最終話 陽光絶えず、影は有りき

 外に出ると、知らぬ間に桜は散っていた。


 だが、春とは桜だけではないのだから、未だ、春爛漫と言っても良いだろう。名も知らぬ小さな花が点々と地面に咲き、人家の庭先でも鮮やかに咲き誇るものもある。時折、花の甘い香が鼻腔を擽る。

 空気も、冬の冷たく澄んだものとは違い、むわっとした埃っぽい空気へと変化している。今は日が沈み、上着がないと少し肌寒いくらいだが、日中は暖かく、過ごしやすい気候になっているのだろう。


 宴は終わり、後片付けをする楽號と、それを手伝う芒聲さんを部屋に残し、私は如月を駅まで送っていた。起きたことに比べると、取るに足らないような、たわいもない会話を重ね、道に植わった桜の葉の青さを題材に一句詠んでみたりしていた。出来はよろしくない。


 如月と飲んだ時は、雪が降っていた。厚い上着は手放せなかったし、春の訪れを待ち侘びていた。今、こうして気が付かぬ内に迎えた春は、やはり良いものだ。何処かそわそわとして、何かを期待する気持ちが膨らむ。

 不意に思う。私達は、雲の向こうの世界へ辿り着けたのだろうか。


「嗚呼、そうだ。寄り道をしよう。ほら、前に行った公園だよ」

「良いけど、何をするんだ」

「何もする予定はないけど、別にそれは行かない理由にならないだろう」


 暮れた道すがら、私達は近くの公園に寄る。いつぞやの夜更けに、二人して燥いだ公園だ。

 公園は遊具の塗装が新しくなっていること以外は、特に代わり映えのしない様子だ。


「よし、いっちょ滑ろうか」


 如月が公園に着くや否や、真っ直ぐに滑り台へと向かって行く。そして、階段を登り切ると、頂点から此方を見下ろした。

 何処となく自慢げなその表情に、私はなんだか懐かしいような、安心するような気持ちで見上げていた。


「眺めはどうだい」

「悪くないな。あなたのつむじが見える」

「もっと遠くを見た方が良いんじゃないか」

「最近、目が悪くなって来てね。ぼやぼやとするよ」

「じゃあ、登った意味がないんじゃないか」

「そうでもないよ。あなたのつむじが見えると言ったじゃないか」

「私のつむじにそれ程の価値はないよ」

「あるさ。私はあなたより背が低いからな。つむじを見る機会なんて、そうそうないんだ。希少価値は高いよ。誇りたまえ」


 如月はにこりと笑う。私は自嘲ぎみに返した。


「誇るものかな」

「誇るものだとも。あなたにとってそれ程価値を見出せないものでも、誰かにとっては価値のあるものかもしれない。あなたのつむじは、私にとって価値のあるものなのだよ。どちらかと言うと、あなたのつむじを見られることが、かもしれないが」


 手摺に凭れ掛かりながら、如月は空を見上げた。私も釣られて空を仰ぐ。

 ぼやけた星の光が瞬く。靎巻の家とは違い、此処は周りの町明かりが強いから、星明かりは光に霞み、輝きが減っている。

 光は光によって見えづらくなるのだ。そして、影のような宵の空の内では、明瞭に輝き出すものなのだ。

 光と影の関係とは、善と悪に当て嵌められることもあるが、その実、お互いをより映えさせる関係なのかもしれない。陰と陽も、対としてありながら、同時に依存し合うものだと、何処かで聞いたことがある。


