永遠
「思ったより大丈夫だったな」
「でも、不思議な感じです。サトルの記憶が見える」
「恥ずかしいな」
俺とエンドはケーブルでつながれた。俺はエンドを抱きかかえて、再び実験室の扉の前に戻ってきた。
「行ける気がする」
扉をたたき壊して、中に侵入する。暗い廊下が続いている。ここからは、未知の領域だ。時間は、戻らない。
「やったぞ」
「すごい。ここが、私が生まれたところ……」
いくつかのドアを開けてみたが、倉庫のような部屋ばかりだった。人の気配はしない。もう、誰もいない、セキュリティ発動以外何もできない場所になっているということもあるだろうか?
「あ、『生産室』と書かれています」
「ん? 読めるのか」
「なんか読めました」
この星の文字に関しての情報が、頭の中に流れてきた。アルファベットよりは象形文字に近い。だんだんと単語なども入ってくる。おそらく宇宙共通語が流通する以前にこの星で使われていた言語を、今俺は「理解した」。
「怪しいな」
「怪しいですね」
エンドを床に下ろし、銃を手にして部屋の中に入っていく。
「まぶしっ」
一気に光が満ちた。ギイン、という音がして何かがこちらに迫ってくるのが分かった。視線を向けたときにはすでに、何本ものアームがこちらに向かってきていた。
「サトルッ」
手を伸ばしてきたエンドごと、アームはからめとっていった。身動きできなくなった俺たちは、アームによって空中に固定される。
「大丈夫か、エンド」
「はい。ただ、全く動けません」
「すごい力だ。しかも動きがやばかった。これも生物なのか?」
何となく質感が、エンドに似ている気がする。これが、この部屋にいる何かがエンドを生み出したのか?
部屋の中央に、大きな水槽が見えた。その中には、ミイラのようになった人間が見えた。死んでいるのだろうが、どこかそうではない感じもする。首筋からケーブルが伸びており……その手にピンクのポールのような物体を抱えていた。
「エンド……多分あれが、お前の親だ」
「あれが……」
「いや、あれに寄生している、ということなのか? おそらく……実験室が進化して、そういう生命体になったんだ」
以前、そういう事例を聞いたことがある。文明が滅びた星で、無機物が意志を持つことがある、と。特にここは「実験室」と呼ばれる場所だ。元々「意志」があったはずだ。
「何のために、私を生み出したんでしょうか」
「まさに、このためだろう」
別のアーム数本が、水槽へと伸びていく。中のミイラのような人間とピンクのポールをつかんで、取り出していく。
「このため?」
「この施設は、人間を利用して生き延びている。そして、古くなった人間の代わりに、新しい人間をおびき寄せる必要があったんだ」
「それが……私の役目?」
「おそらく。そして、単に水槽に入れるだけでは駄目なんだ。子供たちと精神がつながれている必要がある。だからそうでないときは、時間が巻き戻された」
「ごめんなさい。サトル、私のせいであなたは……」
「謝らないでくれ。ある意味、今から誰も経験したことのない人生を送れると思うぜ?」
「サトル……」
「エンドは怖くないのか。次の獲物が見つかるまで、ずっと水槽だ」
「正直に言っていいですか? 怖くはないです。一人ではないから」
「いいのか? エイリアンとずっと過ごすんだぜ」
「サトルは優しいから」
アームに、水槽の方へと運ばれていく。水の中に入ると、普通に息ができなかった。少しだけ特殊技術を期待したのだけれど。
「苦しいな」
「大丈夫ですか、サトル」
「栄養になっていくってことかな」
「音楽を、感じましょう」
ケーブルでつながれているので、会話に支障はなかった。エンドは俺の記憶の中に入り込んで、音楽を探した。そして子供の頃発表会で弾いたモーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番」を聴き始めた。
「やめろよ、ヘタクソだったんだ」
「でもいい曲です」
「宇宙人もそっちが好きか」
意識が遠のいていく。そして、意識が生まれていく。俺は、実験室になっていく。命をつなぐため、新しい種を飛ばす準備をしなければならない。
夢を見ている。
地球を出てから、夢の中で夢と気づけるようになった。体質が変わったのかもしれない。
とてもいい人と出会っている。全く人生で出会ったことのないタイプの。けれども、そんな人はいないことも知っている。夢だから。
宇宙探査は、そもそも人間と合わない孤独な仕事だ。人恋しさが、こういう夢を見させるのだろう。
手をつないでいる。ともに進んでいく。僕は鼻歌を歌っている。
永遠に続く夢。
「いい夢ですね」
「そうだろう」
永遠エイリアン 清水らくは @shimizurakuha
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