“あと一歩”が踏み出せない俺達のデートはいつも4人

Yuta

第1話 昼休み

 俺は今ままでの人生の中でこれほどまで楽しく、そして深い恋愛をし、最高のダチを作って青春を謳歌したことがあったろうか。




「うーん、降りそうだな。涼は傘、持って来た?」


「いや、持ってきてねぇ。」


「あぁ、俺も。」


 まだ花曇りが続く昼休みのこと。いつも通り俺は、ダチの阿部涼あべりょうと中庭の大きな木の下のベンチで昼食を食っていた。確かあの時は雨が降りそうな暗い曇り空で一際、静かだったけ。


 1人の女子生徒がこちらへ向けて歩いてくる。ふと彼女が目に入った途端、思わず俺は彼女に目を見張ってしまった。



 …かわいい



 制服、ミニスカートが似合う美しいスタイル。キリッとしまった顔立ちは、大人の雰囲気を醸し出しながらもどこか幼さがある。短くまとめたポニーテールと上にあげた前髪がいかにも高校生といった感じだ。



 …見とれてしまった。



 俺がじっと見ていたから涼は後ろ向いた。


「お、詩乃」


 涼の知り合いか?


「あ、涼。」




 ーーー俺と彼女の目があう。




 頭に雷が走る。そう表現するのが妥当なくらい、俺は興奮と緊張が入り混じったような感覚になる。



 だが、すぐにお互い目を背けてしまった。



「なんか用か?」


「えっ、あ、う、うん。今日の放課後のことなんだけどさ…」


 涼は急に慌てだした。俺はふと我に返る。


「っ、バカ。今ここで言う必要ねぇだろ!」


「えっ?」


「いや、そういうことはスマホで連絡とかあるだろ!」


「あ、そっか。」


「詩乃はそういうところがあるからな。」


 と涼は言い、笑う。


 ぽっ、と彼女は赤面した。



 …なんか俺だけ蚊帳の外だな。



「な、なぁ。俺、席離れたほうがいいか?」


「あぁ、いいよいいよ。それよりお互い初対面じゃないか?」


「まぁ、そうだけど。」


「じゃあ、俺から紹介するよ。」


「ああ。紹介してくれ。」


「わ、私にも。」


「あぁ、紹介するよ。こいつは俺の昔からダチの柚。槻沢柚つきさわゆうってんだ。」


「んでもって柚、こいつは昔から、家族ぐるみでの付き合いになる幼馴染

 の早乙女詩乃さおとめしのだ。」


「ゆ、柚くん、よろしく、ね。」



 や、ヤバい、緊張する。



「あ、あぁ。よろしく。詩乃さん。」


「まぁ、詩乃はさっきの通り。少しズレてるところがあるからそこんとこヨロシ

 ク。」


「ちょ、ちょっと涼!」



 詩乃さんは頬を染めた。…かわいい。



 だが俺はすぐに切り込んだ。


「ところで、さっきの話って…」


 さっきから気になっていた。

 涼は少しあきれた表情になって口を開く。


「ほら言われた。詩乃、どうする」


 詩乃は少し考えて


「うーん私は別にいいけど…涼はどうなの」


「うん俺もいい。」


「放課後何かするのか?」


「あぁ、今日の放課後、詩乃に買い物に付き合わされてな。」


「マジかよ」


「というのも、もうすぐ詩乃の弟の誕生日でな。男目線で誕生日プレゼント選びの参考にしたいんだとよ。でも勘違いするなよ、あくまで…。」


「弟思いなんだな。」


 そういうと詩乃さんは少しうれしそうな、恥ずかしそうな笑みをうかべる。


「そう、そういえば涼。そのことなんだけどさ。」


「あぁ、そういえばなにか伝えに来たんだよな。まぁ、全部話したからいいけどさ。んで?なんだ。」


「その買い物にさ、私の友達連れてきていいかな?」


「えぇ、まじ。」


 涼は嫌な顔をした。


「ほんとごめん。その、放課後の予定聞かれて、つい。断れなくて。」


「男子、女子?」


「…女子。」


「まぁじか。二対一とか緊張しかしねぇんだけど。」


 涼は顔を下に向けた。


「ほんとごめん。まあ明るい子なんだけどね。」


「いや、それにしたって…。」


「あ、もうこんな時間。んじゃ、また。もうそろそろいかなきゃ。また連絡するね。」


 詩乃さんは何か思い出したのか急いで行ってしっまった。


「お、おいそんな。」



 涼はうなだれた。



 その時、涼は何かを思いついたかのように急に顔をあげたかと思うと俺のほうに顔を向けてニヤリと笑う。もしやとは思うが、まさか。


「お前放課後空いてる?」


「来ると思ったよ。」


「ていうか来い。話を聞いたからには絶対来い。」


「うーん。」


「な、頼む。なんかおごるからさ。」


 正直なんとなく予想はしていた。まぁ放課後の予定はないし、正直、涼にはたくさん助けられた事がある。


「わかった。まぁ俺でもこの状況は気まずいし、嫌だしな。」


「おぉ、ありがとう。なんでもおごるぜ。」


 涼の顔がいっきに明るくなる。


「おごんなくていいよ。」


「いや。感謝しきれねぇよ。」


「いや、ほんとにおごんなくていいから。それより待ち合わせ場所とか教えてくれ

 よ。」


 正直いって、自分としてはおごられるほうが困る。何となくだけど親友ってそういうもんだと自分は思う。


「ああ、また連絡する。それより昼休みがもうすぐ終わるから、急いで食っちまおうぜ。」


「やべ、もうこんな時間かよ。」


 急いで弁当を食い、教室へ向かう。





 ーーーこうしてひと悶着あった俺は、涼と詩乃さんとその友達と買い物に行くことになった。




 まさか詩乃さんがアイツと友達なんてこの時の俺は思ってもみなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る