「今夜はあの子、来ないかな」


 如月が公園の入口を見ながら、呟くように言う。私は直ぐに彼女の言うあの子が誰か思い当たった。


「此処で一緒に遊んだ生霊の子か」

「そう」

「……あの子は、多分、もう来ないよ」

「どうしてそう言えるんだい」

「此処に生霊の気配はない。痕跡も。だから、あの子の生霊は此処に来ていないんだ。少なくとも、ここ暫くはね」

「それは良い知らせと思ってよいのかな」

「どうだろうね。唯、分かるのは、あの子は生霊を飛ばす必要がなくなったってことだよ」


 如月は短く息を吐き出して、また、空を見上げた。


「祈りが力を持つのなら……、いや、これはいいな。なんでもない」

「……もうオリオン座は見えないかな」

「悪いが、星のことは詳しくなくてね。天の川の言い伝えくらいしか知らないな。嗚呼、でも、星を詠んだもので、好きな歌が一つあるんだ」


 くるりと振り返って、手摺に手を掛けながら、此方を見る。知的に輝く黒目が、何かを期待するように細められる。

 私はテラスに出て来た高貴な方へ、お望み通りの言葉を捧げた。


「どんな歌だい」


 私が問い掛けると、如月は嬉しそうな顔をして、耳に心地良いハスキーな声で答えた。


「正岡子規のものだ。真砂なす数なき星の其中に吾に向ひて光る星あり」


 私に向かって光る星。思わず、天を仰ぐ。先程と変わらぬ星が散っている。ちかちかと弱々しく煌めきながら、その光は何万光年を超えて私の元へと届いている。

 それは、此方へと齎され、湧き起こる希望なのか、それとも、光るだけで届かぬ美しい絶望なのか。

 私にとって星とは見上げて見るものだった。更に言うなら、星とは誰かが見るもので、私はその背中を眺めるだけであった。だが、今、その遠い星の光を私の目が映している。私の目に向かって来た光を私は受け止めている。今この瞬間、あの瞬きは私のためだけにあるのかもしれないとさえ思う。

 そう思うと、まるで自分が何かの主人公になったような気分になって、心の奥が熱くなる。奮い立つと言えば良いだろうか、その星が味方になって支えてくれているような気がするのだ。

 もしかして、あの人々はこの輝きに魅せられていたのだろうか。


 私と同じく、また空を見る如月がベージュの唇を開く。


「有名なものだから、あなたも聞いたことがあるかもしれないな」

「いや、聞いたことないな。でも、それ凄く良いな」

「おや、どういう所をそう思ったのかな」

「なんだか、力が湧いて来るようだ。頑張ろうって気持ちになる」

「正岡子規がどのような心境でこれを作ったのかは分からない。病床に伏していた頃だったとは聞いたことあるけど、どう思って見ていたかなんて、本人じゃなきゃ分からないさ。けど、それでもこの短歌を読んで、何か思うことがあるなら、それがあなたにとっての正解なのだよ」

「元気が出ることが?」

「何でもさ。物語は自由なんだ。小説も歌も、人によっては嘘とかご都合主義とか言われるけどね。誰かにとっての救いにもなるし、絶望にもなる。その物語、文章からしか抱けない感情がある。例え、虚構の物語でも、それを読んで抱いた感情は本物なんだ。それは誰にも侵せない神域なのだよ」

「神域か。確かに、物語を通じて知った感情が私にもあるよ。大切にしたいと思うものがね」

「それだけでも、この世界に物語がある素晴らしさが語れるものさ。そう思えば、この世もマシなものだと思えて来ないか? こんなにも美しく醜いものが溢れているんだから」


 少し熱を込めて語り終わると、少し恥ずかしげに彼女は微笑んだ。そして、それを隠すように「えいや」と言って、サイズの小さい滑り台を滑り落ちて行った。

 学習したのか、足を早めに地面に着けることによって、速度を抑え、尻餅つかずにフィニッシュを決めた。服に付いた砂などを軽く払うと、彼女は次にブランコを目指した。


 やはり、サイズが何処か小さい椅子に腰掛けて、やる気のない様子で軽く漕いでいる。

 私は周りを囲む柵に浅く腰掛けた。ひんやりとした金属の冷たさが尻に響く。


「いつかの話をしようか」

「いつのだい」

「あなたが大学に入る前」

「オープンキャンパスの時かな」

「そう」


 足で押し込み、少し高くへ彼女は浮かぶ。


「観測する世界の話をしたね」

「覚えているよ」

「あなたには、この世界が今、どう見えているのだろう」


 私の見えている世界は、一年前と同じだろうか。


「自分の世界は、酷く小さいものだって分かったんだ。私は色んな人の世界を覗くことが出来るからね。でも、そのお陰で、自分がどういう者かという問いに対するヒントを得られた気がするよ。つい最近まで、その世界に飲まれていた奴が言うのもなんだけどさ」


