第23話 見習い魔女のご近所トラブル
どうしよう。パトカーが来た。
あたふたする俺を放置して警察にタレ込む糞野郎……ていうか来るの早くない?
「もう大丈夫だ。この国一番の正義の味方に任せておけば何も問題ない」
良いことをしている。可哀想な人を助けている。そんな気持ちが透けて見える
俺が助けてくれと一言でも言ったか?
いや、言ってない。
しかもかなりデリケートな告白だったはずだ。それを本人の了承もなしに秒で
まあ全部嘘だからいいものの、もし本当のことだったら俺のメンタルはめためたになって二度と元に戻ることはなかったかもしれない。
ご飯をくれるからっていい人だと思った俺が馬鹿だった。こいつはエゴの塊だ。
ていうか警察だなんて急展開すぎる。
こうなったからには嘘を
お、そう考えれば結果オーライかもしれないな。不思議と
そうと決まればパンツの下にいくつかキスマークでも浮かび上がらせておこう。
そうだな。あとは乳首にピアスを開けられたってことで穴を作るか。さらに尺犬とは別に、服従の証として彫られた
教頭の趣味は知らないが、社会的に抹殺するならこれくらい……いや、もう少しいくか?
貞操帯、はベリーがいないから無理だ。他は……う~ん、思い付かない。
しかしよく考えたら貞操帯はできるんじゃないかと思えた。あそこを変型させるようにして、器具の部分だけ色を変えたら……お、できた!
よし、準備は万端だ。
さあ来い警察官、俺の演技力で見事教頭に冤罪を着せてやろうじゃないか。
「ここです! 助けてください竜胆さん!」
……ん? んんん? 聞き間違いか? 今、竜胆さんて言わなかったか?
ここ我らが日本、日の元の国に竜胆姓は一血族のみ。何故なら母の紫が父の勝三と結婚し、竜胆を名乗ることとなったうん百年前に、全国の竜胆さんを花に変え摘み取り、延命の薬にしてしまったからだ。
余談だけど漢方で使うようなものには、似たような由来のが結構ある……。
とにかく廊下の向こうから歩いてくるのは、竜胆家の誰か……うわっ、よりによって
竜胆家長男にして、父勝三の血を最も色濃く受け継いでいる鬼のようなヤツ。七歳のときからお茶の間を賑わせている、今をときめく偽イケオジ俳優だ。そして正月に「ん!」と圧をかけてきた三つ子の父でもある。
そういえばこの間も深夜の通販番組で力を使いぼろ儲けしていた。
ティッシュで作った
おまけに、今なら二つ買えばペットボトルの蓋が付いてきて六万五千円とかいう、ふざけた抱き合わせ商法にも拘わらず、なんと三十分で完売。売上は驚異の百五十億円を突破したらしい。
取り分は
おや?
それなら来年は三つ子にお年玉をあげる必要なんてないな。むしろ俺が
なんて考えながら
こいつには
目を擦り頭を振っていると
「連絡ありがとうフィックス君。そして君が――っ!?」
はい気づかれました。そりゃあ血の繋がりはなくとも兄弟ですから。幼い頃から修羅場を共にし、時には互いを化かし合い切磋琢磨してきた。
「なんてことだ!! ああ、可哀想に。未来ある若者が教育者の顔をした変態の餌食になるなんて」
大袈裟な動作で嘆いてみせて『俺の島でなにやってんだこの野郎が』なんてテレパシーで文句を言ってくる。
「さぞ辛かっただろう。だがもう大丈夫だ。僕が来たからにはなにも心配いらない、よっ」
んぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!
こ、こいつ……ちょっと悪口を考えただけじゃないか。なのに全力の催眠能力で、頭の中に硫酸を注がれてる痛みを与えてきやがった。可愛い末っ子になんてことを。イカれてんの――ぎゃぁぁぁぁぁ!!!
く、くそう。俺じゃなかったら即死してたぞ。
催眠は恐ろしいんだ。強力な催眠は現実のそれと同じ。言葉はちょっと違うけど、お金に執着してるゴーストスイーパーの●神先輩もそう言ってた。
つーか
きっとこいつには、のたうち回る姿ではなく感謝の涙を流して
薄情者め。聖職者の卵なんだから悪の力くらい軽く打ち消して俺を助けろっての。
「さて
あ、そういう感じでいくのね。
「先ずは証拠だ。最近じゃ写真も動画もAIだなんだって煩いから、このまま警察に行って皆に見てもらおう。記者会見も開くからフィックス君はご両親に連絡してくれるかい? できれば顔が見える通話で」
「はい!」
電話を終えると、すぐさま
運転席には危ない宗教の信者みたいな目をした警察官がいた。
「先輩、こいつらが犯人ですか?」
「いやこの子は被害者だ。署で保護するから戻ってくれ」
『どういうことだよ』
『役作りの為に警察に潜入してたんだ』
そっちじゃない。そっちはそうだろうと思ったよ。俺が聞きたいのは
『こいつは獲物だ』
うぉーーーーーい!! 何やってんだコイツ!!
乱子と通ずるところのある
『それにしてもナイスタイミングだ白緑。関係がバレて脅されててな。怠いから二人とも消すつもりだったんだが、白緑がいるなら楽できる』
二人!? いや
『勘違するな。セフレは教頭の方だ。さっきだって我慢できないからって呼び出されてたんだぞ。腕二本でも足りないって、そりゃもう凄かった』
『……は?』
教頭と、だと?
え、ちょっと待って、どゆこと? つか、え、学校で? 腕二本? フィ●トかよ!!
じゃあ関係がバレて脅されてたってのは……そんな馬鹿な。
『俺じゃなくて教頭が、な。最中に教頭が
ははぁ~ん。だからか。
いや、おかしいとは思ってたんだよ。イベリスフランクを食ったからって教頭に脅されるとか。情緒も不安定だったし、
パトカーが異常な速さで到着したのも納得。敷地内にいるんだからそりゃ速い……あれ? ならなんで教頭に罪を擦り付ける方向にいってんだ?
『俺は聖職者が肉欲に飲まれて堕ちていく様が好きなんだよ。仕事中に俺を呼び出すようになっちゃあ、もうおしまいだろ。それにあいつはストーカー気質だからな。殺さないならブタ箱にぶち込むくらいが丁度良い』
続けて
『ところでいつも一緒の二人はどうした? また喧嘩でもしたか?』
あ、シラー拾うの忘れてた。ベリーも逃走してそれっきりだし……嫌な予感がする。
見習い魔女竜胆白緑は四十六歳 173号機 @173gouki
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