第5話 本心

ショッピングモール内のフードコート。ここに来る時は周りの高校生の様に涼とお茶したりダベったりする。


しかし、今回は違う。



「続きを聞かせてもらおうか。」


そう、ニヤニヤした涼に言われ、俺は苦笑いが精一杯だった。


「…でもその前にここで話すのは何だ。あっちで話そうぜ。」


と言って涼はフードコートの方向を指さした。



ついにきたか。さっきの通り、俺は隠すのが下手だから。正直に話すほか無い。

でもどうやって話そう?


顔がガチガチに固まる。


「んで、どうなんだ?」


涼は優しい笑顔を向けて聞いてくる。俺は涼の目を見れない。


「…」


未だに思考が停止して言葉が出てこない。


「…はぁ。さっきのお前キョドりすぎ。んでもう一度聞く、どうなんだ?」


「…」


「そうか。」


沈黙は肯定、ということで見られただろう。


でも実際のところそうだ。認めるよりほかない。

俺は少しうつむいたまま、頷いた。


この後、涼に何を言われるか全く想像がつかない。




しかし涼から出た言葉は以外だった。


「ク、クク…。」


え?


「フハハハハハ!」


「は?」


俺は啞然とする。


「フハハハハハ、マジかよ!」


涼はいきなり笑い出した。


理由がわからない。でも興奮しているのは確かだ。


「いや、まじか。柚は詩乃のことが好きなのか。」


涼のテンションが上がっている。


「いや、声がでかいって。別になんか文句あるかよ。」


もうこうなったら、この状況を認めざる負えない。


「いや全然いいよ。むしろ超面白い。」


以外だった。こんなにも涼が興奮するなんて。


「はあ、もう認める。俺は詩乃が『好き』だ。」


だんだん、思考が正常に戻って落ち着いてきた。


ついに言ってしまった。


でも、涼にこのことを言って後悔はしていない。むしろスッキリした。

噓や沈黙が苦手なのはこの事と繋がっている気がする。噓をつくと心がモヤモヤしてしまう。


「お、ついに認めたな。」


本当のことを言って俺もスッキリしてテンションが上がる。一度バレてしまえばもう怖いことは無いから俺はすっかり安心して、どんどん口が開く。もちろん詩乃のことだ。


「初めて見た時から、かわいいって思ってて、それで好きになっちまった。」


「要するに一目惚れってやつか。柚らしいな。」


涼は相変わらず笑っている。


「いや、ほんとにかわいい。ってか涼、お前、こんなにかわいい子がいたなんて羨ましすぎるし、もっと早く紹介しろよ!」


こんどは俺自身が熱くなる。好きなことを誰かに話したり、共有することは、こんなにも楽しいことなんだと久しぶりに体感する。


「ハハ、まあ落ち着けよ。柚の熱はすごいな。お前がこんなにも好きだなんてな。いやぁ、俺の知り合いが知り合い子のことを好きなるなんてな。」


少し落ち着いたところで俺も涼にひとこと言ってやりたくなった。

さすがに俺の代償がでかすぎて公平ではない。


「じゃ、じゃあ涼はどうなんだよ。」


水を一口飲んで聞いた。


「どうって何が?」


「その、詩乃のこと、なんとも思わないのかよ。」


涼は水を飲む。


「いや、詩乃のことをそこまで考えたことなかったから、柚のを聞いてびっくりし

た。でも安心しろ俺は詩乃のことを恋愛対象として見てねぇから。ついでに詩乃に柚のこと聞いてやろうか?」


「…いや、やめてくれ。」


高かったテンションが元に戻る。


「流石に怖くて聞けない。俺にはトラウマだ。」


俺は涼に過去のことを話した。


小学生の頃に好きになった人がいた。だが、小学生の頃にはクラスメイトにバレて、そのまま好きな人に伝わった。結果は『好きじゃない。』だった。実際俺は聞いてないがクラスメイトからそう聞かされた。


さらに中学生の時、また別の人を好きになった。思い切って告白したが結局『爆死』。彼女の眼中にも止まって無かった。

だから高校生になってから、こういう事に興味がなくなってしまったし、怖くなってしまった。


少し話し過ぎただろうか、過去のことは気にしないようにしているが、不意に自分で過去のトラウマを掘り下げてしまい少しヘコむ。


「…そうか。わかった。まぁ相談ならいつでも聞くからさ。」


涼は何も干渉せず優しくそう答えた。


「…涼ぅ」


涼の優しさに俺は涙が出そうになった。こんなにも近くに素晴らしい友がいたなんて俺はなんて幸せなんだ。


「まあ元気出せって。俺は応援してるからな。それにあそこまで熱く語る柚、超面白いし」


「なんか暗くしちゃって悪かったな。でもスッキリした。ありがとう」


「なんのお礼だよ。」


お互い顔見合わせて笑う。なんかこの空気が心地良い。


「「「「………」」」」



スマホから音が鳴る。



「お、ウワサをすれば。」


丁度いいタイミングで涼のスマホに詩乃から連絡が来た。


「よし、じゃあ行こうぜ。」


俺と涼は席を立って歩き出した。



「あ、そうだ。ちなみに涼は好きな子いるのか?」


これも聞きたかった。


「それはまた今度な。」


「なんだよ、それ」


そういって俺は涼を少し小突いた。


そんなことをしながら俺と涼はさっきの店へ向かった。




さっきとは違う顔で

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