 より高く、高く、彼女は飛ぶ。


「それは戻って来られたから、もういいさ。それで、そのヒントってどういうものだい」

「この世界には多種多様な人がいて、多種多様な想いがあって、それは確固たる存在としてあるものもあるし、交わりの中でだけ形を為すものもあるし、流動的であることが本質なものもあるってことに気付けた。本当に様々なんだ。その中で、私は何に近いかな、何と違うかな、どうありたいと思っているのかな、こうすべきと考えるのは何故だろうなって考えたんだよ」

「答えは出たのかい」

「どうだろうね。でも、私はやはり、手に入れた記憶達を大事にしたいんだ。彼等の記憶も、私の記憶も。どちらも守っていきたい。それが自分のしたいことで、やらなくてはならないという答えを出したよ。ちょっと前までは、離れ離れの人がいなくなるようにって願望で動いていたけど、これは叶ったから」


 靴の裏が見える。今にも飛んで行ってしまいほうな、ブルーグレーのパンプスが空を切る。当たってしまったら怖いから、私は少し横に逸れた。


 如月は共振を止めて、振り子の動くままにしている。気が済んだのだろう。振り幅が緩やかになるにつれ、彼女の顔が見えやすくなる。


「あなたがこれから目の当たりにする出来事は、恐らく現実的なもので、酷く面倒なものだろう。一年の歳月は、あなたの意識があろうとなかろうと、過ぎて行ったのが事実だ。そして、この社会の多くは途切れずに継続しているものを重視する。そういう面で、あなたは何か不利益を被るかもしれない」

「確かに、大学とかどうなってるんだろうとは思うけど」

「でも、覚えておいてくれ。私達はあなたの味方だ。あなたを大切に思うし、あなたの意思を尊重する。あなたが苦しむ姿は見たくないけど、あなたが何かを乗り越えられたら嬉しく思う。一人で戦う必要はないんだ。そう思う人々が傍にいることを、どうか忘れないでいてくれたまえ」


 少し戯けた口調だった。だが、それは裏腹な真摯な言葉であると分かったから、私は静かに頷いた。手渡された想いを胸に仕舞い込みながら、私は唯、頷いたのだった。

 それを見て、彼女は柔らかく微笑み、私へと腕を伸ばした。私はその腕を掴み、彼女を立たせる。

 そして、やけに近くなった顔の距離に可笑しくなって、耐え切れなくなったように笑い合ったのだった。


「ずっとお礼を言いたかったんだ。私は貴方に沢山救われて来たから」

「救った覚えはないな。私は神様でもなんでもないしね」

「でも、私は救われたんだよ。貴方がくれた言葉で、何度も。貴方にそのつもりがなかったとしても、それに対して抱いた思いは本物なのだろう?」

「その通り」

「だから、伝えさせて欲しい。ありがとう。もし、私が此処にいることを、貴方達が喜ばしいと思ってくれているなら、それは貴方が何度も救ってくれたお陰なんだ。だから、私は此処にいられるんだ。何もかもをまだ諦めずに進められるのだってそうだ。貴方のお陰なんだよ」


 私の辿々しい言葉を、如月は微笑みながら黙って聞いていた。初めて会った時も、微笑んでいた。


「貴方から手渡される言葉は、いつも私の世界を広げてくれる。そして、私を守ってくれている。だから、ありがとう。如月と友人になれて、嬉しく思うよ」

「ふふふ」


 如月が上品に笑う。少しぐだぐだとした話し方になってしまったから、不恰好な感謝になってしまった。


「あなたは本当に、そういう所が実によいものだと思うよ。……私の言葉があなたによい影響を与えられたなら、それはよかったと思う。あなたを思って言ったこともあるからね。あなたの道行きは平坦ではなかったから、少しでも力になれていたら嬉しい。でもね、私もあなたから貰ったものがあるんだ」

