Final Stage
「消え去れ……勇者よ」
魔王の周りに幾つも現れた小さな光の球が、こちらに向けて飛んでくる。前に後ろ、ジャンプを使ってその攻撃を何とか回避する。着地と同時に、また出現した光の球が襲ってきた。
「頑張れ頑張れ! 前! 後ろ! ジャンプ! 負けるな負けるな! 後ろジャンプ! 前ジャンプ! ジャンプジャンプ! 逝け逝けGO! GO! ……っぴ」
「止めどなくうるせぇ! 後、今不穏な言葉混ざってなかった?」
クソ鳥の応援……いや、野次に翻弄されつつ、続けざまに飛んできた光の球を全て避けた。
「ほう……やるではないか。なら、これはどうだ?」
魔王の右腕に光が集まり、剣のような形になる。プレイヤーは咄嗟に、俺を後ろにジャンプさせるが、一気に距離を詰めた魔王に斬り付けられた。
「ぐっ……」
スライムのタックルとは比較にならない痛みにうめき声が出る。だが、どれだけ痛かろうがまだ4回は耐えられる。
「もう一度だ」
また同じ動作をする魔王。今度は後ろにただ移動するが、直ぐに追い付かれ攻撃される。
「頑張れ! 負けるなっぴ!」
「クソ鳥、お前……」
二度ダメージを受けた俺を応援してくれるクソど……くるっぴーに感動しながら、体勢を立て直す。
「頑張れ! 負けるな! 頑張れ魔王っぴ!」
「応援相手が違う!? てめぇ、後で覚えてろよ!」
クソ鳥に叫んでいる間にも、魔王がまた光の剣を出現させる。プレイヤーは思いきって、魔王の方に俺をジャンプさせたが、それでも避けられず3回目のダメージを受ける。
剣を出した魔王の攻撃は、何処に移動しても避けられそうにない。俺を動かす、その操作から、プレイヤーが混乱しているのが伝わってくる。
この世界は不思議でおかしく、不自由で窮屈だ。だが、プレイヤーに操作されている時のこの感じ……仲間たちと一緒に戦うのとは違う、一心同体と呼べるこの感覚、俺は嫌いじゃなかった。
魔王が再び剣を出す。移動で避けられないなら、出来ることはもう2つしかない。
キィン! と硬いもの同士がぶつかった音が辺りに響く。その場を動かず、通常攻撃で振るった俺の剣と、魔王の光の剣がかち合った音だ。斬りかかるタイミングを崩されて動揺する隙を突いて、光の剣を弾く。そして、がら空きになった魔王の体に攻撃を叩き込んだ。
「がっ……貴様ぁ……」
「これが俺の力っぴ!」
「お前は見てただけだよね!?」
それに、今の状況も俺は嫌いじゃない。あんな痛みを感じたら、普段の俺なら直ぐに逃げ出しただろう。生き返る保障があっても、痛い思いをするのは誰だってイヤだし、怖いだろう?
「次はこれだ……」
魔王が飛び上がり、空中で静止する。その頭上で、先ほど飛ばしてきた小さな光の球より、遥かに大きな光の球が1つ作られていく。それが俺に向けて落とされた。
それの動きは遅く、回避出来たと思ったが、地面に落ちた光の球は、周囲を大きく巻き込んで爆発した。
「ヤバい!」
光の球着弾の余波でダメージを受ける俺。内心焦る俺を見透かすかのように、時間が止まった。アイテムメニューが開かれ、ポーションが使用される。これが今、手元にある最後の1つだった。やっと、ここまで来たのに死にたくない。
怖い……この世界に山ほどある、落ちたら死ぬような穴を飛び越えるのも、一度入ったら抜け出せないと言われてる迷いの森に入るのも、一歩間違えば溺れ死ぬ事になる水中神殿に行くのも、立っているだけで足元から体が凍っていく雪山を登るのも、落ちたら一巻の終わりの溶岩の大地を歩くのも、全部だ――本当は全部怖くて仕方なかった……。
いつもの俺なら、どの場所にも絶対に行かないのは間違いないだろう。それでも、逃げずにここまで冒険してこれたのは、プレイヤーが操作してくれていたからだ。
「もう一度喰らうがいい……」
魔王が再度、大きな光の球を作り始める。回復したとはいえ、ポーションはもう残っていない。何とかこの攻撃の回避方法を見つけないと……。
この世界は不思議でおかしく、不自由で窮屈だ。でも、だからこそ…………こんな状況で楽しく、熱い気持ちになれる。
移動で避け、通常攻撃で防いだ。まだ使ってない行動は……。
「ファイア!」
魔王の頭上にある、光の球に魔法を撃つ。集まった光は、その場で爆発して、魔王の体を呑み込んだ。
「があぁぁぁぁ! 貴様! 許さぬ!」
痛みで叫ぶ魔王。この調子ならいける。
「何か、苦痛に歪む魔王の顔を見てたらゾクゾクして来たっぴ」
「どのタイミングで、何に目覚めてんだよ!!」
俺も、何となく分かっている。魔王との戦いが終われば、プレイヤーがゲームを触ることはなくなるのだろう。
今まで、色々な景色を一緒に見てきた。それはとても貴重な体験だった……。
小さな光の球を回避し、光の剣は通常攻撃で止め、大きな光の球には魔法をぶつける。攻略法さえ分かれば、後は簡単だ。
「ふざけるな……我がこんな人間などに……」
「これが人間という薄汚れた矮小な生物の、素晴らしい力っぴ!」
「貶したいのか、褒めたいのかどっちだよ!!」
光の剣を弾き、魔王の体に連続で攻撃を与える。
「ファイア!」
追加で魔法も撃ち込む。結局プレイヤーはこの魔法ばっか鍛えていたな。
「ぐっ……がっ……」
魔王が赤く点滅し始める。後、少しで終わる!
