Thank You For Playing

要 九十九

1st Stage

 ここは剣と剣がぶつかり、煌びやかでド派手な魔法が飛び交う、ファンタジー世界――を題材にしたゲームの中だ。

 俺は……いや、俺たちキャラクターはこの世界で生きている。

 魔王に誘拐されたファンタジア王国の姫を助けるため、ファンタジア王国騎士団の団長である俺――ブレイと、鳥の妖精くるっぴーは、ゲームを操作するプレイヤーのもと、2人で冒険を続けている。


 この世界は不思議でおかしい……。ゲームが始まり、プレイヤーが操作を始めると、色々な事が変わる。それは、とても不自由で、窮屈だ。


 何でそう思うのか? 不思議に感じる方もいるだろう。そんな理由を、現在の状況も交えながら、幾つか説明すれば、見ている方も納得してくれると思う。


 まず、最初に言いたい。

「個人として荷が重い!!」

 一国の姫があっさり誘拐されるガバガバ警備には、この際目をつむろう。魔王が強かったり、とても用意周到な人物だった可能性はある。

 しかし、俺が言いたいのはここからだ……。誘拐されたのは仕方ないとして、何で姫を直接助けに行くのが、俺と妖精の2人なんだよ! 国の重要人物なんだから、せめて騎士団総出で助けに行けよ! 王様も……。

「選ばれし者よ……娘を頼んだ」

 じゃねーんだよ! 何でほぼ1人で、各地の魔王軍を全員倒さないと行けないんだよ! 個人として荷が重いんだよ!


 そして、黄色いヒヨコのような見た目で、俺の周りをパタパタと飛んでいる妖精のくるっぴーだが、こいつは姫を助ける勇者を導く存在らしい。

 しかし、こいつがした事と言えば、ゲーム開始時に、チュートリアル? というこの世界で生きる者なら大体知っているような動き方を俺に伝えただけで、後は俺の周りを飛び回っているだけだった……。

「お前も働けよっ!!」

 だから、ほぼ1人なんだよ! 一応こいつも勇者を導くという役目を担っている筈なのに、何で何もしないんだよっ! その上、可愛いもの好きなら、気に入られそうな見た目なのが腹立つ。

 そして、これはゲーム部分とは関係ないが、このくるっぴー……。

「てめぇがさっさと働けよ、この穀潰しが…………っぴ」

「ストレートに性格が悪い!!」

 まだ何もしないで飛び回ってるだけなら良かったのに、プレイヤーに聞こえないのを良いことに、ゲーム中に好き勝手言ってくる。後、思い出したように語尾に……っぴをつけるな。


 今、俺たちは魔王と直接対峙する一歩手前まで冒険を進めていた。ファンタジア王国から始まり、草原ステージをクリアした後。王国の周りにある、迷いの森ステージ、水中神殿ステージ、氷結雪山ステージ、灼熱溶岩ステージもクリアした。というか……。

「王国の立地悪すぎだろっ!!」

「王国から一歩出たら、そこは死と隣り合わせの世界っぴ」

「普通の住人にとって、過酷過ぎるだろ……」

 とにかく、その5つのステージのボスが持っていた、魔王城の門を開く鍵は手に入れた。後は、魔王城への道を示す、導きの水晶というアイテムを手に入れれば、魔王と直接戦う事が出来る。そこで、そのアイテムが隠されているという、最初にクリアした草原ステージまで戻ってきたのだ。

 ステージが選ばれ、ゲームが始まる……一度クリアした見慣れた草原ステージに再びやって来た。


 ここからもおかしい所は沢山ある。

 ゲームが始まった以上、俺の体の操作は全てプレイヤーに委ねられる。その結果、今の俺は前か、後ろ、上下にしか動けない。上下といっても、ジャンプして上に、降りる時に下に行けるだけだ。後ろに戻る意味もないので、ただただ前に、目の前の敵にガンガンと向かって……。

