第6話 ピアス・ホールを覗いて
それからというもの。
彼女の精神的なダメージは中々癒えず。
住宅街の坂道では、震えが止まらなくなった時もあった。
「なんで……」
泣き出してしまった彼女が落ち着くまで、傍に居た。涙を拭うハンカチを渡しながら、自身の心が描くは地獄絵図。彼女の心を傷つけた犯人が目の前に居るなのら、その鼻、耳を食い千切ってやりたい。
格闘技を始めた。守れるように。
大学受験もあった。
示し合わせたように同じ大学を希望。
彼女が心配だったのもある。
彼女の塾に合わせて、その待ち時間で道場に通った。
生来、運動神経は悪くなかったが人を殴ったりといった暴力が向かなかった。鍛えれば鍛えるほど、心の中で何かが欠けていくのに気付かなかった。
程なくして二人とも同じ大学に進学した。
彼女は進学を
僕自身はというと見た目的な変化は無く、前向きに立ち直ってゆく綿貫に置いて行かれた様な気がしていた。
それでも、二人で過ごす時間は変わらなかった。
時間を見つけては、映画やライブそんな話で盛り上がった。
明るく、強くなっていく彼女。
暗く、
いつからか、彼女はまた笑うようになった。
嬉しかった。なのに僕は笑えなくなっていた。
怪我をした。交通事故だった。
左手小指、薬指の欠損。左目の失明。
「警察官になれない?」
そのことを知らされたとき、『もう彼女の
失敗した。
生き恥を
「ごめん」
病室に綿貫が駆け込んできた時、一番に口から出たのは謝罪。こんなゴミが生きてしまっていることへの。
「……許さない」
肩を震わせ、目尻にいっぱいの涙を溜めて。
君は僕は許さなかった。
「何でさ、せっかく命助かったのに死のうとするの?」
あぁ、また泣かしてしまった。
「危ないことしないでよ」
「そうだな。事故は気を付けなくちゃいかんな」
「それだけじゃない!」
聞いたことが無かった。
彼女の大声。
「
「……」
「道場行った後、傷だらけになってる見るの辛かった!」
がむしゃらに練習して、組み手の際には手段を選ばなかった僕が気に入らなかったのか。道場の先輩方にボコボコにされていた。
「事件があった日から、ずっと怖い顔してた」
「え?」
彼女の前では取り繕ってたはずなのに。
「私さ、頑張ったんだよ」
知ってる。
一番辛いのに、それでも立ち直れた君に僕は必要無いだろう?
「格好とかさ、強く見せて。
「それは君が強いんだよ」
僕を置いていくほどに。
「違う!」
張り裂けんばかりの声は、彼女の感情の表れか。
「
思考が止まる。なんで?
僕は君に何もしてやれなくて……
「それなのに勝手に死のうとして、そんな事するならもうこれいらない!」
そう言って彼女は耳からピアスを外し、床に叩き付ける。大学に入ったとき、彼女がピアスを付けたいと言っていたため贈ったピアス。
二人で選びに行った。
君がそればっかり見てるもんだから、初めてのバイト代全部このピアスの購入に突っ込んだ。
乱暴に引き抜いたのか、彼女の耳からは血が。
肩で息をし、ボロボロと泣く君を見て。
「あ」
やっと自分の馬鹿さに気づけた。
綿貫の格好、染めた髪とピアス。
一番最初、彼女に借したCDのアーティストの姿にそっくりで。
君の悩みを、思いを
また彼女を泣かせるのか。
彼女の手は、ベースの練習で指の皮がむけてた。
僕の手は、
「
彼女の名前を呼ぶ。
「僕は小説家になりたい」
今更だけど間に合うだろうか。
憎悪にまみれて、狂い墜ち。
自分の夢すら
でも、君がくれた夢への憧れを断ち切ることなんか出来なくて。
彼女が教えてくれた本の世界を、物語を自分も作ってみたかった。
「ごめん、僕が間違ってた。もう大丈夫。自殺なんかしない」
忘れていた笑い方。
久しぶりの笑顔は、多分酷いものだっただろう。
「新人賞で賞金を取る。その時、またプレゼントさせてくれ」
ピアスを拾い、彼女に渡す。
左手薬指の欠損部分を包帯越しに君が触る。
「次は指輪にして」
酷く
「痛ってえぇ!!!」
君の笑顔とともに却下された。
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