第4話 じれったい
「お前、詩乃のこと好きだろ。」
考えるよりも先にベンチを立った。
だが、俺は固まった。思考がフリーズする。しかしその後すぐに頭が混乱を始めた。
この後どう切り返せばいい?
正直に言うか。
否定するか。
それ以前に頭の整理が追いつかない。
そんな時
「おーい。選んできたよ。柚、どうかなぁ?」
少し遠くの声にビクッとなる。
舞の声が聞こえてくる。こっちに向かってくる。
「あ、ああそうか。よ、よし。どれどれ…。」
舞たちが服選びから戻ってきたようだ。
とにかく舞たちに不審がられないように服に注意を向ける。
「また、後でな。」
涼が耳元でニヤニヤしながら話しかけてくる。
どう説明しようか、と変な緊張とドキドキが止まらなかった。
「お、詩乃。どれどれ。これ2人で選んだのか?」
涼はひょうひょうとした顔で詩乃に話しかける。
「2人ともどうかな。男子がこういうの。」
詩乃が服を手に見せてきた。
「う、うん。す、凄く良い。良いと思う。」
さっきまで詩乃のことを考えていたので凄く緊張する。
だが、この服はとてもセンスが良い。
水色の半袖ポロシャツがいかにも夏にピッタリで爽やかだった。
「ああ、俺も柚と同じで凄く良いと思うぜ。」
「本当?良かったぁ。」
詩乃はホッと息をつく。
「いやぁ、聞いてよ。詩乃のセンス凄く面白いんだから。」
舞が笑いながら話す。
「ちょ、ちょっと舞!」
詩乃の顔が赤くなる。
でたっ、この顔。初めて会ったときから、この表情が頭から離れない。しっかりモノで頭が良いと言われる彼女が見せる、いかにも恥ずかしそうな顔。ギャップがヤバくておかげでこっちも顔が少し赤くなる。だがさっきの涼との緊張はこの顔のおかげで、ほとんど消えた。
「私がいなかったら、詩乃の弟がどんな格好になるか…。想像しただけでさ…。」
舞は吹き出しながら喋る。
詩乃のファッションセンスはどんな感じなのだろうか。
いや、想像したくもない。
そんな事で冷めてしまった、なんて御免だ。
「んで?これからどうする。服選びも終わったわけだし。」
涼が一息ついて、提案する。
「そうだな、これで帰るってのもアレだしなぁ。」
涼の提案に頷く。どうやら涼も俺と同じように帰りたくないようだ。詩乃とは会ったばかりだし。正直言って、もっといたい。
「じゃあさ、この中のどこかでお茶でもする?」
舞が楽しそうに話す。
「いいね。それ、俺も思ってた。」
俺はすぐ答えた。
というか、それしか思い付かなかった。
「詩乃も大丈夫だよね。」
「うん。私も、もう少し舞と一緒にいたい。」
「じゃあ、行こうぜ。」
涼も嬉そうだ。
「ちょっと待って、その前にさ。」
舞がいつもの明るいトーンで話す。
「私たちもうちょっとココに居ていい?」
「「え?」」
舞の不意な意見に俺と詩乃の声が同時に出た。
俺と詩乃はお互いに顔を見合わせ、すぐに目を逸らしてしまった。
ハモった。
俺は顔が赤くなる。詩乃の顔が見れなくなる。
「なんだ?急に」
沈黙してしまった俺と詩乃に対し、すかさず涼が舞にたずねる。
いくら問い詰められたとは言え、この時ばかりは感謝しか無かった。
「いやぁ、服見てたら私の分も欲しくなっちゃってさ。」
舞のことだ、なんとなくわかる。
「ってことで男子2人は適当なトコ回っててよ。決まったら呼ぶから見にきて。」
舞は淡々と話す。
「男子2人って、私は?」
詩乃が困惑した表情でたずねる。
「詩乃は私と一緒。」
「えっっ、私も?」
詩乃は驚いている。
俺はホッとした。男2人女1人は無理だ。俺は緊張しかしないと思う。
「大丈夫。服は私がコーディネートしてあげる。」
舞は嬉しそうに喋る。
「お、ちょうどいい。俺も少し柚との時間が欲しかったんだよね。」
涼がニヤニヤしながら返す。
さっきの安心は塵のように消え、また緊張が走ってきた。
「じゃあ、そう言うことで。また呼ぶから楽しみにしててよね。それじゃあ、詩乃行こ。」
そう言うと舞は、詩乃の手を掴んで、また店内の中に言ってしまった。
残ったのは俺と涼の2人だけ。ますます緊張が走る。
・・・
「じゃあ、続きを聞かせてもらおうか。」
涼はニヤニヤしながら、こっちを見る。
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