第7話 「花葬壺」白井ノ決断

 誰かが泣いている。

真っ白な部屋の中、俺はベッドに横たわっている。

その傍らに誰かがいて、泣いていた。

目を開きそちらに視線を送る。

白い髪の少女が、

こちらを悲しげに見つめながら涙を流していた。

誰だろう?

知ってる娘の様な気もするが初対面な気もする。

「キミは、誰なんだ?」

そう問いかける。

少女は答える。

「私は、ーーー」


目が覚めると病院だった。

どうやらアレから数日間、気を失っていたようだ。

身体のあちこちに打撲と左腕を骨折していた。

長期ではないがしばらく入院が必要らしい。

医師からの説明を受け、病院からの連絡を受けた家族達が到着するまでの間に記憶を整理する。

壺の事、少女の事、骨董屋、そして黒衣の男。

 結局、家族には急に飛び出してきた猫かたぬきを避けようとして事故った事にした。

幸い壺の事は祖母と俺の間でしかやり取りをしていなかったので関連を疑われる事はなかった。

そもそも言っても信じてもらえたかも怪しいが。

その日の夕方、黄昏時の沈む夕日を眺めているとオカメ君と音さんが訪ねてきてくれた。

どうやら祖母が俺の意識が戻ったと連絡を入れてくれた様だった。

こちらの状況や黒衣の男の事を伝える。

なんとなくの直感でしかないが、

あの男が壺にまつわるこの事件の根源なのだ。

そう感じた。

「気の所為かもしれないけど、鴉の鳴き声が聞こえた気がするんです。だから、、、」

そこまで聞いた2人は顔を見合わせて頷く。

「少し話は変わるんだけどいいかな?白井君の今後の事なんだけど。」

音さんがこちらをまっすぐ見つめて口をひらく。

「俺の事?」

「そうなの。お祖母様に聞いたんだけど、今は仕事を探しながらフリーターをやってるそうね?」

その通りだった。進学と共に上京、卒業してそのまま都会で就職活動をしたものの上手くいかずに地元に帰ってきたのだ。

あまり触れられたくない話題だったのでつい視線をそらしてしまう。

「そうですが、、、」

俺が頷くと音さんは微笑みながら告げた。

「アナタさえ良ければなんだけど、退院したらウチの店で働いてみない?そんなにいいお給料があげられるわけじゃないけど、バイトよりはいい収入になると思うわ。」

呆気にとられる俺に音さんは優しい口調で続ける。

「ウチとしても退魔の方の仕事を知っている人が働いてくれると助かるのよ、単純に男手も欲しいというのもあるわ。」

「もし、コチラの世界にはもう関わりたくないというのなら断ってもらっても構わない。でも、アナタは多分もう因縁が結ばれてしまっていると思うの。」

「因縁?」

そう聞き返すと少女が申し訳なさそうに答える。

「壺を浄化した時にると君が見つけた羽飾り、アレが白井さんを選び、白井さんがそれに応えた。多分そこで因縁が完全に結ばれてしまったんだよ。それでも最初はちょっと霊感があがるくらいの事でコチラの世界に関わらず生きていけるんじゃないかと思ってた。」

一層少女の顔が曇る。

「でもあの事故の時の電話で確信したんだ、ボクにも聞こえたんだよ。骨董屋さんで聞いたのと同じ鴉の鳴き声が。」

言われてゾクリとした、やはりアレは幻聴ではなかったのか。

「壺の依頼は終わっても、この事件は終わってない。だから白井さんもきっとまたコチラの世界に戻ってきてしまう。それは今回よりももっと危険な形になるかもしれないって。」

少女の後を音さんが続ける。

「だからその時の為に、ウチで働きながら対応策を考えたり白井君自身の霊的な強さを高めていけば何も知らずに巻き込まれるよりはなんらかの対策が立てられるんじゃないかって。もちろん最終的な決断はアナタにまかせるわ。」

急な提案に一瞬戸惑ってしまったが、すぐに自分の中で答えが出ている事に気づく。

多分、少女が言っていた因縁が結ばれた時。

あの時にこんな運命になると俺の方も感じていたのかもしれない。

決意を込めて答えを告げる。

「よろしく、おねがいします。」


 あれから1ヶ月が過ぎた。

退院した俺はバイトを辞め、リハビリを続けた。

腕も無事に回復し、日常生活に問題はない。

羽飾りは祖母が羽が崩れない様に加工してペンダントにしてくれた、胸元にしまい前を向く。

目の前には古民家風のカフェが佇んでいる。

気持ちを新たに扉を開き、挨拶をする。

「今日からお世話になる白井和也です!どうぞよろしくおねがいします!!」

店内では2人の女性が満面の笑みで出迎えている。

「ようこそ!【雪の雫】へ!!」

これが、俺と彼女達との出会いの物語。







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【雪の雫シリーズ】(二次創作) 夜蛙キョウ @OccultFrog_Kyo

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