「あげたもの?」

「見えている世界を受け入れることが出来ないでいた私に、あなたは友達のままでいたいと言ってくれた。それがね、凄く嬉しかったんだよ」


 少し恥ずかしげにはにかむ。


「自分を認められたような気がして。そんな自分でもよいのだと思わせてくれた」

「私もそうだよ。あの観測する世界の話で、私の見えているような世界があっても、私がそこにいても良いんだと思えたんだ。気持ちが楽になったんだよ」

「私達は何処か似た所があったのかもしれないね」


 人を救えるとは言えない。あまりにも身が過ぎる。だが、全て見て見ぬふりをすることも出来ない。それ程の強靭な意思を持ち得ない。だから、それが誰かにとってのほんの指先程度でも助けになれたのなら、嬉しいと思う。


 きっとこれからも暗がりの中、ゆるりとした絶望に足を浸けながら、私は空を仰ぐ。そして、賑やかな声に引かれて振り向き、人を見る。この身は人ではあらねども、人の中にあり、手を伸ばせば誰かへと届く。


 彼女が腕を差し出す。

 私も同じく腕を伸ばして、如月の手を取る。


「それじゃあ、これからも」

「嗚呼。よろしくということだ」


 繋がれた手は優しく、固い。いつかは離れるその手でも、今だけは繋いでいられる。それは、きっと多くを乗り越えて来たからこそ、これ程の価値を持つ。


 少し気恥ずかしくなって、彼女の顔を窺う。すると、酷く柔らかく微笑む彼女の顔があった。初対面の時よりも、大分打ち解けた自然な笑顔だ。

 私はそれを得難いものだと思った。愛おしいものだと思った。


 今、私の手にあるものを、一つも溢したくない。人と関わる度に大切なものが増えていく。かつての私であれば、考えられない程に多くのものを見て、触れて、掌で掴んだ。

 いつかは全て等しく終わりを迎える。

 それでも、それがある今を大切にしたいと、失われる時までずっと持っていたいと願う。


 悲しみがあった。苦しみがあった。喜びも怒りもあった。されど、無慈悲に朝は来て、光は絶えず注ぎ、影が生まれる。

 終わりが見えぬ程の繰り返しの中で、悲嘆に暮れることも、希望に満ちることもある。そのどれもが、今の私を形作るもの。時に無用だと思える出来事もあれど、忘れたくないものが沢山ある。

 絶望を照らす光も、安らかな影も、光を霞ませる光も、飲み込まれるような影も、どれも唯、そこにあるもの。どちらの要素が欠けても、それらは成立しない。

 最も肝要なのはバランスだと言ったのは、楽號だったろうか。


 長くて短い旅路は終わりへ向かう。遠からず失うこの身は、未だ此処にあり、遅々と歩みを進める。


 いずれ滅び行く光と影の世界の中で、私達は今を生きていく。





 ─────────────────────




 安らかな無意識の集合体が眠る根底にて。

 約束のために形成された自律型の模倣人格は、記憶の海に未だ有り。かつての主人格と時に重なり、混合しながらも、私は此処にいる。


 陽光注ぎ、影は映える。


 時に穏やかな微睡みを、時に激しい移ろいを、私は長く短い生の中で感じて来た。与えられて、奪い取られて、その繰り返しの中で光を見出したり、面影を垣間見たり、背後について回る穏やかな手を振り払ったり、遠のく背中を黙って見送ったり、それらは鮮やかに今でも頭の中に蘇らせることが出来るが、その全ては既に過去のものである。

