2nd Stage

 大きな音を立てて、魔王城を守っていた巨大な門が開く。各ステージにいたボスが持っていた5つの鍵は役目を終え、その場で消滅した。

 いよいよ、最後のステージだ。

「さっさと進め、ドM野郎……っぴ」

「誰がドMだ!! 後、俺の意思で進めないから!」

 流石、敵の本拠地だけはある。出てくるモンスター1体1体が凄く強い。お決まりの攻撃と、2つの魔法を駆使して、どんどん進んでいく。

 魔王城にも何故かあった地面の穴を飛び越えながら、辿り着いたのは中心に大きな扉があり、その周りに5つの扉がある不思議な部屋だった。大きな扉には5つの鍵穴がある。きっと、それぞれの扉の先に1本ずつ鍵があるのだろう……。

 適当に選んだ扉の1つに入る。その先には……。草原ステージで倒した筈のボスモンスター、ギガントスライムがいた。

「感動の再会っぴ」

「心を動かされる要素が欠片もねぇよ!!」

 魔王の力だろうか? 倒した筈のボスモンスターが復活していた。確か、扉は5つあった気がするが……。嫌な予感を頭から振り払い、目の前のボスに集中する。これは、骨が折れるぞ。


「やっぱり予想通りじゃないか……」

 草原ステージのギガントスライムを倒し、次に入った扉の先には、迷いの森ステージのボス人面樹ニヒルウッドがいた。

「これは、骨が折れるっぴ」

「お前は最初から何もしてねーだろうが!!」

「見てるだけで消耗するっぴ」

「何を消耗するの!? 俺に対する優しさ?」

「いいから、さっさと剣を振るっぴ。このドサンピン」

「てめぇ! 絶対この冒険が終わったら焼き鳥にしてやる!」

 剣を握り直し、ボスと向かい合う。大丈夫だ。俺が使っている剣も、鎧も、前にこいつと戦った時とは比べ物にならないくらい、強い物になっている。経験を積んで、魔法の威力だって上がった。


「最後はこいつか……」

 俺はそれから、他の扉にいた水中神殿ステージの白龍ラヴァイアサン、氷結雪山ステージのヒヤヤ女王を倒し、最後の扉の先に向かう。

 そこには、灼熱溶岩ステージのボス、亀王ババンビがいた。

「最高の同窓会っぴ」

「こんな血生臭い同窓会があるか!!」

「ほら、ババンビも喜びから火球を出してるっぴ」

「どんな感情表現!? あれは、俺を殺しに来てるんだよ!!」

 プレイヤーの操作で、飛んでくる火球を避けながら、ババンビの弱点である頭部に一太刀を入れる。

 痛みから悲鳴を上げるババンビの口から、先程より遥かに多い火球が飛んでくる。

「あ、熱っ!」

「残り4発でお前は終わりっぴ」

「何で敵側みたいな発言してるんだよ!! 熱い!」

 火球に2回ぶつかる。残り3回で俺は死ぬ――と思った矢先、世界の時間が止まる。

「あっ、これは!」

「ちっ! 後、少しだったのに……っぴ」

「聞こえてんぞ、クソ鳥!!」

 この世界は不思議でおかしく、不自由で窮屈だ……。そう思う俺の気持ちは今も変わらないが……それだけでは決してない。

 アイテムメニューが開かれ、そこからポーションが選択される。普段はただ喉が潤い、傷の治りが少し早くなるくらいだが、ゲーム中なら俺が受けたダメージを瞬時に回復してくれる最高のアイテムだ。

 時間が動き出し、ババンビとの戦いが再び始まる。プレイヤーも、魔王との決戦が近付いて緊張しているのか、その後、何回か火球に当たることはあったが、何とかババンビを倒した。


 各扉で手に入れた5つの鍵を使い、最後の大きな扉を開く。その先に感じる禍々しい気配に息を呑む……。向こうに魔王がいるのは間違いないだろう。

 また時間が止まった。アイテムメニューから、魔の結晶を選択すると、無くなりかけていた魔法を使う力が復活する。ポーションも飲み、扉の先に向かう。


「よくぞ来た勇者よ」

 頭に2本の角、額に第三の目があり、全身は黒色のマントで覆われた魔王がそこにいた……。

「姫はどこだ?」

「ククク……。心配せずともこの先に捕らえておる」

 凶悪な顔で笑う魔王。

「じゃあさっさと姫を返して貰うぞ」

「まぁ、待て。お前に提案がある」

「提案……? 何だ?」

「とても簡単な話だ。我の仲間になれ勇者よ」

「は?」

「さすれば、姫を解放しよう」

「…………」

「それだけじゃない……。貴様が望むなら、世界の半分だってくれてやる。どうだ? 我の仲間にならないか?」

 『はい』と『いいえ』、2つの選択肢が現れる。こんな物、どっちを選ぶかなんて最初から決まっている。

「あっ、じゃあ世界の半分でよろしくお願いします! ……っぴ」

「お前が答えるの!? 今、良いところなんだから黙ってて!」

 そうだ……。自分で選択肢を選べない俺でも分かる。プレイヤーがどっちを選ぶか。短い時間とはいえ、一緒に過ごしたあなたの事は、少しは分かる。

 迷いなく選ばれた『いいえ』に笑顔になりながら、剣を持つ手に力を込め、気を引き締めた。

「馬鹿な奴よ……仲間にならないなら、貴様はこの場で殺してくれる」

「ここで倒れるのは魔王……お前だ!!」


 これが最後の戦いだ。


 俺と魔王――プレイヤーとゲーム、最後の戦いの火蓋が今、切られた……。

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