追い詰められた魔王の攻撃の速度が上がった。素早く飛んできた小さな光の球にぶつかり、光の剣の攻撃にも反応しきれずダメージを受ける。続けざまに放たれた大きな光の球にも、魔法が遅れ、爆発に巻き込まれそうになるが、間一髪後ろにジャンプする事で何とか回避した。
「薄汚れた矮小な人間に、ここまで追い込まれるとは……」
「薄汚れた……って部分には同意っぴ」
「何処に共感してんだよ!」
また小さな光の球が幾つも襲ってくる。
「……っ!?」
プレイヤーは殆ど俺を動かさない。
「自ら攻撃に当たりにいくなんて、やっぱりドM……っぴ」
「誰がドMだっ!! あとこれ俺の意思じゃないから」
一瞬混乱したが、俺にはプレイヤーがやりたい事が直ぐに分かった。ここでの動きを最小限にして、光の剣や大きな光の球に備える気だ。攻撃はまだ3回耐えられる。
1回……2回……小さな動作では避けきれずダメージが増えていく。魔王が光の剣を出した!
「今だ!!」
剣と剣がぶつかる音が辺りに響く。隙だらけの魔王の体に、俺の剣が何度も強く振り下ろされる。
「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!」
最後に放たれた魔法の追撃を受け、魔王がその場に膝をつく。
「愚かな人間よ……例え我を倒そうと……第二、第三の魔王が……必ず……お前を……」
「……っぴ!」
「変な語尾を勝手に付け足すな!」
倒れる瞬間、捨て台詞を吐いた魔王は光となって消え去った。俺の体はプレイヤーの操作から離れ、目の前に現れたドアの先に向かう。そこには……。
「来てくれたのですね」
ファンタジア王国の、美しい姫がいた。
「全て自分の力っぴ」
「嘘をつくな、嘘を!」
ゆっくりと近付いてきた姫が、俺の頬に軽くキスをする。その瞬間、目の前が真っ暗になった。暗闇の中、遠くにスポットライトが見える。姫と手を繋ぎ、そこに向かう。いよいよだ……。
姫と並んでスポットライトの中に入ると、突然、大きな拍手と壮大な音楽が流され、俺たちの足元から現れた沢山の名前が、上に向かって移動し始めた。
その名前を見た瞬間何となく分かった……。この人たちは、俺たちの父さんと母さんだ。
俺たちにおかしな所はないか調べてくれた。俺たちの事を、色々な人に知って貰う為に頑張ってくれた。何より、俺を、俺たちキャラクターを、この世界に生み出してくれた。父さん、母さん、本当にありがとう……。
父さんと母さんのお陰で、プレイヤーと出会える事が出来た。一緒に冒険する事が出来たんだ。
俺と姫を照らすスポットライトの外では、今まで出会った人や、モンスターたちが拍手をしていた。
プレイヤー、あなたに見せれないのが本当に残念です。みんな嬉しそうにあなたに手を振ったり、拍手したりしていますよ。
俺の頭の上に、鳥の妖精くるっぴーが乗ってくる。その体は何だか生暖かく、俺の頭部にホカホカの臭い……。
「ごめんっぴ。お腹が痛くて、我慢出来なかったっぴ」
「最後まで締まらねぇ!! 後で覚えとけよクソ鳥!」
俺の頭を便器か何かだと勘違いしている鳥に怒りつつも、いつもと変わらないその行動に何故だか笑いが出てくる。
人は変わっていく。ゲームの中の俺たちですらそうなのだから、プレイヤーだってそうだろう。
変わっていく中でいずれ、俺たちの事なんて完全に忘れてしまう時が来るのかも知れない。
それでも、何かの拍子に、ふと、こんなゲームをしてたな。こんなキャラクターたちと遊んだな、そんな風に思い返してくれたら……。
だから、そうなる最後の瞬間まで、俺たちの事を覚えておいてくれたら嬉しいな……。
全ての名前が流れ終えた。
この世界は不思議でおかしく、不自由で窮屈だ……。
だが、プレイヤーと共に歩んだ俺は、その不思議さも、おかしさも、不自由さも、窮屈さも、みんなみんな本当に大好きだった!
一緒にいてくれてありがとう。
沢山の冒険に連れ出してくれてありがとう。
出会ってくれてありがとう。
いつか、何処かでまた会えたらいいな……。
今まで遊んでくれたプレイヤーに、最後にこの言葉を贈りたい。
Thank You For Playing
Thank You For Playing 要 九十九 @kaname-keniti
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