「俺はイノシシかよっ!!」

「まだ、左右に移動出来るイノシシの方が自由があるっぴ」

 普段なら自由に動き回れるが、ゲームが始まるとプレイヤーの操作通り、こうやって動くしかない。


 そして、ここからが大事な所だ……。

 俺は、このファンタジアという王国で騎士団長をやっている。武器は剣で、模擬戦であれば団員10数名くらいならば、1分で制圧出来るぐらいの剣術を身に付けている。

 しかし、ゲームが始まると、数多の魔物や人間を倒してきた俺の華麗な剣術は消え去り、全く同じ動きの決まった攻撃の組み合わせしか出来なくなる。

 片手で上から右斜めに斬る、次に上から左斜め、また上から右斜めに戻って、両手に持ち変えて下から右斜めに斬り上げ、最後に両手で真上から下に斬る。これを最初から何度も、何度も繰り返し……。

「団員が気を遣うわっ!!」

「もし模擬戦でこの動きだったら、団員達が苦笑いになるのは確実っぴ」

 自分たちより強い筈の存在が、狂った様に同じ動きをしているのを見たら、団員たちも困惑するのは間違いない。今まで戦った各ステージのボス達の中にも、俺が同じ動きを繰り返しているのを見て、若干引いてる奴もいた。


「ファイア!」

 叫ぶと同時、俺の掌から、火球が発射される。俺が使える魔法の中でも、一番初歩的な魔法だが、出るのが早く、ぶつかった敵を中心にして、周りに炎が広がるという使いやすい魔法だ。

 道を進む俺たちの前に現れたスライムは、ファイアに呑み込まれ消滅した。

 俺は他にも、サンダーや、ウォーターなど、合計10個もの魔法を使いこなす事が出来る。しかし、ゲームが始まると、ステージが終わるまで、使える魔法はその内の2つだけにな……。

「舐めプじゃねぇか!!!!」

「魔王全軍と独りで戦っているとは思えない程の清々しい舐めたプレイっぴ」

 ただでさえ孤独な戦いなのに、色々な魔法や剣術を使わないのはドMが過ぎない?


「痛っ!!」

 背後からスライムがタックルしてくる。普段なら鍛え続けたお陰で、1体だろうが、10体だろうが、100体だろうが攻撃された所でびくともしないが、ゲームが始まっている今、俺は後4回の攻撃で死ぬ。

「めちゃくちゃ虚弱じゃねーか!!」

「スライムだろうが、筋骨隆々なボスの攻撃だろうが、5回当たればお陀仏っぴ」

「せめて、倒されるのは筋骨隆々なボス相手であってくれ!」

 二度目のスライムの攻撃に戦々恐々としながら、お決まりの攻撃でスライムを仕留める。


「危ない!!」

 崖っぷちで体が止まる。右足の半分が、崖の縁に掛かっている。目だけで下を見ると、底の見えない空洞が、下にぽっかりと空いている。

「死ぬかと思った……」

「この世界は地面の至る所にこういう穴が空いてるっぴ」

「地獄じゃねーか!!」

 王国の立地といい、やはり、普通の住人にとって過酷な環境過ぎる。勿論この穴に落ちたら俺でも死ぬ。ゲームのプレイ中なら生き返れる俺と違って、その保障のない住人にとっては、この穴1つですら恐ろしいだろう。


 他にも、好物のキノコを食べると体が一時的に巨大化したり、お金を一定数集めると何故か一度死んでも大丈夫になったり、まだまだ紹介したい所は沢山あるが、これだけ語らせて貰えれば見ている方も、この世界が不思議でおかしく、とても不自由で、窮屈だと分かって貰えたと思う……。

 だが、そんな生活も、もうすぐ終わってしまう。冷や冷やしたが、何とか導きの水晶は手に入れた。これで、魔王城への道も確認出来る。そこで、魔王を倒して、姫を助ければ冒険も終わりだ……。

 この世界で生きる俺たちキャラクターはともかく、プレイヤーは姫を助けたら、このゲームから離れてしまうだろう。そうしたら、不思議でおかしく、不自由で、窮屈なこの生活ともおさらば出来る。

 冒険が終われば解放される。今からそれが楽しみで仕方ない……筈なのに、その事を考える度に、俺の心にはちくりとした痛みが走った。


 長かった冒険はもうすぐ終わる……。

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