雨寺:学校

(あの人の言っていた事はどういう事なんだろう)


 一号館を出てすぐそこにあるベンチへ腰かけて空を眺めながら考える。相変わらず快晴で、澄み渡る青に白い雲が映えて見える。

 考えることは多いが、緩やかに流れていく雲を眺めていると、落ち着いて考えられるような気がした。


「とりあえず、ココは異世界と」


 女に言われた事を思い出す。自分の声だけが聞こえて寂しくなったので声に出すのは止めた。


(何が起こっても不思議じゃないと)


 という事は、あの女も別に普通だと。全然普通ではないがこっちでは普通だと。そういう事であればそういう事にしておこう。郷に入っては郷に従えというやつだ。


(そして異世界に閉じ込められていて、帰るには鍵が必要。鍵を見つけるための人物も誰か分からない、か。そもそもあの女のいう事を鵜呑みにしていいのかも分からない。あ、ダメだ。これは疑心暗鬼になるやつだ)


「はぁ……」


 参った、とばかりにため息をつく。

 携帯の電波はあるもののやっぱり架には繋がらないし、折り返しがあった様子もない。


「ん?」


 そのまましまいそうになった携帯の画面を見る。


「時間が止まってる……」


 携帯の画面上では教室で見た時刻から一分も経っていない事になっている。実際はどれくらい経っただろうか。


「何があってもおかしくない、か」


 はいはい、と言いたげにため息をついて思考を切り替える。


(鍵か)


 鍵といえば事務室にあるだろうか。いや、警備室か。確か最後まで残っている時、見周りに来た警備員が鍵を閉めていたような気がする。


(あっても無くてもここに座ってるよりマシか)


 行って無ければ片っ端からありそうなところを探せばいい。そう決めて警備室へ向かった。


 大学の敷地はそんなに広くないので、学校の門の傍にある警備室までは数分で辿り着いた。

 ただ、門は施錠されていないが閉じられていて、試しに引いていてもビクともしなかった。門から見える外の道路に人の姿も車の姿もなく、設置されている信号機は誰も居ない道路に向かって規則正しく指示を出していた。


(学校の外に出るのは無理そうだな)


 諦めて警備員室の扉に手をかける。不用心にも鍵は開いており、警備員は不在のようだった。初めて入る警備室に関心を示しながらも、鍵のありそうなところを探す。


「鍵、鍵……。あ、あった!」


 意外と鍵はすぐに見つかった。問題は、それが女の言っていた鍵なのかどうかだ。


「3110」


 壁にかけられたフック上の鍵置き場にかかっている鍵は一つだけ。その鍵がどの扉のものなのか示しているのだろう付箋のようなシールには『3110』と書かれている。3号館1階の10番の部屋だ。


「3号館か。行った事無いなぁ」


 3号館は自分と同じ文学部が使用しているが、主に歴史学科が使用していると聞く。文学科の自分にはあまり関連の無い棟だ。

 とりあえず3号館へ向かう為、警備室を後にすれば、


「にゃーお」


  鈴の付いた青い首輪をした真っ白な猫が座っていた。

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世界の繋ぎ方 時田まる @tokitAmaru

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