 最中に確かに感じた永遠さえも、いつかは消え去る刹那に等しく、夢幻が如く、この身もやがては朽ちて土塊となる。


 時の流れは平等だ。終焉も同じく。


 私はそれを知った。夢現の狭間で知った。


 形有るものは、必ず崩壊する。

 この世の摂理は今尚、健在だ。


 それでも、この世界は在る。依然として朝が来て、人は続き、花は咲き誇り、鳥は羽ばたく。宵が訪れ、星が瞬けば、皓々と月が照る。そして、歌が生まれる。形有るものも形無きものも、幾重にも互いに結び付くそれらは、終わりの先へ種を落とす。而して、大地は有りき。


 繋げられた生は、幸か鎖か。その連なりは意思か、現象か。私にはまだ答えが見えない。冥闇の道行きは尚、無明の内にある。長き夜にも似たそれに明かりを灯すものがあるとしたら、それは如何なるものであろうか。


 一粒の想いからは、万の言葉が芽吹く。しかし、言葉にならぬ想いもあればこそ、多様な有り様が斯くしてある。

 私には私達の世界があるように、それぞれの数だけ観測される世界がある。各々が身の内にあるもの故、広きも狭きも、明きも暗きも比較出来るものではない。触れたと思った所で、輪郭にさえ触れられぬことさえある。と思えば、心奥に爪を立てることもある。

 繊細で大胆で、重なり合うことも、反発し合うこともある。それこそが関わりというものだったのかもしれない。


 それは、なんと美しきものか。

 眼に映るものではあらねど、その輝かしきは確かに、木漏れ日のように柔らかくあって、また、火炎のように荒々しくもあって、人の想いとは斯様なまでに色鮮やかで、それでいて色褪せていて、霞みながらも、星が如くきらきらしくある。

 例え、いつかは朽ちようとも、今、此処に芽吹く煌めきは、確かに此処に在る。


 胸の内より辿る記憶達は、変わらぬあの日を繰り返している。言葉を掛けて、手に触れて、その程度では何も変わらない程に意思は強く、それでも私は繰り返し行ったり来たりするのだ。自他の境界線を引きながら、見失いながら、誰かの中へ、誰かの外へ。そうしていく内に私達の輪郭は露わになる。そして、いずれ辿り着く終焉へと近付く。


 それでも、人の深層には届かない。


 忘れ難いことがあった。忘れ難い人がいた。

 自ら閉じた道の果てに、過ちを認め、去って行く人がいた。束の間の語らいも、真実との葛藤も、償いの誓いも、それらは私の触れて来なかった新たな世界だった。琴線に触れたのは、彼女の花のような微笑みで、私の胸に満ちたのはそれだけではなかったが、私はそれを守りたいと思ったのだ。また、それを見たいと思ったのだ。何も持たず、何も成し得ない私が、それを叶えたいと願い、走った。

 もしかしたら、最善の結果は他にあったのかもしれない。矮小な私の出来ることなどたかが知れているとしても、まだ、出来ることがあっただろうと、己に期待を寄せる。瞼に焼き付くあの花を、手折られたあの花を生ける方法が。


 否、救いなど烏滸がましく。しかし、私を忘れないだろう。目に映る景色が幾度移り変わろうと、この胸に宿った火の温度を覚えている。


 記憶はこの身に残っている。

 我が身のことのように手に取れる。

 自我が去った後も、私は此処に有り、思考を続けている。故に、私も自我として存在するのだろう。彼女の言うことに従うならば。


 人生は物語に似ている。だが、物語のように消費してはならない。それでも、語り草と言う言葉あるように、いつまでも唇に乗せられ、芽吹く草のように後の世にも語り継がれるものはある。


 いずれ、私も何かを語ろうか。忘れ去られることなく、此処に唯在る物語の幾つかを。


 嗚呼、そうだ。では、一つ、語ってみようか。


 見えぬものが見え、記憶を失った者が、その記憶を取り戻し、得難いものを手に入れた物語を、貴方は知っているだろうか。





                     ── 完 ──





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有形のコラプス 宇津喜 十一 @asdf00

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