……』
「なんかめちゃくちゃ運転下手みたいだ」
「ちげーよ! お前が妙なことを口走るから!」
『まぁ……よく分からないけど。ダメそうなら戻ってきてね』
「ああ、はい」
電話を切ると、木田はハンドルに手をかけて深くため息を吐いていた。
どこか虚しそうな表情を浮かべて、息を吐く。
「……二日酔いか?」
「違えよ。……ああ、そうか。そうか……」
「なんだよ。怖いな……」
「頼むから死んでくれねえかな、このクソロリコン野郎」
「お前と一緒にするな。初はちょっとしか歳が離れていない」
「…………初?」
「俺の彼女だが」
木田の動きが止まって俺を見つめる。
「…………彼女? 柊は?」
「新子がどうしたんだ?」
「いや、だってお前、交際がどうとか……」
「初との交際について新子さんに相談していただけだぞ。…………もしかして、木田、お前……俺と新子が付き合ってるとか勘違いして動揺しまくってたのか?」
「そ、そんなことはないが」
「…………おう、そうか。ロリコン」
車は再び出発し、木田は少し機嫌が良さそうに変わる。
「いや、まぁそうだよな。柊がお前みたいなアホっぽいバカとそうなるわけねえよな」
新子には「初ちゃんにフラれたら付き合おう」という意味のことを誘われているのだが……黙っておくか。なんかその……可哀想だし。
「……そんなに好きなのか? いや、まぁ……ああいう人は他にいないだろうから、夢中になるのは分からなくはないが」
ロリババア……というと世話になっている人に失礼な物言いになるが、少女のような容姿の年上の女性というのはまぁ希少だろうし、そういう趣向があるのは知っている。
俺が少し呆れながら尋ねると、木田は「そういうのじゃねえよ」と返す。
「いや、そういうのじゃないのに付き合う付き合わないとかで反応するのは変だろ」
「……元仲間なんだから」
「いや、言うほど親しくなかったのは知ってるし、それに仲間の恋愛に嘴突っつくのはないだろ」
「……なんか怪しい男といれば心配にはなるだろ」
「怪しい男?」
木田は呆れた様子で「お前だ。お前」と言ってから、眉を顰めて運転に集中する。
なんか誰からも怪しまれているな俺。
そんなに怪しいだろうか。
窓の外の景色は変わり映えもなく、廃墟とそれを侵蝕する植物ばかりだ。
「……そういや、木田はこうなる前の東京を知ってるんだよな」
「あー、いや、俺はもっと田舎の方出身だし、ニュースでしか見たことなかったな。それにかなり小せえときだし、面白い話は出来ないぞ。あと、呼び捨てにするなよ。木田さんな、木田さん」
「面白い話を期待してるわけじゃないけど、少し羨ましいと思って」
「何がだよ」
「……今の時代、窮屈だから」
「そんなもん、いつの時代の誰も思ってることだろ」
木田は呆れたようにため息を吐いて、それから車を操作して窓を開く。
「この車を窮屈だと思ってるなら、なんで代わりに引き受けたんだよ。別に柊もほんの一週間ほど前まで普通に仲間をやってた奴ともう一回組むのぐらい嫌がりやしないし、俺も無理なんかさせねえよ」
「……」
「っ、たく。強い癖にガキみてえに。西郷、お前が窮屈なのは単なる自縄自縛だろ。自分から自分を縛っておいて、被害者面するなよ。俺だってこんな何時間も男とむさ苦しいドライブしたくなかったわ」
窓の外から入り込む風に眉を顰める。
木田の言っていることはおそらく正論なのだろう。さほど嫌がっていなかったのが分かったからこそ、俺は新子を止める必要があった。
ここにいることは俺自身が望んだことに他ならない。
「……男とかむさ苦しいとか……やっぱり新子とドライブするのが目的だったか」
「違うからな」
「…………やっぱ寝る」
「おう、寝とけ馬鹿。昼食いたいものあれば今のうちに言えよ」
「……初のおにぎり」
「誰だよ、初」
「恋人……」
「事前に弁当持たせてもらっとけよ。はあー、適当なサービスエリアでいいか?」
「なんでもいい」
俺がうとうととし始めると木田は不満そうな表情で「なんで遠出までしてガキの子守りしてんだか……」と愚痴を漏らす。
反論しようとするのも面倒でそのまま眠り、夢とうつつの間で初のことを思い出していた。
初の顔が好きというのは、一目惚れしたことからも間違いないが……。一番の理由は俺を初めて受け入れてくれた女の子だからだ。
ずっとひとりぼっちだった俺に居場所をくれて……と、思っていたが本当にそうなのだろうか。
俺が気がついていないだけで、小学校からの知り合いの女の子も俺を好きでいてくれていた。
けれども、それには関係なくやっぱり初が好きだ。
新子も異性としての愛情ではないだろうがたぶん頼んだら付き合ってくれるだろう。ツツは……なんかめちゃくちゃからかわれそうだし、了承をもらえるかは分からないけれども嫌がることはないだろう。
受け入れてくれるかどうかだけでなく、やっぱり初が好きだ。
それは何故だろうかと考えたときに思い浮かぶのは、今もポケットの中に入ったビー玉と、初めて見たときその瞳に溜めていたビー玉のような涙の雫が……やっぱり、ああ、愛おしくて。
……もしかして俺、美少女の泣き顔フェチなのだろうか。
鎖使いは縛られない。現代ダンジョンで無双する最強の冒険者!※ただしスキルは逆SSRの大ハズレの最弱スキル ウサギ様 @bokukkozuki
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