第7話 始まり

 次の日の朝

 いつも通り登校してきた俺に待ちうけていたのはたくさんの生徒の視線だった。


 な、なんなんだこのたくさんの人に見られている感覚は。


 俺のクラスの数名だけでなく、俺の知らない他のクラスの人からも視線を感じる。


 俺はスマホで涼に連絡を入れた。


『なぁ涼。俺、なんか色んな人からジロジロ見られるんだが。』


 涼から返事が返ってくる。


『なんか俺も見られている気がするんだが。』


 俺はクラスで隣の席の男子に話しかけた。


「なぁ坂田、今日俺なんか色んな人から見られてるっぽいんだが、俺なんかしたか?」


 返ってきたのは意外な返事だった。


「柚、おまえ昨日、誰とどこ行ってたんだよ。」


「え、昨日?昨日は放課後に他のクラスの男友達と女友達で買い物に行ってただけだけど。」


「おまえそののなかに友田さんと早乙女さんがいただろ」


「ああ舞と詩乃のこと?それがどうしたんだ?」


「え、おまえ2人の評判知らないの?」


 坂田は少し興奮気味になった。


「友田さんはこの学年の中でトップクラスのインフルエンサーで、早乙女さんは美女だって言われているんだぞ。」


「え、ええっ」


 その時、教室のドアが勢いよく開いた。


「オイッ柚、おまえなに呑気にイチャイチャとデートしてんだよ!」


 教室に入ってきたのはこのクラスの中心人物、いわばムードメーカーの野崎だ。

 数名の男子と一緒に登校してきた。


「ええっ、デ、?!そ、それにイチャイチャなんて…。」


「じゃあ、これはどう言う事だよっ。」


 そういうと野崎はスマホを取り出して俺に画面を見せる。そこには顔こそモザイクがかかっているものの服装から俺たち4人がカフェでお茶をしているところを外から撮った写真だった。


「な、なんだよこれ?」


「この学年の中のヤツらのSNSで話題沸騰中だぞっ。」


 どうやらこの学校の、特にこの学年の人に見られていたらしい。


「え、ええっ。」


 え、ちょ。どうしよう。


 俺があたふたしていると、学校の始業のチャイムが鳴った。


「とにかくお前がイチャイチャしてるなんて、許さないからな。」


 そう言い放って野崎達はそれぞれ席についた。


 知るかよ。


 そう思いながらも自分も席につく。

 すると涼からメッセージが来た。


『昼休みに中庭に集合な。詩乃と舞には連絡しとく。』




 朝礼の後から昼休みの前まで誰かしらの視線と俺たちに対する話題が飛び交った。


「柚ってあの詩乃さんと舞さんとデートしてたらしいよ。」


「あーそれ見たみた。昨日のやつでしょ。」


「あの2人にも彼氏がいたんだ。」


「ねぇー。」




「おい柚と隣のクラスの涼、羨ましすぎるだろ。」


「付き合ってるってことは、もうヤっちゃったりしてんのかな。」


「いや流石に無いだろ。もしそうだったら許さない。」


 そんな声が聞こえた。



 *



「なあ俺らなんかやばい事になってね?」


「ああ、さっきから視線ヤバいし。」


「2人もそうなの?」


「ってことは詩乃も舞も、か…。」


「なんか大変なことになっちゃたね。」


 少しの焦りと戸惑いで空気が重い。


「これからどうする?」


「また変な噂を叩かれたら…。」


 俺にはどうしていいか、わからなかった。


 4人の間に沈黙が走る。




「でもまぁ、いいんじゃない?」


「えっ?」


 舞がこの空気を壊してくれた。


「ま、舞。」


 舞が笑みを浮かべていたが、俺には凛として逞く輝いて見えた。


「他人の目ばっか気にしてらんないでしょ。また遊ぼうよ。楽しかったのは事実だしさ。」


 さすがは舞だ。


 自分で自分を持ってるというか、すごく芯の通った性格だ。いつもは笑っていて、なんでも肯定してくれるが、大事なことは見失っていない。そういうところは尊敬してしまう。


「…うん。私もそれでいいと思う。」


 詩乃が頷く。


「詩乃までにも言われちゃあ、俺も別にいいか。」


「涼まで。」


 俺は少し戸惑ったが、すぐに答えを出した。


「だなっ。」


 みんなと目を合わせて笑う。

 さっきまでの暗い空気が一気に消し飛んだ。


「またしような。なんちゃって。」


「ちょっと涼。」


 詩乃は照れているが、嬉しそうだ。


「でもこの2人が学校で有名だったなんて知らなかったよ。」


「俺も。」


「えっ、そうなの。」


 詩乃は知らない感じだった。


「学年No. 1のインフルエンサーに、絶世の美女、か。」


「そんな大げさだよ。」


「ええ、そんなこと言われているの?」


 詩乃は顔を赤く染めた。


「知らないなんて、なんか詩乃らしいな。」


「涼だって、知らなかったくせに。」


 でも学年トップクラスの美女には納得だ。


「アハハ、やっぱこの4人だと、おもしろ〜い。」


 舞も声をあげて笑う。

 俺も肩の力が抜けてほっとすると、笑みが自然にこぼれてきた。




 ーーーこうして『俺ら4人は付き合っている』という誤解は解けぬまま収束した。

 4人で遊びに行く行為はもちろんデートだ。


 *


「…というわけで今日の放課後どっか行かね?」


 涼は嬉しそうに提案してきた。


「うんうん。行こ行こ。」


 舞も乗り気だ。


「俺もOKだ。」


 その時


「ちょっと。」


 詩乃が咳払いをひとつして強い口調で言った。


「ん?」


「その前にあるでしょ。やるべき事が。」


「え?」


 3人は首を傾げた。


「テストよ、テ・ス・ト。もう1週間切るよ!」


「はあぁぁ。そうだったぁぁ。」


 涼がうなだれる。


「じゃあこの話はおあずけだね。」


「あ、ああそうだね。」


 うなだれる涼を横目に俺は頷いた。


「すっかり忘れてた。ありがとう。」


「うんうん、私からもありがとう。」


「そんなぁぁ。」


 こうして俺らは互いに連絡先を交換し、昼休みを終えた。


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“あと一歩”が踏み出せない俺達のデートはいつも4人 Yuta @K9s6Rt2m

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